皮膜

今あった話、昔あった話や、今も昔もなかった話。

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1,100記事目

1,100記事目の節目に際して、1,099の記事を掘り返します。この間みんなのフォトギャラリーから画像をお借りした皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。 【執する記事】 【物する記事】 【興ずる記事】 【旅する記事】 【抄する記事】 【糊する記事】 【着する記事】 【1記事〜1,000記事】

    • お釣り

      お釣りをくれたAさんが「あ、新紙幣」と気付き、お釣りを受け取った私も「ホントだ、初めて見た」と、その5,000円紙幣を覗き込みます。 ウメコを見慣れていない私たちは、「なんか、どこかの外国のお札みたいですね」「もしくは、おもちゃのこどもぎんこうけんみたい」と言い合います。 この肖像は、女子英学塾を創立した年齢であり、教育者としてのキャリアが確立した30歳代の写真等を参考に描かれた、と国立印刷局のサイトにあります。 その頃が彼女の最盛期なのでしょう。私たちは、「自分がお札

      • 仕事上

        仕事上やり取りする(けど専ら電話でやり取りする)女性がいました。ある日、彼女の名字が変わっていました。「ご結婚ですか?おめでとうございます」。 電話の向こうでスーっと息を吸う音がして、彼女は、ゆっくり答えました。「いえ、離婚です」。血の気が引いて、それ以来、私は、夫婦別姓の賛成論者です。 決して「世の中の全ての人が夫婦別姓にすべき」だとは思っていません。ただ、同姓と別姓を選択できる、という選択肢に、ある種の合理性を感じます。 でも、「家族の一体感が損なわれる」等とそれに

        • 吉良川は風の町

          吉良川は風の町だ、と遍路宿の主人が教えてくれました。海と陸の温度差によって、昼は海から陸へ、夜は陸から海へと風が吹き抜ける、と。 遍路宿の朝は早く、従って夜も早い。夕食を終えた客たちは、部屋に戻って明かりを豆球だけに落とし、釣ってもらった青い蚊帳の中へ潜り込みます。 「水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり」。麻布1枚で雑多な外界から遮断されている、あるいは守られている安心感は、まことに水の中の感覚に似ています。 風の音を聞きながら、「あ、いつの間にか、風向きが変わった」なん

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          今年の4冊目

          今年の4冊目、宮島未奈著「成瀬は天下を取りにいく」、読みました。 成瀬あかりの存在は、明らかに「普通」の枠からはみ出しています。群れない、こびない、空気を読まない。常に目立ち、周囲とは一線を画しています。 成瀬の幼なじみである島崎は、私と同様、平凡な人間です。普通でない成瀬を間近で見て育ち、その人生を見守る役目が自分にはある、と勝手に決めています。 でも見守る役目のはずの島崎は、いつも成瀬に巻き込まれて、天下取りに付き合わされる羽目になります。そしていつの間にか、それを

          今年の4冊目

          #2407160

          標高5,000メートルのチベットの村に暮らす羊飼いの話を、さっきからTVが映している。平均寿命45歳という過酷な環境の村で、彼は、もう十分に老人だった。 以前は興味のなかった類いの番組。でも大病を得て、最近はこんな映像ばかり見ている。おそらくは、もう見ることもない風景や、会うこともない人の映像を。 「いつかまたいつかそのうち人生にいつか多くていつかは終わる」。そんな誰かの歌をネットの海に投げ、Eさんは、明かりを消した。すぐ着信音がする。 「ケイさんがいいねしました」。こ

          #2407160

          引きこもりの治療について

          引きこもりの治療について、T先生が解説する。「「愛」に依存するべきではありません。むしろ愛を禁欲してでも、ひたすら「親切」を心掛けるべきです」。 愛する対象だからこそ、焦りや期待を抱き、時に押し付けが生まれてしまう。それがかえって相手の心を閉ざし、更なる孤立を招いてしまう。 そういえばカート・ヴォネガッドも「愛は負けても親切は勝つ」といっていた。そして、Sのことを思う。愛に対して禁欲的になれなかった私のことを思う。 Sをコントロールする気などなかった。寄り添っている気で

          引きこもりの治療について

          Iさん(2)

          Iさんの解説が続きます。「初期の戦隊モノは、男女の役割分担が明確な時代を背景に制作されていました。男は強く勇敢で、女は優しくサポート役に徹する。 男女の能力や性格に差があるのは事実だけど、それは生物学的な性差ではなく、社会的・文化的な男性像・女性像によって作られている部分が大きいんです。 戦隊モノにおける変化は、社会におけるジェンダー観の変化を反映しているといえますね」。その辺りで、女坂は、再び男坂と合流しました。 口に出してはいえない状況で、でも、えげつなく急な階段が

          Iさん(2)

          Iさん(1)

