百物語4話目「河童のおばあさん」(実話)
※追記あり
前回までの話――。
一階の病室から律儀にベッドひとつひとつに順次現れていた女の幽霊。ついに二階の巡回を終えて、母のいる三階へと来る夜、私は無情にも母を置き去りにし、翌日わくわくしながら何があったか聞きに来た。
「来なかったよ」
「えっ!」
現れるなら、入り口左の母か、右のおばさんのはずだが、それ以来、ぱたりと女の幽霊は病室に現れなくなった。
さて、この病室の入り口右に入院していたおばあさんは、家に残してきたペットをしきりに気にしていた。
「エサをあげてないから……」
どうやら外飼いのようで、毎日餌をあげていたらしい。
野良猫とか野良犬かと思うじゃん。
でも、おばあさんは、それを河童だと言った。
おばあさんは川のすぐそばに住んでいる。
私の故郷は進撃の巨人の作者諌山先生と同じ天領日田だ。そこにはやがて筑紫次郎へと流れていく三隈川がある。
その三隈川がおばあさんの家の裏に流れていて、おばあさんは家庭菜園で作ったキュウリとかトマトをざるに入れて、庭に置いておくのだそうだ。
すると、ちゃんとかじったあとをつけていくんだと。
※追記
なんでも、ちゃんと水かきつきの足跡もついているんだそうだ。それが川まで、点々とつながっているって――。
おばあさん的には河童がいるいないとかの段じゃなくて、確実にいる前提で話していた。
三隈川流域にも河童の伝承はたくさんある。私も小さい頃から聞いて育った。でもさすがに実際の生き物とは思っていない。
でも、そのおばあさんは実在の動物の一種のように河童を語る。
そして、自分がいなくてエサをあげる人がいないからどうしているかと真剣に心配してるのだ。
そこで、ハタと気づいた。
ああ、そうか。
女の幽霊は河童が連れていったんだ。
この優しいおばあさんに害をなさないように、いつもお世話になっている恩返しに、河童ならそれくらいするだろう。
※「超」怖い話「彼岸都市」に採話されたものを、私の体験なので、実際のところで書いております。
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