皮膜

今あった話、昔あった話や、今も昔もなかった話。

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1,000記事目

1,000記事目の節目に際して、999の記事を掘り返します。これまでみんなのフォトギャラリーから画像をお借りした皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。 【執する記事】 【物する記事】 【興ずる記事】 【旅する記事】 【抄する記事】 【糊する記事】 【着する記事】 【1記事〜900記事】

    • Wセンセイ

      Wセンセイは、国会議員です。とある野党の、若手議員です。旧態依然とした、言い換えれば「与党的な」政治を打破したくて、政治の世界に入りました。 けれど、議員には「与党的な」立ち回りが求められている、という矛盾をしばしば感じてもいます。それなくしては、再選も危うい、という焦りもあります。 別れ際にセンセイが私に訴えた言葉。「議員は、自分の信念に迷ってしまうこともある。だから、議員の言動を正しいと思ったなら、ぜひ激励を与えてほしい。 そういう後押しが、議員を正しい方向に向かわ

      • T君に

        T君に「御報告がありまして…」と切り出されて、私は、身構えました。「来月で店を辞めるんです。年齢のことも考えて」。案の定、T君が打ち明けます。 馴染みの客とはいえても、T君に対する私は、他人行儀でした。幼い頃から体得した人間関係への防衛本能が邪魔をして、むしろぶっきら棒に接してきました。 「今まで丁寧な仕事をありがとう」「これからどうするの?」。いいたい言葉は何一つ継げず、ただ彼の言葉を受け止めていました。彼は、確か28歳です。 「こんな若い人がキャリアデザインに悩んで

        • 農水省

          農水省のサイトが渋柿について、「柿の渋みのもとは、タンニンです。水溶性タンニンが口の中で溶けると、渋く感じます」と説明します。 怒り、憎しみ、嫉妬。人の心にも渋みがよどんでいます。その渋みを理性でくるんで味わいに変えられる人もいます。でも、渋みに毒されてしまう人もいます。 ネットを覗けば、剥き出しにされた渋みが揚げ足取りや言い掛かりによって他人を攻撃し、それによって私たちを殺伐とさせ、息苦しくもさせています。 「渋柿もアルコール等で処理すれば、タンニンが不溶性に変わって

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          鳥取駅からバスで25分

          鳥取駅からバスで25分。鳥取砂丘は、意外と市街地にありました。「砂丘といったって観光地なわけで、タカが知れてる」。私は、タカをくくっていました。 でも、歩き始めてみれば「馬の背」までの道のりは、想像以上に長く、その上、折からの悪天と吹き付ける強風によって、今や歩行もままなりません。 風の中に目を凝らしても、振り返っても、足跡は、もう半ばかき消されて、私たちは、方向を見失ってしまいました。観光地で、まさかの遭難…。 冗談のような、悪夢のようなニュースが脳裏をよぎり、「砂漠

          鳥取駅からバスで25分

          今年の9本目

          今年の9本目、Boy Erased、観ました。 同性愛者の転向療法プログラムにおいて、性的指向は、後天的選択と位置付けられます。だから人を愛する気持ちも矯正できる、と同性愛者に迫ります。 体を鍛え、「男らしい」所作を身に付け、「誤った」性的指向のルーツを洗い出し、これまでの関係を清算する。それは、洗脳と人格否定でしかありません。 でも、矯正を行う人、受けさせる人、そして受ける人さえ「正しいことをしている」と思い込んでいる。それが現代の「自由の国」で起きている実情でした。

          今年の9本目

          #2404127

          Hくんへ 私たちは、自分の呼吸を意識しませんが、三木成夫は、「真剣に打ち込んでいるような時は、まず間違いなく呼吸の方はお留守になっている」といいます。 呼吸がお留守になれば、酸欠で疲れが増し、ミスが起きます。では、どうすれば自然な呼吸を取り戻せるか。彼は、「仕事唄」にヒントがある、と説きました。 確かに稲刈り唄や木こり唄を歌いながら自然に呼吸をすれば、緊張が解け、集中力が持続します。呼吸と作業を調和させる知恵が込められている、といえます。 新人のHくんには仕事唄はハー

          #2404127

          ウエイトライスを贈る

          ウエイトライスを贈る新郎新婦の涙と、それを受け取る彼等の両親の涙。それを見守る友人たちの涙。それらに釣られて、私も暗闇に紛れ涙を拭っている。 新郎新婦の出生時の体重と同じ重さのお米に赤ん坊だった頃の写真やメッセージを添えて両親に贈る。それがウエイトライスです、と司会が説明してくれる。 初めて我が子を抱き上げた記憶と、近くから遠くからその成長を見守ってきた月日と、彼と彼女が旅立っていく寂しさと。私の腕にも米の重さが伝わってくる。 「ずるいよ、そんな演出されたら、他人だって

