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虹空文庫

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記事一覧

ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜

「あたしこのパイ嫌いなのよね」 つい悪態とも呼べる言葉を放ってしまった。 それは自分を騙しきれない哀しみが胸をついたからだろうか。 (私……、もっと小さい頃は本当は大好きだったのに。なんで嫌いになってしまったのだろう) 「まあ、ずぶ濡れじゃない、だから、いらないって言ったのよ」 こんなこと言うつもりじゃなかった。でも、心にかかった黒いモヤが私を襲う。 その女の子から受けとったパイは、まだ温かかった。 きっとこの大雨の中、大急ぎで来てくれたのだろう。 今ではもう……誰

お中元戦争|ショートショート

年賀状・お歳暮、そしてまた今年も「地獄のお中元」の季節が来てしまった。 現代は「季節の挨拶をいつやめるか・」 そんな風潮になっている。 私も毎回「今年こそは!」と決心するが結局は先方から届いてしまうのでやめるタイミングを失い続けもう何年も経つ。 もうこんなカタチダケの挨拶は不要なんだよ! 現代にアップデートにしなければ! こんな古い慣習は断ち切るべきなんだ! そう強く言い聞かせ 今年は、はむかった・・。

遊撃手、遊撃手、王様|虹空文庫

ベイスボゥル地方のはるか北の北にあるセリィグ国とパリィグ国。 両国は「百年戦争」と呼ばれる領土争いをし、たくさんの血を流していた。 長い戦争により互いの勢力が弱まったことを聞きつけた南の大国・メジヤリィグ国が進攻してくると噂が流れた。 「このままでは我々の国はヤツらに奪われてしまうぞ」 と、セリィグ国の国王・サカモトゥとパリィグ国の国王・マツゥイが停戦・同盟に申し出た。 百年以上も血で血を洗う争いをしていた両国。実情その遺恨は深く、同盟は困難を極めた。 そこで古より

ショートショート王様|虹空文庫

待ち合わせにはちょっと早い、外は蒸し暑い。 書店に涼み行くか。 最近は電子書籍ばかり、書店に来るのはどれくらいぶりだろうか。 平日の午前中、大型店舗とはいえ閑散としているのだろう。 そんな思いとは裏腹にエントランスでは大行列ができていた。 「伊呂波わをん先生のサイン会!整理券はこちらですー!」 伊呂波…わをん? 紙の本が衰退していくこの時代に300万冊の大ベストセラー作家だ。 確か「ショートショート王様」と呼ばれているらしい。 「これぞ究極のショートショート!」とメデ

【虹空文庫】のヘッダーをイメチェンしてみた☆

虹空文庫|夜をさがしに

星も月も風も虫の声もない静かな空 僕はパジャマのまま裸足で家をでた 遠くの街灯の明かりが道標となって どこまでも歩いていける気がしてた あとからついてくるのは影しかない 街を背にして一歩、足音は闇に消え 僕は今、虚空を彷徨う宇宙船のよう 無重力の足取りはせつなくも楽しい 「どちらまで行かれるのですか?」 現実という窓が開き優しい声がした 地表に帰還した身体で辺りを見回す 声のする方へ懐かしい声のする方へ そこにスピカ色の女性が立っていた 重力を再び背

Stagnant Bonus-【SS】

雑居ビルの3階。 吹けばとぶような軽さの財布が今日はずっしり重い。 去年のここで買ったものは妻にバレて落雷を喰らった。 今回は対策は万全。隠し場所の確保もできている。 時計が9時を指すと、ビルの1室の扉が開いた。 「予約していたアレを・・」 店主が奥からアレを抱えて持ってきた。 そしてスーっと深呼吸をし、財布を開こうとしたその時。 グギギギィィィイイ〜〜!! 「な、なんだとッ!!さ、財布が開かないッ!!」 その瞬間、ズシン!強力な重力がかかり大きな音を立て床にめ

