夕酌/takumi

都内在住。生活、音楽、考えることなど。

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マガジン

  • ココアを2杯飲む

    彼らは眠れぬ夜にココアを2杯飲むんだ。 おかしいだろう。

  • しりとりものがたり

    一人でしりとりをしながら、出てきた単語をもとに小さなお話を書いてみようという試みです。 とにかく書いて出すことを目標にしていますので、出来の良し悪しはご愛嬌。 不定期で月曜に更新予定です。

  • Re:CENT PLAYERS

    新しい・古いに関わらず、最近聴いたものの感想置き場。不定期。

  • 雑誌ヌガー Vol. 001

    • 6本

    音楽が生活の一部である人間によって作り出された雑誌です。

最近の記事

再び火を起こす

一年前の7月、私は炎を繰り返し見つめていた。先行きの見えない日々の中で、交わす言葉の不安定な変容に炎と同じものを見た。燃え上がる火は、ただ見ているしかできない。自らが過去に放った言葉も、人が集まって起きる様々なことも。 もちろんそれをできる限りどうにかしようという努力は素晴らしいことだと思う。だが、それで壊れてしまうものもある。例えば自分自身の心とか、だれかとの関係とか。そういったものを壊さないためにも、ある程度意識的に諦めをつけることは、結果として自らを守ることだと、その時

    • 見えないものを伝える

      この一ヶ月に一度だけの日記のようなものを書く時、今月のカレンダーアプリに入れた予定を見直してみる。ふと一年前と比べてみると、全く様子が違っている。途切れ途切れにいろんなことが起きていた日常から、途切れなく何かしらが起き続ける日常へと変化している。何かしらの変化は得られたということなのだろうし、その変化はおそらく今までの自分の変化よりも自覚的だ。 何につながるというわけでもないが、自分なりに得意とするもの、そしてそれを人に役立てられるかもしれないことを得た気がしている。 人が

      • 『re:sort』sora

        私の音楽趣味の師匠であり友人からは、本当にいろんな音楽を教えてもらった。その教えてもらった中に含まれているはずだと思うのだが、フランス人アーティストであるジュリアン・ロケのプロジェクトの一つであるDoline Murailleの『Mani』というアルバムがある。ずいぶん昔に教えてもらい取り寄せてまでCDを買ったが、今でも定期的に聴き返す一枚だ。この感じが一般的にどう表現されるのかあんまり分かってないのだが、個人的にしっくり来るのは「コラージュ的」という表現。様々な音や声、曲な

        • ビーカー

          ガラスが砕け散る音がする。たった1メートル。手のひらからこぼれ落ちたビーカーは1メートル分の重力による落下エネルギーを得て、底の角から床に落ちた。そのエネルギーが角の一点で一気に反射してビーカー全体に伝わり、ガラスは砕けていく。僕はその様子を真上からじっと眺めていた。砕けた破片がズボンの裾に当たるのも気にせず。どうして自分がここにいるかもわからない。理科室の大きな窓から見える満月の月明かりがあまりに明る過ぎて、窓の外は昼間のようにくっきりと明るい。だが、対照的に理科室の中は薄

        再び火を起こす

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        記事

          長い月が終わる

          長い長いひと月が終わった。振り返れば、今月の頭の出来事は遠く昔のことのようだ。月並みな表現だけど、心底そう感じているのだから仕方がない。GWもその後の土日も、なぜか気づけばイベントごとだらけだったこと。その間に挟まってくる仕事の時間が、少しだけしんどいものになっていたこと。その両極端な二つのことが、ポジティブ側とネガティブ側、両側から時間を引っ張って伸ばしたみたいな。 それでもなお、行けなかった場所、やれなかったことはたくさんある。どれだけ時間があっても足りやしない。そのこと

          長い月が終わる

          『Infinite Window』窓辺リカ

          すっかり最近のアーティストかと思っていたら、もう数年前から出てきているようで、相変わらず最近の自分のアンテナの低さに愕然とするばかりだ。まぁ別にいつのタイミングだろうと良いアーティストとの出会いは良いことなので別に良いのだけど。 まずそもそもにしてVirgin Babylon Recordsの名前を久しく聴いた。レーベルの主催者であるworld's end girlfriendには非常に複雑な感情を抱いている(そんなんばっかり)のだが、やっぱりGo-qualiaを世に放ってく