          Iさんと山道を歩いています。ケーブルカーの駅から続く道は、二手に分かれます。左は急な階段が続く男坂、右は緩やかな坂道の女坂。 多様性が叫ばれる御時世にあってのそのあどけない二分法に妙な潔さを感じつつ、女坂を選んで登りながら、私たちは、戦隊モノについて語り合っています。 「昔の戦隊モノって、男4人女1人が定番で、女性のカラーはピンクだけでしたけど、超電子バイオマンで初めてダブルヒロインが登場しました。 黄色や青、白なんかも女性のカラーとして使われるようになり、最近だと、5

          Iさん(1)

          塩を運ぶロバ

          塩を運ぶロバが足を滑らせて川に落ちました。塩が水に溶け出して荷物が軽くなり、ロバは喜びました。味を占めたロバは、次はわざと川に落ちました。 でも、背中の荷物は、海綿でした。水を吸って荷物は重くなり、ロバは、溺れてしまいました。 「塩を運ぶロバ」の話を、私たちは、笑います。けれど、私たちは皆、塩なのか、海綿なのか、正体の分からない重荷を背負って生きています。 振り仰いでも、自分に背負わされた重荷の正体が分からず、だからその下ろし方も知らず、無力にうつむいて、息切れしながら

          塩を運ぶロバ

          帯広の市街から

          帯広の市街から空港へ向かうバスの窓の外を眺めていました。進行方向右手に、襟裳岬を目指して一直線に進む日高山脈が、どこまでも続いています。 その手前には、だだっ広い畑がこれまたどこまでも広がっています。何十分と変わらない風景の中をひた走るバスが、ひどく滑稽に思えてきました。 「何も市街地からこんなに遠ざけなくても、どこかここいらに飛行場を置いても、問題ないんじゃないのか」。 思えば、今回の旅は、この種の面白みに欠け、小難しくなる嫌いがありました。そんな旅の締めくくりに見た

          帯広の市街から

          今年の16本目

          今年の16本目、Das Lehrerzimmer、観ました。 人間が聞き取れる周波数は、20〜20,000ヘルツ。そのレンジをはみ出た音は、人の耳では捉えられません。赤外線や紫外線も、人の目では捉えられません。 私たちが見聞きしている世界は、そのほんの一部に過ぎません。加えて私たちは、都合の悪い情報を意図的に見過ごしたり、聞き取らなかったりします。 このような人間の認識の限界と真実を追求する主人公の正義感が災いし、かえって真実が置き去りにされ、事態がどんどん悪化していく

          今年の16本目

          #2307044

          人間には8つの苦しみがある、とお釈迦様がいった。生きる苦しみ、老いる苦しみ、病に掛かる苦しみ、死ぬ苦しみ。 愛する人と別れる苦しみ、恨み憎む人に出会う苦しみ、求めているものが手に入らない苦しみ、心身を形作る5つの要素から生じる苦しみ。 長く生きて、7つの苦しみを知った。その1つ1つは、人並み以上の苦しみではあった。生まれたことは喜びだった気もするが、苦しみへの始まりでもあった。 7つの苦しみを前に戦うすべもなく、まして開ける悟りもなく、ただ四苦八苦し、後にはこの身1つが

          #2307044

          田舎に遊びに来た孫を囲んだ食卓で

          田舎に遊びに来た孫を囲んだ食卓で、祖父は、冗談めかしていった。「ミョウガを食べると、物忘れがひどくなる。 お前はこれから賢くならなきゃいかんのだから、食べ過ぎちゃいかん」。幼い私は、半信半疑でそれを眺めた。それは俗説なのだ、と随分と後になって知った。 「むしろミョウガの辛み成分には、脳に刺激を与える効果もある」なんて程度の雑学を携えた私は、でも、祖父の期待に反し、大して賢くは育たなかった。 今日、スーパーでミョウガを見掛けて、「物忘れする」という俗説のことを思った。「こ

          田舎に遊びに来た孫を囲んだ食卓で

          仏の顔も3度

          仏の顔も3度という言葉を、私たちは、「仏の顔も3度まで」といったりし、「3度までは許される」という楽観的な解釈で自分を甘やかします。 でもそれは、「仏の顔も3度撫ずれば腹立つ」という警句の略である、と辞書にあります。 つまり、仏様といえども、許してくれる回数は2度までなのであって、3度目には怒られます。仏様の寛容さを過信してはなりません。 下馬評によれば、今度の知事選は現職知事の3選が確実といいます。仏様ではない選挙民は、案外、仏様より寛容なのかもしれません。

          仏の顔も3度

          せめて1泊2日で行ける場所

          せめて1泊2日で行ける場所を探してネットをさまよいながら、思います。どこかに行きたい。誰かに会いたい。そんなときには多少のヒマとカネが必要です。 ヒマを持て余す頃にはカネがなく、カネに余裕のできる頃にはヒマがなくて、それを口実に、どこかに行ったり誰かに会ったりをおろそかにしてきました。 そして多分、ようやくヒマにもカネにも余裕ができる頃には、今度は体力や体調が十分でなく、何かを思い立っても若い頃のようには行動しづらくなります。 あの頃はまだ若過ぎ、その頃はもう年を取り過

          せめて1泊2日で行ける場所