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至極のギャグを交えて病み期の話をする Part5(最終回)

どうも、ひらおです。

この記事はPart5(最終回)です。

Part1〜4をまだお読みでない方は
ぜひこちら↓から先にお読みください。

Part1

Part2

Part3

Part4

「09 破綻そして診断」

どうにか就活を終えた俺は、死期の近い猫のように、部屋で丸くなって過ごした。

仕事が始まるまでは、無理に出かける必要はない。頑張らなくてもいい。
そう思うと、果てしない疲れと安心感、そして虚無感が押し寄せてきて、とても身体を起こせる状況ではなかった。

同級生は卒業旅行に行ったりするらしい。
時々見せてもらった写真はどれも景色がきれいで、皆楽しそうで、少し吐き気がした。

冬が過ぎそして春が来た。

卒業式の日。
彼女が「おめでとう!」とメッセージをくれた。書いていなかったが彼女はひとつ先輩なので既に卒業している。

どう考えても「ありがとう!」と返す以外ないところであるが、俺はろくでもないことを言って彼女を困らせた。

「正直、嫌だなって思う。
楽しく学校に行っていたのに、ある日突然眠くなって、悪い夢をいっぱい見て、気がついたら卒業式だったんだよ。
何も嬉しくない」

ああ、もう!
「こんなカレシは嫌だ選手権」があったら上位入賞間違いなしだ。
よく別れずにいてくれたと思う。
あなたは「こんなカノジョがいいな選手権」優勝だよ。

そして、仕事が始まった。

「やりたいことをやってほしい」という彼女の言葉を守れているかどうかは、正直怪しかった。

やりたい仕事なんて、何もなかったから。
「なるべく嫌じゃないこと」「少しでも向いてる可能性があること」を探したつもりだった。
でも本当は「何もしたくない」という気持ちが一番強くて、ずっと眠っていたかった。

時間にしたら結構休んだのに、俺の心はまだまだ回復しきっていなかったんだな。

そんな状態で仕事のストレスに耐えられるわけもなく、
少し良くなっていた体調はまたみるみる悪化していった。

せっかくなので仕事内容も多少書こうと思ったのだが、辛い時期だったせいかあまり思い出せない。

かろうじて覚えているのは、研修中に
「君の手で『最強』を掴めーーHIRAOじゃんけんプログラム」
とかいう頭のおかしいゲームを作ったことだ。

じゃんけんの手を選択し、敵がランダムで出す
『鋼鉄のグー』
『鋭利なチョキ』
『大いなるパー』

に勝利するというただの運ゲーである。

しかし細部を作り込んでおり、
たとえばチョキに勝つと「私に切れないものがあるとはな…」みたいなセリフを言ってくれる。
どうせならオリジナルボイスを付ければよかった。

…遊んどるやんけ!

