暇和梨(ひまわり)。

貧乏人の下っぱ職人。「浅く広く」がモットーというか、結果的にそうなってしまうというか……

暇和梨(ひまわり)。

貧乏人の下っぱ職人。「浅く広く」がモットーというか、結果的にそうなってしまうというか……。そんな感じの人間です。

最近の記事

🌻短編その4(終) お使い少年と前世の因縁 

「……! 小娘ぇ……!」  鎖骨の辺りから腹にかけて刀で切り裂かれた女は、いつの間にか半身だけ起き上がり、幽霊らしくスルリと地面を浮きながら男の背後に近寄り、両手で刀を握っている男の右手を押さえ込んだ。  男もまた致命傷を負った。男はもう助からない。……だが、それで霊が滅びることはない。悔いが残る限り、暫くすれば復活する。 「――おぬし、今がいつか分かっておるか?」  女が尋ねると、男は血走った眼を女に向けた。 「何を。今は――」  そこから先、男は言葉に詰まった。どうやら分

    • 短編その3🌻お使い少年と前世の因縁

      「忘れものだ」  燃え落ちる城から現れた部下が、置いてきた刀を拾って闇から現れた。  怜悧な顔をした男は、忍装束に身を包む部下を見て、目を細めた。  男の腹には、鎖鎌が深々と突き刺さっている。  完全なる不意打ちだった。体から力が失われ、ドサリと音を当てて倒れながらも、男は部下から目を離さなかった。 「……言ったはずだぞ。此度の仕事は我らの生き残りを賭けたものだと。情勢が読めぬ本家の連中に付き従っていても、我らに未来はないと。ここらで裏切り敵方に付くのが、最も生き残る確率が高

      • 🌻短編その2 お使い少年と前世の因縁

        「……アンタも不器用な男ねぇ」  炎上し、落城目前の城の中で。血と共にキセルからくゆる煙を吐き出し、女は憐れみを帯びたため息を吐いた。  女は、袈裟懸けに斬られている。もう間もなく死ぬだろう。 「どうとでも言え。言い訳はせん」  男は血で濡れた刀を鞘に納め、女から背を向けた。 「俺は俺を赦しはせん。例え百万回輪廻転生しても、俺自身を百万回殺す」 「……あの世でくらい愛し合おう、とでも言えないのかい? 私を彼岸でまで待たせる気?」  女がそう言うと、初めて、男は笑った。自嘲気味

        • 🌻短編その1 お使い少年と前世の因縁

          「どうしよう……」  動揺し揺れる内情がハッキリと感じられるくらい、幼い少年は慌てていた。  夕陽が山間に完全に隠れるまで、あと数分といったところだろうか。  四方を山に、周囲を田んぼに囲まれたあぜ道を歩く少年の手には、母の手提げ鞄があり、その中には千円札が三枚入ったポーチがある。  少年にとって、今日は初めてのお使いだった。  病気で寝込む母のために、風邪薬を買いに薬局へ行くつもりだったのだが……気が付けば、少年は見たこともない場所を歩いていた。 『言ったろう? お前はま

        🌻短編その4(終) お使い少年と前世の因縁 

          週末日記 朝一の一杯

           子供のころから本が大好きだったせいかもしれないが、市場とか、商店街とか、こぢんまりとした商店が並んでいるとテンションが上がる。  巨大なショッピングセンターより確実に品揃えが少ないのに、何だか面白いものが見つかりそうな気がしてくる。  そんな理由でここ数年、俺は仕事帰りによく駅近くの百貨店に行く。  中で物産展をやっていて、見ているだけで面白いからだ。  北海道展や沖縄展のようなものだとローカルフードをよく扱っていて、美味しくて行くのだけど……たまに日本の名酒だとか、コー