主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編

「魔女を殺せ!悪魔の化身を焼き尽くせ!!」 「ウウォォォオオオオーーーー!!」 「厄災はすべて燃やすのだーーー!!」 「ウウォォォオオオオーーーー!!」 群衆の狂気の怒号と、全身にはしる痛みで私は意識をとり戻した。 朦朧とする頭の中をどうにか巡らせ・・ゆっくりと記憶をたどる。 そうだ...追手から逃げている最中に落馬し、そのまま崖下へ・・。 そこからの記憶はない。 城下北西に位置する闘技場、その中央に建てられた十字架。 群衆の声は四方八方から、その怒号が震え耳を襲

マイファミリー2

目が覚めるともう昼すぎだった。 そうか、昨日は会社の連中と飲んで朝方に帰ってきたんだったか。 二日酔いで頭が痛い。 重い身体を引きずるようにベッドから這い出て、キッチンに水を飲みにいく。 「ママ、二日酔いの薬知らないか?」 リビングには虚しく声が響いた。 ふと目をやるとダイニングテーブルに一枚のメモがあった。 そうだ・・そうだった。 確かに約束してたことをすっかり忘れていた。 そのメモの筆跡から妻の怒り声が耳の奥にキーンと鳴り響いたような気がした。 頭の中で妻の

マイファミリー

休日のフードコートは人で溢れている。 検診中の妻、珍しく娘の朋香と2人きりのランチだ。先に食べ終わった俺は一人、喫煙所へ。 タバコに火をつけたそのとき・・ ♪テンテンテンテン、テンテンテンテン♪ 不穏な着信音。非通知だ。 「ミヤザワハルオサン ノ ケイタイデンワ デスネ・・・」 機械音声の冷たい声。 「イチドシカ イワナイノデ ヨク キイテクダサイ」 嫌な予感にタバコを投げ捨て、慌てて朋香の元へ走る。 「…アナタノ コドモヲ サズカリマシタ」 妻からの二人目

“HONEY-BUNCH” X’masの魔法

それは北の北のそのまた北に位置する、とある人里離れた街の話。 その街は雪の降る季節がやってくると、毎年のように街をあげての様々な趣向を凝らした盛大なパレードがに行われ「Christmas town」と呼ばれていた。 しかしある年から異常気象がおき、パタリと雪が降らなくなってしまった。 大人達は「雪が降らなければノエルは行えない…」と、ただじっと春を待つだけの年が続いた。 「Christmas town」と呼ばれていたことは過去になり、いつしか誰もがそのことを口にしなく

着信

休日のフードコートは人で溢れている。検診中の妻、珍しく息子と2人きりのランチだ。先に食べ終わった俺は一人、喫煙所へ。 そこに不穏な着信音。非通知だ。 変声器の甲高い笑い声。嫌な予感に慌てて息子の元に走る。 「…お前の子供を授かった」 妻からの二人目の報告だった。俺は崩れ堕ちた。 こちらの企画と 10文字ホラーでおろした作品の派生のネタです 私の書いた「10文字ホラー作品集はこちら」 全60作品あります。 よろしかったらどんぞ! ✂︎ ー ー ー ー キリトリ線

小ネタ| 行楽シーズンのバイト

「先輩・・・ほら先輩? お客さん呼んでますって、いいんですか?返事しないで」 「あ?あぁ・・今日はなんか客、多くね? 俺、もう喉カラカラなんだけど」 「確かに今日は男性の客、多いですけど・・ 最近は女子旅人気のせいで さっきなんてあたしの客ばっかりだったんですよ?」 「行楽シーズン・・まだこれからなのにな。 バイト二人じゃ、やっぱきつくね? これ以上増えたら、俺ひとりで男客さばくの無理あんべ」 「・・・ほら!おまえたち!何さぼってんだ! さっきからお客様、呼びかけ

虹空文庫 | ペットと飼い主

ずっと大切にしてた相棒を失ってしばらく経つ。 木枯らしの季節のせいか、最近はやたらと背中に隙間風が吹く、そんな想いがする。 散歩もずっと一緒に行ってた、毎日かかさずに。 ひとりになってからはあてもなく、とぼとぼ歩くばかりでまるでハリがない。 そんな夢遊病ような足取りで、いつもつい立ち寄ってしまうのがこの店だ。 店内はきれいにディスプレイされ、カラフルなペット用品がずらりと立ち並ぶ。相棒と一緒に訪れ、服を選んだり、おかしを買ったりしたものだ。 店内の奥、キラキラしたショ