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主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編 [re:pairs]

「魔女を殺せ!悪魔の化身を焼き尽くせ!!」

「ウウォォォオオオオーーーー!!」

「厄災はすべて燃やすのだーーー!!」

「ウウォォォオオオオーーーー!!」


群衆の狂気の怒号と、全身にはしる痛みで私は意識をとり戻した。
朦朧とする頭の中をどうにか巡らせ・・ゆっくりと記憶をたどる。

そうだ……追手から逃げている最中に落馬し、そのまま崖下へ……。
そこからの記憶はない。

城下北西に位置する闘技場、その中央に建てられた十字架。
群衆の声は四方八方から、その怒号が震え耳を襲う。

知っている、この声は全て私に向けられてる声だ。

腕に激痛が走るのは、折れているからなのか。
もしくは大きな杭が腕を貫いているからなのか、もはやわからない。

その杭は両手、両足に無造作に打ちつけられていた。
もがけばもがくほど、手足がひき千切れそうな痛みが襲う。

気が遠くなるほどの痛み、、また意識が遠のいていく……。


マーゼル地方の小国「メルゼス」。

私は、とある港町からこの城下街に娼婦として売られてきた。

街に馴染むまもなく、それから数日のこと
この街に原因不明の疫病が広まった。

皮膚はタダレ、目玉は落ち、やがて全身が腐敗して死んでいく。
人々はその未知の病になす術がなかった。

疫病は一か月もしないうちに、城下を飲み込み、多くの死者をだした。

群衆はその脅威におののき、病気にかかった者は、家族もろとも家と共に全て焼き払った。

街中で毎日、火の粉が舞う地獄のような光景。


「焼けーー!殺せーーー!疫病は全て塵にしてしまえーー!!」

飛び交う群衆の叫びと、焼かれる人々の悲痛の声。

街は疫病という名の呪いにかかっているようだった。


港町の祖母から「ラゴナ」という翡翠色の貝殻の首飾り。
そしてそれを砕いて精製した「白粉」を形見としてもらった。

そのラゴナ貝は厄災から身を守るという、言い伝えがあるそうだ。

私は疫病と群衆の狂気におびえながら、毎日その「白粉」をつけた。


この疫病の時世に因果なもの、娼婦という仕事は変わらず忙しかった。
流行病は娼婦にとって、何よりの脅威。

娼婦小屋で働く女たちは次々と病に倒れ、そして無惨に焼かれた。
疫病は拡大するばかり、日毎に倒れる者が増え、既に街の半分が焼かれてしまった。

程なくして、恐れていたことが起きてしまった。
城下だけでなく、メルゼス王妃とその側近の数名も疫病に倒れたと民衆に伝えられた。

混乱する街。もう正常な者などいない狂気の街で、そのやり場のないキバは私に向けられることになる。

「あいつは魔女だ!」
「あの女が来てすぐ、疫病が流行ったんだ」

と、噂が広まる。
確かにそうだ、最初の疫病が出たのは、私がこの街にきてすぐの出来事だった。

そして不幸か幸いか、同じく娼婦として働いていた者は私以外、一人残らず疫病にかかり灰となった。

城下を壊滅に追いやったこの疫病。
毎日多数の目を血走らせている雄と交わり、娼婦小屋で生活していた私が無事であるわけがない。

自分でもその理由がわからなかった。

「魔女はどこだーーー!あいつは悪の化身だーーー!
厄災の元凶を捕まえて、焼き払えーーー!!」

怒りに満ちた群衆は私を探した。
ついに娼婦小屋も、色街も全て焼かれたが、私はその混乱に乗じてかろうじて逃げることができた。

追手を逃れ、さまよい歩いて数日。
とある森の小屋にたどり着いた。


どうしてこんなことに……ラゴナの首飾りを握りしめる。
火を焚き、その暖かさにいつの間にか眠ってしまったようだ。

……どれくらい経っただろう、人の声に目が覚める。
声はまだ遠い、、しかしかなりの群勢であることはわかった。

「あそこに小屋があるぞーー、魔女の棲み家かもしれん燃やせー」


私は小屋の裏口から出て、目下に見つけた家畜小屋につながれていた馬に乗り飛び出した。

「あそこだ!!魔女がいたぞーー!!つかまえろーー!!矢を放てーー!!」
「ウォォォォォォ〜〜〜〜!!」

大挙する暴徒。火の矢がつきづきにとんでくる。

馬にはなれていない、しかも森のこの悪路だ。
燃え盛る木々の中、降りそそぐ火の矢を避け、懸命に走った。


そのとき矢が馬の胴体に刺さった。

「ヒヒーーーン!!」

声をあげ、前足をはねあげた。
その勢いで振り落とされ、崖下に投げ出された。



「ウォォォォォォオオオ〜〜〜!!」

声が聞こえる。群衆の叫びだ。

「魔女を殺せ!悪魔の化身を焼き尽くせ!!おおーーーー!!
厄災はすべて燃やすのだーーー!!おおーーーー!!」


……また意識を失っていたようだ。

闘技場の中央。十字架を背に白日に晒されている。
群衆の怒号はやまない。

手足の杭は軋むばかり、痛みなどとうに忘れたが、もうなす術はないと悟った。そして覚悟を決めた。

「その首飾り、そしてその白い粉。これが魔女の証。厄災の元凶だ。これから貴様を処刑をする!」

そう語りかけてきた男は、わたしに大量の油をぶちまけた。

「これはよく燃えるぞぉぉ。全て焼きつくせ、したらばこの疫病、魔女の呪いは終わる。灰になり地に還れ!」

男は口にふくんだ油を、その手に持った松明に吹きかけた。


「燃やせーーー!!ころせーーー!!
   灰になれーーー!!魔女を生かすなーーー!!」


群衆の声がまた大きくなった、そして

松明に火がつけられた……。


男がゆっくり、こちらに近づく……、一歩……
また一歩と……


そして……

そして…………

…………………………。


「でね!でね!!そのときにぃーー、アタシに火をつけてきたのが、いまのダンナってわけーー」

「まぁ、奥さん!!のろけちゃって!!お熱いことっ!!」


【 主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編 】

-- 完 --


▶︎note創作大賞 [re:pairs]シリーズ(過去作のリペア作品集)
・「ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜」
・モノローグの雨
・主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編
・“HONEY-BUNCH” X’masの魔法
・行楽シーズンのバイト
・ペットと飼い主 -pet shop owners-
・注文の多い立ち食い蕎麦屋
・不可解な詐欺


▶︎note創作大賞ノミネート作品 [Re:電脳虚構]
作品リストリンク
01 
善意の都市 -bad? intentions-
02 
人生テトリス -identity-
03 
マッチング・アベニュー -encounter-
04 
秘密の花園 -Lady Player One-(書籍未収録作品)
朗読作品リンク
01 
善意の都市 -bad? intentions-(朗読:水乃しずく)
02 
人生テトリス -identity-(朗読:やなせなつみ)
03 
マッチング・アベニュー -encounter-(朗読:やなせなつみ)


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