          週末日記 朝一の一杯

          【小説・短編】初恋少年と幽霊JKと後悔

           典型的な田舎のこの町には、田畑はあるが、人工的な匂いがする林は殆どない。  数少ない例外が図書館で、駐車場や建物の周りに、外国のよく分からない木が何本も植えられている。同じ緑一いっぱいの光景だけど、そこだけ人工的で都会的な……大人びた雰囲気があるから、健也は図書館が好きだった。  低学年の頃は図書館の前で時々一人遊びに耽っていて、それから成長し、小6になった今では毎週のように本を借りに来るようになっていた。  寂れたその図書館の利用者は少ない。でも健也が行くといつも必ず先に

          【小説・短編】初恋少年と幽霊JKと後悔

          🌻ショート(後編) エルフとドワーフの珈琲探し 

           携帯用の鉄製のマグカップに、ざっと挽かれたコーヒー豆を入れて、焚火にケトルを設置してお湯を作る。 「……これで良かったのかのう?」  ドワーフの男は髭を撫でつつ首をかしげるが、エルフはそれに答えなかった。  すっかり日が落ちた廃墟の中心で、魔法で保存されていたとはいえ三百年前のコーヒー豆が入ったカップを覗き込む。  嗅いだことのない良い香りが、ドワーフの鼻腔をくすぐった。 「これが最適解ですわ。この町は嗜好品のせいで滅んだ。……たった三杯しかないなら好都合。私(わたくし)た

          🌻ショート(後編) エルフとドワーフの珈琲探し 

          🌻ショート(前編) エルフとドワーフ 珈琲探し

           そこは無人の都市だった。  人がいなくなって三百年は経ったであろう廃墟の都市を、女エルフと男ドワーフのコンビが歩いている。  それぞれエルフらしく、ドワーフらしく。女は魔術師で、ドワーフは斧使いだった。  二人の間に世間話はなく、ただ黙々と歩いている。関係は良好とはいいがたかったが、敵対的でもない。  田舎から都会に移り住み、そこで話したことのない地元の知り合いと偶然出会った――二人の間にあるのはそんな、「遠いけどどこかで細くつながっている仲間意識」だった。  二人は同郷だ

          🌻ショート(前編) エルフとドワーフ 珈琲探し

          🌻ショート(後編)珈琲とゴミ屋敷

          「アンタ、大丈夫?」「うん、大丈夫だから。……母さん、またね」  母からかかってきた電話に、私は疲れた声で返事を返して電話を切った。     客観視できていないが……どうやら私は、私が自覚している以上に疲れているらしい。  ストレスがきつい時、どうすればいいのだろう……。架空のペットの世話とか、そういうタイプのアプリはいくつも入れてみたけど、長続きしなかった。 「そうだ……趣味を見つけようか」  何か、没頭する趣味が欲しい。それこそ仕事のことを忘れられるような。何か自分の自信

          🌻ショート(後編)珈琲とゴミ屋敷

          🌻ショート(前編) 珈琲とゴミ屋敷 

           ネオンが眩しい繁華街の横にある、昭和の匂いが漂う商店街。その一角にある「田米珈琲」という珈琲店を、私は毎日その前を通るたびに、古臭いな……と思いながら見ていた。  味があると言えば聞こえはいいが……店からは年季が入ってるが故の、こびりついて離れない「薄暗さ」が見え隠れする。  常連客以外の出入りが少ないがゆえの「停滞した淀み」。掃除しても掃除しても取り切れない建物の劣化。  それが私には、いいものには感じられなかった。  ……こんな店に私が通うようになるなんて、思ってもみ

          🌻ショート(前編) 珈琲とゴミ屋敷 

          🌻ショート(後編)初恋少年と幽霊JKと後悔

           包丁を持った女が、男をメッタ刺しにしている。  男にはもう、命が無いように見えた。 「男なんて……男なんてぇ!」  泣きながら包丁を振り回す女が、ぎょろりと目を動かしてこちらを見た。  その貌には、人として当然持つ何かが決定的に欠けていて…………初めて見る表情だが、正気を失っていることは陽子にもすぐ分かった。 「アハハ……口封じ、しなきゃ」  監視カメラを背に、そんなことを言いながら立ち上がり、女が走り出した。 「陽子、逃げろっ!」  必死な声で陽子をかばうように前に出た健

