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虹空文庫 | ペットと飼い主



ずっと大切にしてた相棒を失ってしばらく経つ。
木枯らしの季節のせいか、最近はやたらと背中に隙間風が吹く、そんな想いがする。

散歩もずっと一緒に行ってた、毎日かかさずに。
ひとりになってからはあてもなく、とぼとぼ歩くばかりでまるでハリがない。

そんな夢遊病ような足取りで、いつもつい立ち寄ってしまうのがこの店だ。

店内はきれいにディスプレイされ、カラフルなペット用品がずらりと立ち並ぶ。相棒と一緒に訪れ、服を選んだり、おかしを買ったりしたものだ。

店内の奥、キラキラしたショウウィンドウの中。
ズラリと並べられたゲージを眺める。

遊び跳びはねる子、気持よさそうに眠る子、ご飯を夢中で食べる子。
いろんな子がいて、のんびり見ているだけで癒される。

相棒を失って・・そろそろ新しいパートナーも・・。
と、風が心に吹く。

そんな思考の森にいつも迷い込んでしまう。
するとそんな私を見つけ、5番ゲージの茶色の毛の女の子が寄ってきた。

「私を選んで」とばかりに潤む瞳。
これは吸い込まれてしまいそうだ。ついしばらく見入ってしまった。

いつの間にか思考の森から抜け出していた。
「この子なら」と、受け入れる気持ちになってしまっていた。

後ろのペッドフードコーナーの棚をするりと抜け、店員がニコニコこっちをロックオンしたのがわかった。

「あぁ〜この5番の子。いまとっても人気あって問い合わせ殺到なんですよ。

よくしつけもされてて、きれい好き。
お散歩も大好きで、いっぱい遊んでくれる子がいいって方には最高ですね。」

早口のセールストーク。
そうとは、わかっていながらも気持のベクトルは強さが増すばかりだった。

もう既にほぼ決まってしまっている本心を、たしなめるように深く呼吸をした。

感情に流されてはいけない。
これから生活を共にする、新しいパートナーがここで決まるんだ。


「まだ、他の子たちもじっくりみたいので。すみません。」

気持ちが確実に引っ張られているのを押し殺し、あくまでも「冷静」を装った。


7番ゲージの子は少し大型の男の子だ。
前の相棒が小柄だったから、気分を変えてこういう子もいいのかもしれない。

身体は大きいのに、とても優しい目をしている。


10番ゲージの子はぐっすり寝ているな、気持よさそうだ。
顔がちょっとブサかわな感じの愛嬌がいい。

他のゲージもくまなく見ながらも、やっぱり気持ちは決まっていた。

最初の出会い。「ビビッ」と来た5番ゲージのあの子。
その潤んだ瞳が、ずっと頭が離れない。

気づけばこのショウウィンドウの前を、ウロウロしながら1時間は経っていた。

いつまでも迷っていても仕方がない。
人気な子だ、きっとすぐに他にとられてしまうだろう。

ここはきっぱり決断するんだ!!

・・・そして遠くでずっとチラチラこっちを見ていたさっきの店員さんに、目くばせした。


「迷いましたが・・やっぱりこの子。この5番の子にします。
どうもヒトメボレってやつですかね。

この子ならいっぱい遊んでくれそうだ。
散歩だって、きちんとサボらず行ってくれそうですし。」

「そうですよね。
散歩は我々にとって最重要と言っても過言ではないですから。

その点、この子は大丈夫ですよ。
とっても動物好きのいい子ですから。」

「いやぁ〜、決断にお時間かかってすみません。
失敗したくないですから、”飼い主えらび”はね」


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