小さな町の風景

あの坂を上れば

中学1年生の国語の教科書の一番最初のお話に
「あの坂を上れば」という
短いお話がありました。

それは少年が、幼い頃に聞いたおばあちゃんの話
「うちの裏の山を一つ越えたら 海が見えるんだよ」
という、その話を信じて
成長した少年が、あるとき決心して海を見に旅立つのだが
いくつ山を越えても、まだ海は見えない。

とても詩情豊かな物語でした。

もう30代だったかな・・・。
津田沼の駅前で、僕はタイコを叩いて歌っていました。
独身ニートの無許可の路上音楽家です。

そこへ懐かしい、中学の友人(親友と呼べる仲良しだった)と
ばったり出くわし、居酒屋で飲みました。

彼は結婚、子どもも2人いて、家を建てて、
大手の会社関連に就職。
などと言われながらのよくあるブラック。
残業残業の日々。らしい。

ふと彼の口から
「いやぁ いくつ山を越えても
まだ海が見えてこないんだよね」

彼の中にも、あの物語が残っていることが嬉しくて。
「憶えてる?」と聞くと
「憶えてる」と。

彼は中2くらいからだんだんとヤンキーグループの方へ
グレていって、学校にもあまり来なくなって
僕はさすがに暴走族とかまでは染まれず
だんだんと僕らの距離は離れていったのでした。

そんな彼と響き合えた「あの坂を上れば」。
中一の、誰もがまだマジメに授業を受けている
そんな僕らを知ってか知らずか、
贈られた愛おしい宝物になりました。

僕の中にもずっと残っていて
拙い若かりし日々の詩にも
今の詩にも
当たり前のように綴っています。

物語の残像だけでずっと暮らしていましたが
20代のある日、ブックオフで物色していたとき
「小さな町の風景」という
タイトルもブックカバーの絵も
なんとも素敵な本を手にして
ジャケ買いしました。

8篇ほどの短い物語で綴られているその詩画集は
ジャケットの印象のとおりの
色鉛筆のような、水彩画のような、
風景を、淡くもしっかりと
鉛筆で輪郭をとらえたような
愛おしい風景たちでした。

その中に、この「あの坂を上れば」が
入っていたのです!

はじめて、著者が杉みきこさんという方と知りました。

僕は本当に、この杉みきこさんという方の
贈り物をいただいて歩んできた人生なんだな
と思います。

またこの数年後、ふとネットで検索してみると
同じように、中1でこの物語に出会って
自分の人生の一部として歩んで来られた方が
たくさんいるようで。

だいぶ大人になった今、
こんな贈り物を少年少女に届けられたらいいな。
そう想います。

大人になっても、
大人になるほどに、
学校で学ぶことの無駄さ加減を感じます。
本来の人のチカラを封じるために
学校は在るんじゃないかとも。

そんな魔の手にかかって
この先何度もくじけるであろう未来に
こっそりと魔の手をかいくぐって
忍び込ませてくれた
教育関係者からのプレゼントのようにも
想えます。

最後に、この全文を載せると
著作権的にどうかと鑑みてしまうので
ネットで見つけた
全文を載せてあるどなたかの古いブログに
リンクを貼らせていたたこうと思います。

もし「あの坂を上れば」で
同じような経験をされている方がいたら
コメントいただけたら嬉しいです。

数年前から、この物語を暗唱して
ウクレレを奏で弾き語るということもしています。

よかったら聴いてください。

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,553件

うたが、音が、言葉が、 もし心に響いてくれたなら サポートいただけたら嬉しいです。