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[映画レビュー]流浪の月〜''目で見たものでしか物事を判断しない社会''へのアンチテーゼ〜


素晴らしかった。
上映が終わってからもしばらく席から離れられなかった。

巷によくあるような、多くの公開作品にある人気俳優さえ使えば客は喜ぶと勘違いしているみたいなシーンは一切無くて、

例えば広瀬すず演じる更紗を可愛らしく撮ることもなく、

多部未華子演じる役を必要以上に良い人にすることもなく、

松坂桃李や横浜流星演じる役をカッコよく映すこともなく、

つまり、誰々を起用しただけが売りの映像ではないということ。

長野のロケーションも物語と相まって美しかった。正に映画館で観るべき映画だった。


脇役の2人の演技が割と印象に残っている。

趣里演じる更紗の同僚も彼女を利用して子供を預けっぱなしにすることで結果的に文を社会的に葬ってしまう。
彼女は悪いことをした意識は決して持っていないはず。それどころか今後、被害者意識すら持ちそう。そんな未来まで感じさせてくれた。

三浦貴大演じるやさしい店長、けれどもドラマみたいにあり得ないほどお節介に主人公を助けることもなく、気の毒に思ってくれているみたいだけれどそこまで。そこがリアル。。


今回の事の発端は"母親"であると感じた。母親は子供の自己肯定感や行動に大きく影響を与えると深く思った。更紗、文、亮、がああいう人間になってしまったのも彼らの母親に多少の原因があると思う。

幼少期に一生忘れられない事を刻まれてしまった子供は大人になっても苦しいし、自分の理想の愛情を求め続けるのかもしれない。



そして更紗と文の関係について個人的に思ったこと。

更紗は他人との性的な交わりを求めない女性で、文は男性としての性機能が不全な男性だ。
一見、相性の良い組み合わせにも見えるが、ここが危険だと感じた。

更紗と文の関係はおそらくそこまで長くは続かないのではないか。なぜなら2人が異性に求めてるものが違うからだ。

更紗は相手に求められればそういった関係に必ず応じないわけではないが、内心は嫌がってるし、文もそのことを分かっている。
対して文は女性とそういった関係を結ぶことはできないが、内心は結びたいと思ってる。そんな彼の苦しみを更紗も知ってる。

要は肉体的には男性を受け入れられるが、気持ちが受け入れられない女性と、肉体的には女性に受けいられることはないが、気持ちは受け入れられたい男性の組み合わせなのだ。さすがにお互いしんどくなるのではないかと個人的に思った。


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