これだけは覚えてるということは、
これだけは楽しかったんだろうな。

しかし残念ながら他の業務は楽しくなかったため、
心は簡単に悲鳴をあげてしまい、また身体を起こすのがしんどくなった。

また長い悪夢を見るのは、嫌だ。

俺は病院に行った。
辛いときには人に頼ること。
虚無だった数年間で学んだ、数少ないことだった。

「診断名としては、『重度睡眠障害』ということになります」

俺はそこで初めて、自分の病名を聞いた。

「10 夜明け」

病院に行こうと思い立ったものの、
俺は自分が病気だとは自覚していなかった。

症状も学生時代よりかなり良くなっており、
話を聞いてもらって終わりだろうと思いながら、待合室で呼ばれるのを待っていた。

だから、病名を伝えられたときは少し驚いたが、
お医者さんの言葉は不思議なほど腑に落ちた。

睡眠障害。
重度睡眠障害。

頑張っても、頑張っても普通のことができなかった数年間の思い出が走馬灯のように蘇った。

そうか。俺は病気だったんだな。

「ーーこれから、病気についてご説明しますが。
その前に、平尾さんにお聞きしたいことがあります」

お医者さんは言った。

「5年後、あるいは10年後。
あなたはどうなっていたいですか。
どんなことをしたいですか」

あぁ、なるほど。
俺、死ぬと思われてるんだろうな。
だから、希望を持たせるためにこんなことを聞くんだ。

でもなぁ。
俺は固まった。

やりたいことは、見つからなかった。
仕事はもう辞めたい。
なんなら生きるのも大変だ。

俺自身の「希望」はその瞬間、何も出てこなかった。

でも、強いて言うなら。
ひとりの顔が浮かんだ。

「家庭を持っていたいです」
俺は答えた。

彼女が俺とーーこんな状態の俺と、結婚したいと思ってくれていることは知っていた。
その気持ちに応えたかった。

「そういう相手がいらっしゃるんですね。良いと思います。一緒に頑張っていきましょうね」

本当の戦いが始まったのは、その日だったかもしれない。


それから。

俺はお医者さんと相談しながら、自分の状態や睡眠について学んでいった。

なにせ睡眠障害なので、なかなか予約した時間に間に合わない。
キャンセル料で貯金は減るし、治療は進まない。

嫌になりかけたが、それでも少しずつ進んでいった。


当時のぐちゃぐちゃな睡眠記録

「まだ眠っていたいのに日光で起きてしまう場合は、アイマスクが効果的です」
「後頭部を直接保冷剤などで冷やすのも良いですね」

お医者さんからもらったアドバイスはすべて実践した。
もちろん即解決するわけでもないが、一定の効果はあった。

また、時々課題をもらった。

昼に寝ても良いが、夕方はなるべく起きること。
1日1回、外出すること。

出される課題はとてもシンプルだったが、俺はなかなか達成できなかった。

特に、1日1回の外出。これが難しい。

何しろ調子が悪いと、家の近くの図書館に行くのさえしんどいのだ。
しかも本を手にとっても、脳が動いておらず、内容が入ってこない。

そこで俺は行き先をドーナツ屋に変更した。
これが当たりだった。食欲と勝負欲は残っていたのだ。
フレンチクルーラーをひとつ頼み、延々と天鳳を打った。

仕事は結局、辞めてしまった。

(仕事を辞めたらいよいよならずものになる、結婚できなくなる)
という意識があって、だいぶ粘ったのだが。

俺が病院に通っていることがどこからかバレており、
「ああいう精神科みたいなところは、患者がいるほうがお金が入るから適当なことを言うんだ。
本気にするな、頑張れ」

とかいうなかなかやべえことを社長から言われ、
もういいかな、という気になってしまったのだ。

どうせ続かなかっただろうし、
心のことを考えれば、正解だったと思う。

ただ、社会的には大打撃だった。
時間を経て、動けるようになってからもう一度就活をすると、いよいよどこも受からなくなっていた。

ここに書けないような、心ないこともいろいろ言われた。

長い、夜だったなあ。

俺の症状は、「完治する」ようなものではなく、
よくなったり悪くなったりしながら、少しずつ「普通」に近づいていくようなものだった。

もう頑張れるかな、もう少し休んだほうがいいかな。

対話を繰り返しながら、朝が来ると信じて歩いていく。

道のりは果てしなかった。
でも、待ってくれている人がいたから。
そこに向かって歩くと決めたから。

やがて俺は子ども関係のアルバイトを始めた。
そして働きながら勉強して、保育士の資格を取った。

友達には、さも最初の会社から普通に転職するかのように報告した。

俺は見栄っ張りなんだ。ほとぼりが冷めてからじゃないと、弱みをなかなか見せられない。
優しい人は周りにいっぱいいるのに、バカだな。

辛いこと、しんどいことで埋め尽くされていた景色は、
いつの日からか彩りを取り戻した。

夜が明けたんだと思う。

俺は彼女と結婚し、娘が生まれた。
もう1歳になり、独自の言葉でおしゃべりをしている。
かわいい。間違いなくかわいい。

麻雀プロにもなり、勝負の世界で生きることもできている。
楽しい。最高に楽しい。

でも本当はまだ、怖いのだ。
寝付きの悪い夜は時々、考えてしまう。

またあの悪魔が襲ってきたらどうしよう。
大事な対局に起きられなかったら、すべてを失ったらどうしよう。

あいつと再戦して勝てる自信は正直、ない。
だからこそ、「楽しい」と言える人生があることに感謝して、
今を精一杯、生きたいと思う。

最後に。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
暗い内容も多い中で、よくついてきてくれました。

皆様に伝えたいことがあります。

あなたが生きているのは、あなただけの人生です。

あなたがもし、やりたいことがあるなら。
ぜひ思い切り、やってほしい。
すぐは難しいことなら、やれるように準備をしてほしい。
やりたいことを叶えていく人生はきっと楽しいです。

あなたがもし、やりたくないことをやっているなら。
なるべく、辞めてほしい。
少なくとも、長期間続けないでほしい。
無理に思えることでも、「いやいや続ける」以外の解決策がきっとあります。

あなたの心と身体を、あなたのやりたいことをやるためだけに使ってください。
ただし、「やりたいこと」は変化することもあるので、時々見直すこと。

あなたの健康や気持ちを犠牲にしてまでやらなければいけないことはこの世にありません。
あなたの人生は、あなたが創る権利があります。

またお互い健康に、お会いしましょう。

それではーー

♪テッテテテレレレ、テンテンぱふ!
(笑点の音楽)

なーーにが悲しくてこの感動的な流れでクソみたいな至高のギャグコーナーを入れなきゃいかんのだ!

まぁしょうがないね。そういうシリーズだからね。

えー、皆さんの周りに髪の毛が薄い方はいらっしゃいますか。

かくいう私もそろそろハゲを気にすることがあるのですがね。

たとえばつるつるだった上司がある日突然フッサフサのロン毛になったらどうしますか。

多くの人は「あっ…」と察して特に触れないのでしょうが、
あえてここは「髪、素敵ですね♪何があったんですか」って聞いてみましょう。

きっとこう答えてくれるに違いありません。

オウ!イッツァ!

ロンゲストーリー!!!!

……!!!!

なんでこんなコーナーをマストにしてしまったんだ。
嫌だ嫌だ。このシリーズ終わってホッとしています。

ではまた、違う記事で!
おしまい!!

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