          ウエイトライスを贈る

          メディア

          メディアが提供する情報によって、私たちは、世の中の様子を知ります。でもそれは、必ずしも真実や全体像を反映してはいません。 「犬が人をかんでもニュースにはならないけれど、人が犬をかめばニュースになる」といわれ、その結果、メディアは、人が犬をかんだ話題ばかりを流します。 そして私たちは、人が犬をかんだ話の羅列の中に、今の「世相」や「世情」を見た気になります。でも実際の世の中は、犬が人をかんで成り立っています。 メディアは世の中を映す鏡ではなく、世の中を形作る鏡である。そのこ

          メディア

          泥棒

          泥棒がある家に忍び込みました。けれど、番犬は、ほえません。「これまで何度もほえたけど、ご主人に褒められたことはない」と、犬は、ロバにいいました。 別の晚、また泥棒が現れました。真面目なロバは、犬の代わりに大声でいななき、泥棒を追っ払いました。けれど、その声に起こされた主人は、怒りました。 「なんで夜中に騒ぐんだ」とムチで打たれたロバに、犬は、いいました。「忠実に働いた君に、ご主人は、どんな褒美をくれたかね」。インドの昔話です。 相談できる人も助けてくれる人もなく、歯を食

          サントリーの宣伝部員だった山口瞳さん

          サントリーの宣伝部員だった山口瞳さんが「新入社員諸君!」と呼び掛けたシリーズ広告がありました。毎年、この時期に掲載されました。 「ありました」といっても、私自身は、だいぶ後になって、誰かの著作でその引用を読みました。そして、その中の一節で自分を励ましてきました。 私などは、ビクビク・クヨクヨばかりやっている間に、中堅と呼ばれる立場になってしまいました。いまだ、彼のエールに応えられる大人になれていません。 それでも、「せめて、周りが安心して仕事ができるために自分にやってや

          サントリーの宣伝部員だった山口瞳さん

          東西1.3キロメートル

          東西1.3キロメートル、南北1キロメートル。平城宮は、120ヘクタールの広さがありました。奈良時代、おそらくその場所は、一等地でした。 現代においても、本来であればその場所は、盆地の中の一等地です。でも、その一等地を野っ原として保存(放置)している。それが平城宮跡の偉大さです。 夜、私たちは、大和西大寺のホテルにいて、遠くに見える東大寺の明かりと、その手前に広がる野っ原の闇と、闇の中を緩行して行く近鉄線を眺めています。 無辺な闇と静寂は、どんなモニュメントよりも雄弁に、

          東西1.3キロメートル

          #2404037

          「こんにちは。×月×日現在、桜前線は、東北南部を北上しており、明日には東北北部まで到達する見込みです。私も明日は、山形を目指します。 桜前線が北上する速度は時速1キロに満たず、人の歩みくらいの速さだと、昔、誰かに聞きました。そのことを思い出し、桜前線を追い掛け旅しています。 旅の計画は、綿密に立てましたが、桜の精は、ニンゲンの思いどおりには動いてくれず、右往左往し、時に足止めを食らいながらここまでたどり着きました。 旅の終わりは、5月の釧路を予定しますが、どうなることや

          オルニトミムス

          オルニトミムスの学名は、「鳥(ornith)に似たもの(mimus)」という意味で、その名のとおり、鳥のような長い首、長い脚、小さな頭を持っていた。 その名のとおり、鳥のような翼もあった。でも、別名、ダチョウ恐竜とも呼ばれ、その名のとおり、彼ら・彼女らは、飛べなかった。 「飛べない翼は、翼と呼べるのか」と、君は、いう。でも、その翼には異性に求愛する機能があり、また、卵を温める機能があった。多分、それで十分だった。 愛を伝え、育む翼さえ持たない私は、せめてこの手を伸ばし、

          オルニトミムス

          Kさん

          Kさんは、民生委員です。生活困窮者への支援、高齢者の見守り、ひとり親からの相談…活動は、多岐にわたります。給料の支給はなく、ボランティアです。 平均年齢67歳といわれる民生委員の中にあって、Kさんは、十分に若手です。それもあって、行政からも住民からも頼られ、そしてそれによく応えています。 そんなKさんでも、行政に苦言を呈します。「行政にできないことをボランティアに担ってほしいって彼等は、期待するけどさ、それは、アベコベだよね」。 確かに善意は、尊い。でも最後のとりでは、

          Kさん

          香典返しを固辞して

          香典返しを固辞して帰宅したアパートの玄関で、私は、ふと我に返りました。「お清めの塩だけは、もらっておけばよかった」。一人暮らしのアパートです。 「キッチンへ取りに行くか」、「そもそも、ウチにはクレイジーソルトしか置いてない」。面倒臭くなって、そのまま部屋に上がり込みました。 「友達の通夜に行ったぐらいで、ケガれるわけないだろ」と自分に説教して。食欲がありません。それでも、死と生を隔てる行為として、鍋に湯を沸かします。 「人は、孤独な旅をしているが、旅の終わりには必ず誰か

          香典返しを固辞して