【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 19
「おお、なんだ、こっちは楽しそうじゃないか!」
笑いに誘われたのか、隣で酒盛りをしていた2人の兵士が、弟成たちの輪の中に入って来た。
場は、一瞬にして冷めた。
「おい、お前らも飲まんか?」
兵士は、酒杯を波多の顔の前に突き出した。
「いえ、自分は……」
波多は、申し訳なさそうにこれを断った。
「なんだ! じゃ、お前、飲め!」
今度は、馬手に杯を突き出した。
「いえ、自分も……」
「なんだ、なんだ、俺の酒が飲めねえてえのかよ!」
「いえ、決してそんなことは……」
「じゃ、飲め!」
「しかし……」
酔っ払った兵士は、なおも勧める。
弟成は眉を顰めた ―― よっぽど言ってやろうかと思った。
だが、彼よりも前に、それを口にした男がいた ―― 黒万呂である。
「止めてもらえませんか・ 俺ら、酒飲めないんですよ」
黒万呂のその言葉に、馬手たちは青ざめる。
黒万呂の目は本気だ。
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