          🌻ショート(後編)初恋少年と幽霊JKと後悔

          🌻ショート(中編) 初恋少年と幽霊JKと後悔

           亡霊の陽子は、自分がいつからこの図書館にいるのか、何一つ覚えていない。  生前の自分は……たぶん、それなりに幸せだったと思う。  そう、最期の瞬間までは。  包丁が脇腹に突き刺さって、すごく痛くて熱くて……そして凍えるように身体が冷たくなっていったのを覚えている。  そして、何かを後悔した。  このままあの世に行くのは嫌だ。そんなことを思いながら、陽子は死んだ。  そして気が付くと、セーラー服姿で図書館に浮かんでいた。  私はこの図書館で殺されたのだ。そのはずだ。でも

          🌻ショート(中編) 初恋少年と幽霊JKと後悔

          🌻ショート(前編)初恋少年と幽霊JKの後悔。

           典型的な田舎のこの町には、どこまでも続く田園地帯がまずあり、そしてそれを囲うように、杉のような、日本ではお馴染みの木々が植林された山々が広がっている。どこもかしこも「日本」を感じる風景だ。  数少ない例外が図書館で、駐車場や建物の周りに、外国のよく分からない気が何本も植えられている。同じ緑いっぱいの光景だけど、そこだけ人工的で都会的な……大人びた雰囲気を感じるから、健也は図書館が好きだった。  低学年の頃は図書館の前で時々一人遊びに耽っていて、それから成長し、小6になった今

          🌻ショート(前編)初恋少年と幽霊JKの後悔。

          🌻ショートショート 「鉛筆先輩とシャーペン後輩」

          「ふん、お前が新入りか」  その日、新しく筆箱に転がり込んできた青いシャープペンシルに、古株の鉛筆が声をかけた。随分と短くなった、緑色の定番の鉛筆だ。 「俺たち鉛筆より妙にメカメカしいな。……この筆箱の持ち主は、なかなかにヤンチャな坊主だぞ。いつまで持つかな?」  鉛筆の嘲るような発破に、青いシャーペンが鼻を鳴らした。 「鉛筆ってなんで廃れないのかしら? そろそろ全部シャーペンでいいと思うのだけれどね」 「なっ……」  シャーペンから聞こえてきたのは、生意気な口調の、若い女の

          🌻ショートショート 「鉛筆先輩とシャーペン後輩」

          ショートショート 因幡の白兎(裏)

          「人魚姫が、人魚姫が来たよ~!」  白い背が野原をぴょんぴょんと跳ねる。燕尾服を着た兎が、人魚姫の来訪を知らせるべく王宮へと向かっていく。 「えっ、姫様?」「人魚姫?」  燕尾服の兎の声を聞きつけ、周囲からどんどん兎たちがやってくる。  鍬を担いでいるもの、猟銃を持っているもの。子供を連れた夫婦。……服を着た色んな兎が、そこに現れた。  そこは兎の国だった。 「……かわいらしいですね、姫様」  人魚姫に付き従う侍女がそう囁くが、人魚姫は興味なさそうに「そうね……」と言うだけだ

          ショートショート 因幡の白兎(裏)

          久しぶりの日記。

           ふと書きたくなったので、久々に筆(?)を取ってみた。  一回体調不良で毎日投稿を止めて以来、noteの更新が何だか途絶えがちになってしまった。  元々フリーライターにちょっぴり興味があって、「金欲し〜、副収入欲し~」という理由でnoteを始めたから、フリーライターへの興味が失せ(ランサーズも退会した)、noteで金を稼ぐの……ムズくね? と気付いた今では、noteを続ける理由はなんだか楽しいから、という理由しかなくて……。   毎日投稿にこだわった結果疲れてしまって、病気