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キラキラした日常

キラキラした日常

キラキラした日常、美しい景色、魅力的な人物像…。SNSには完璧に盛られて映える写真が並び、付けられた「いいね」が投稿主の承認欲求を満たします。

「でも、虚飾と現実のギャップに悩み、ありのままの自分を受け入れてほしいと望む人たちが選ぶのが、BeRealというアプリなんだ」とYが解説してくれます。

「アプリから不定期に届く通知から2分以内に写真を撮って投稿する必要があるんで、加工の暇がなくて、その

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渋柿について

渋柿について

渋柿について、農水省のサイトが「柿の渋みのもとは、タンニンです。水溶性タンニンが口の中で溶けると、渋く感じます」と説明します。

怒り、憎しみ、嫉妬。人の心にも渋みがよどんでいます。その渋みを理性でくるんで味わいに変えられる人もいます。でも、渋みに毒されてしまう人もいます。

ネットを覗けば、剥き出しにされた渋みが揚げ足取りや言い掛かりによって他人を攻撃し、それによって私たちを殺伐とさせ、息苦しく

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サントリーの宣伝部員だった山口瞳さん

サントリーの宣伝部員だった山口瞳さん

サントリーの宣伝部員だった山口瞳さんが「新入社員諸君!」と呼び掛けたシリーズ広告がありました。毎年、この時期に掲載されました。

「ありました」といっても、私自身は、だいぶ後になって、誰かの著作でその引用を読みました。そして、その中の一節で自分を励ましてきました。

私などは、ビクビク・クヨクヨばかりやっている間に、中堅と呼ばれる立場になってしまいました。いまだ、彼のエールに応えられる大人になれて

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コインを投げて裏が出る確率

コインを投げて裏が出る確率

コインを投げて裏が出る確率は、2分の1です。裏と表とは完全に独立した出来事であり、過去の結果が未来の結果に影響を与えたりはしません。

でも時に私たちは、4回連続で裏が出た後は、「次は表が出る」と考えがちです。目に見える情報から、何となく正しく見える法則を見出してしまいます。

サンプル数の少ないデータに基づいて誤った推測や判断をしてしまう認知バイアスは、「少数の法則」と呼ばれ、しばしば私たちに予

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同じ

同じ

同じ「さがす」でも、「探す」と「捜す」では微妙に意味合いが違います。「探しもの」と「捜しもの」だって、違います。

「欲しいものを見付け出そうとする場合に「探す」、見えなくなったものを見付け出そうとする場合に「捜す」を使うことが多い」と辞書は、解説します。

それでいえば、今の君は、「探している」のか、「捜している」のか。それは、「欲しいもの」なのか、それとも「見えなくなったもの」なのか。

ここ

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ふ化する

ふ化する

ふ化するヒナが卵の中から殻をつついて知らせる音が、啐。それを待つ親鳥が卵の外から殻をつつき割る音が、啄。

内側のヒナと外側の親鳥が同時につついて初めて殻が破れる。禅の世界では、それを啐啄同時といいます。

自分の殻を破りたければ、外側の誰かにそれを知らせなければなりません。他人の殻を破ってやりたければ、機を見て殻をつついてやらなければなりません。

心当たりは、あります。内側にいる人のタイミング

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2つのグループ

2つのグループ

2つのグループに学生を分け、実験をしました。A群の学生にはカップを示し、「いくらでこれを買うか」と尋ねます。その回答の平均額は、2.75ドルでした。

続いてB群の学生には同じカップをプレゼントとして与え、「いくらならそのカップを手放すか」と尋ねます。その回答の平均額は、5.25ドルでした。

私たちには、所有する物に愛着を形成し、手放したくなくなる傾向があります。加えて、何かを得る喜びよりも何か

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NHKのFMのクラシック番組

NHKのFMのクラシック番組

NHKのFMのクラシック番組を聞きながら通勤する。それが、この頃の私の朝のルーティーンです。

電車に乗り込んで、耳にイヤホンを押し込みます。見慣れた風景が少し色を変え、しばらくの間、やかましい世界から遮断されます。

走る鉄の塊の中でこんな風にインターネット回線を通じて鑑賞する私たちの姿を、何百年前の大作曲家たちは、おそらく想像できずに作曲していました。

けれど彼等の予想に反して、教会や劇場、

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保育園から子どもたちの元気な声

保育園から子どもたちの元気な声

保育園から子どもたちの元気な声が響き渡ります。「鬼はー外ー!」。聞けば最近は、子どもが怖がる鬼役の保育士が登場しない園も多い、とか。

保育園の壁には、子どもたちが描いた、退治したい鬼の絵が色取り取りに並びます。「ゴーヤが食べられない鬼」や、「朝に起きられない鬼」。

かつて節分には、心の中にある悪者を追い払うイベントが様様ありました。折口信夫は、節分における「厄落とし」について書いています。

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1994年といえば

1994年といえば

1994年といえば、クロアチアやユーゴスラビアが紛争のただ中にありました。第一次チェチェン紛争やルワンダ大虐殺が起こった年でもありました。

そんな時代に、41歳であった中島みゆきは、“ひまわり”SUNWARD”“を世に送りました。私たちは、それを反戦の歌と受け取ります。

あれから30年後の今年、コンサート会場でその歌を歌う彼女を見下ろしながら、「ひまわりとは、ウクライナの花でもあった」と思い出

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人工知能の研究者

人工知能の研究者

人工知能の研究者である黒川伊保子さんは、「なぜ女は転びそうで転ばなかった話をするのか?」との話を例に、男女の脳は全く別の装置である、といいます。

「転びそうで転ばなかった話は、情報ゼロ」と男性脳は、考える。けれど女性同士なら「それは怖かったわね」と共感し合える、と。

話す方は、そうやって「怖かった」という信号を出力して脳を解放し、聴く方は、自分が同じ危険に遭遇する際の対処法としてその信号を取り

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ローウェル

ローウェル

ローウェルは、その星の表面に浮かび上がる筋のような模様を発見して、それがその星の極地の水を赤道地方に運ぶ運河である、と主張しました。

その規模の大きさから察すれば、その構造物の造作者は、よほど脳が発達した生命体と思われる。けれどその星の重力は小さく、軟弱な体格に違いない。

「火星人=タコ星人」との説は、このような想像から誕生し、ウェルズの「宇宙戦争」によって定着しました。

今やその星では、大

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幼き日

幼き日

幼き日、誰もが何かに「なりたい」と夢見ます。「なりたい」と「なれる」の折り合いを付けて、「なりたい」を忘れる過程、それが成長なのかもしれません。

私の誕生日を忘れずに毎年花を送ってくれるSさんからの手紙。「子どもの頃からの音楽音痴だった私が、最近、ピアノの教室に通い始めました。

定年になって、これから何をしようかと思った時に、子どもの頃のコンプレックスを思い出しました。人生を終えるまでに克服で

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オフィスに

オフィスに

オフィスに飛び込んで来たEさんが一大事を報告します。「今朝さ、家でウォシュレット使い終わって「止」ボタン押したけど、止まんなくて焦った。

そんなことある?って思って、何度も「止」押すんだけど、止まんないの。どうやって解決したか、知りたい?」。私の返事を待たずにEさんが続けます。

「落ち着け落ち着けって自分に言い聞かせて、調べたの。知ってた?「止」ボタンって、リモコンなの。電池で動いてんの。電池

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