「風呂酒日和」第二話 お風呂編:クラブ湯 #創作大賞漫画原作部門
中野坂上の駅を出て歩き出す。
この通り沿いにあるクラブ湯。なんだかドキドキする名前だがどんな銭湯だろう。大通りではないものの、ぽつぽつとお店が並ぶ小道を進む。
クラブ湯に到着。
男女で入口が分かれているということは、ここは番台スタイルだ。今のところ妄想していたクラブ感はまるでない、趣のある銭湯。
扉を開け番台のおばちゃんにお金を払う。
すぐに脱衣室が広がっているのだが、ロッカーで空間がうまく区切られている。着替えていても番台が目に入らないし、ちょっとひっそり感があっていいかも。
浴室は何人か先客がいるようだったが脱衣室は貸し切りだ。ロッカーに荷物を入れ、ゆっくり身支度。
浴室へ入ると突き当たりに大きな赤富士が。壁にペンキ絵、奥に浴槽、手前に洗い場のオーソドックスなレイアウト。
洗い場は全て固定シャワーで左端に立ちシャワーが2つ。うんうん、ザ・町の銭湯って感じ。備え付けのシャンプーとボディソープも嬉しい。
体を洗って早速浴槽へ。浴槽は3つ。
一番右が小さくて深めの「あつい湯」。真ん中はジェットなどがある広めの浴槽。ここがメイン浴槽と思われる。
そして左手前に「ぬるい湯」。中が緑色に光り波打っている。あつい湯、ぬるい湯という表記がなんとなくゆるかわで好き。
まずはあつい湯から入ってみよう。
うーん、ぴりぴり。あつーい!
でもゆっくり入ればなんとかいける温度。ふぅ...沁みる〜。
あぁ、これだから銭湯って最高なのだ。
目の前には達筆な文字で注意書きが書かれている。綺麗だなぁ。
最近手書きで文字を書く機会が減り、たまに書くとなんかへにょへにょしちゃうんだよなぁ…なんて、自分の字を思い出す。
ふぅ、熱い。隣のメイン浴槽へ移動。
ここもあつい湯と同じくらいの温度だ。昔の銭湯でたまにある、分かれていると見せかけてよく見ると中の壁が抜けていて実は繋がってる罠。これ、いつも思うけどなんで繋がってるんだろう。
というか繋げるのであればなぜ区画を分けるのだろうか。銭湯の浴槽の謎。
お、ぬるい湯が空いた。いってみよう。
うーんちょうどいい温度。ずっと漂っていたくなる適温だ。
向こう側を壁を見ると、男湯にはノーマル富士山が描かれている。ダブル富士。
洗い場も浴槽もなかなか年季が入っているが、すごく綺麗。経年の色褪せなどはところどころ見えるのだが、桶もタイルもきゅっとしていて清潔で気持ちがいい。手入れが行き届いていて、愛されているのがわかる。
一度あがって髪を洗い、ぬるい湯をおかわり。
浴槽のへりに首を預けぷかりと浸かっていると、ちょっと若めのお姉さんが入ってきた。見た目で判断してはいけないが、わかりやすく例えるとちょっとギャルっぽい感じ。キラキラストーンがたくさんついたネイル、金髪の長い髪、濃いめのお化粧。でも妙に馴染んでる。常連さんかな。いいねぇ。
若い人が「いつも来てます」的な感じで銭湯にいると、なんだか嬉しくなってしまう。
先客のおばあちゃんたちがみんな上がっていき、私も脱衣室へ。
脱衣室には服を着ながら仲良く話すおばあちゃんが2人。
「ごはん、何食べた?」なんて話している。
「なーんもないから、おじやみたいの、適当にね」
「あらそう〜。あったまっていいじゃない」
「昨日煮物したからね。残りの汁にご飯入れて。それだけよ」
煮物からのリメイクおじや、絶対美味いやつ。いいな。
そんなことを考えながら髪をわしわしと拭いているとおばあちゃんに話しかけられた。
「あら〜あなたすごい髪。びっくりしちゃった〜」
どうやら私の髪型を見て、なにやら驚いている模様。
隣のおばあちゃんにほら見て〜なんて言っている。
「今の子は色んなのできるからいいわねぇ。あたしらなんかがやったらおかしくなったと思われちゃう」
「ね〜ボケたんじゃないかってね。あはは」
そんなにピックアップされるほど奇抜な髪型をしているわけではないと思うのだが、おばあちゃんには私の髪型(髪色?)が特徴的に見えたようだ。
つっこまれはしたものの、嫌な気持ちにはならない。ニコニコしてるし、悪意がないのが伝わってくる。
「最近の子はなんでもできていいねぇ」
そう言われてぺこりとお辞儀。
おばあちゃんのショートカットも素敵ですよ。
髪型にも自由がきかない時代もあったのかな。そう考えるとこの時代に生まれてよかったなぁなんて思う。
それとも私も50年後くらいに、同じようなことを言ったりするのだろうか。
「じゃあお先に〜」
そう言っておばあちゃんが一人帰っていく。
「おやすみなさい」
「帰り気をつけんだよ。変な人に声かけられたら走って逃げんだからね」
私の帰り路を心配してくれるおばあちゃん。
あれ、もしかして私、小学生かなんかと思われてたりする...?いやいや、みんな孫くらいに見えて心配してくれただけだよね。
ありがと、おばあちゃん。
私はこれから変な人に気をつけながらビールを引っかけに行きます。
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