          『Infinite Window』窓辺リカ

          『nell』Joint Beauty

          リリースからは随分と遅れて聴いた『Special Days(feat.藤井隆&ピーナッツくん)』は久々に自分の中で大ヒットを飛ばし、ことあるごとにいろんなところで良いぞ良いぞと投げかけて回った。ピーナッツくんから知ることになったわけだが、ピーナッツくんが関わった楽曲の中でも5本指には間違いなく入るくらい好きになった。藤井隆も相変わらずいい塩梅で音楽活動をするよなぁ、いいよなぁと思っていた。 だが、どういうわけか、楽曲を作ったJoint Beautyの他の曲へと興味が行くことが

          『nell』Joint Beauty

          『LAYLAND』長岡亮介&aus

          先般の記事では随分とざっくりした話を書いてしまって、ausは00年代から活躍していた(というか2008年の『After All』というアルバムが活動停止前最後らしいが、昨日紹介した作品は2010年となっている。よく分からない…)ようで、しかもちらっと聞き覚えのある、とあるアーティストが捕まった話においても被害を被っていたようだ。そういった大変な時期を乗り越え、2023年に15年ぶりのアルバムを出したようだが、今回はそちらではなく、今年に入ってから出た新譜の話。たまたま聴いたア

          『LAYLAND』長岡亮介&aus

          『Light In August,Later』aus

          色々なものを聴きたい欲が久々に上がってきたので、「自分のライブラリに入れてあるけどいつ入れたかも分からないしあまり聴いていないもの」を聴いてみようと思った。で、最初にチョイスしたのがこのアルバムだった。 ざっと調べてみると、2010年代初頭に出てきた日本人アーティストで、エレクトロニカやアンビエントに分類される音楽を奏で、界隈では結構話題になったようだった。同時期にまさしくそういう音楽を結構聴いていたのだが、リアルタイムで聴いた覚えはあまりなかった。「聴いていた」とは言ったが

          『Light In August,Later』aus

          『from here to there』Ryu Matsuyama

          ご近所さんで音楽好きのジマーマン氏が自宅で開く「OMIYAGE TRACKS」に初めて参加した際、どなたかがかけた『kid feat. 優河』がとても耳に残った。優しいピアノ、美しいコーラス、リズム隊のないまま進行する穏やかな空気感がとても心地よく、しばらくこの曲だけをリピートしていた。Ryu Matsuyamaの名前は(なぜか個人名のようでバンド名であることも含めて)ちらっと聞いたことはあったが、アルバムを聴いたことはなく、せっかくだから聴いてみようと思ったのは、聴き始めて

          『from here to there』Ryu Matsuyama

          ルビ

          ルビが横並びの文章の上を移動していく姿を見たことがある。 文頭にあった「黒」という文字に振られた「く」の字が、左から右に向かって書かれた文章の上を、バネのようにぴょんぴょんと跳ねていた。他のルビはどこへ行ってしまったか、それとも最初から「く」以外いなかったのか。ともかくも「く」にはその先に一文の平野が与えられていた。 最初少し躊躇していた「く」だが、意を決したように飛び跳ねながら先へと進み始める。「黒」の字は比較的平坦で助走としてはちょうどよさそうだ。 だが「く」にはいきなり

          長いよるが続く

          眠れぬ夜は頭だけが高回転して、言葉にしていくことが全く追いつかない。眠りたいのに、どういうわけかどんどんと目が冴えていく。そして、どうせ忘れていく様々なことが頭の中を次々と通り抜けていく。気付けるかもわからぬ目印のように、今頭にあることを書けるだけ引き摺り出してみる。 ・大切に思う(思いたい)人たちが苦しんでいることに対して、色々と考えた結果何もできることがないこと ・誰しもが同じように考えることはできないことへの絶望と希望 ・言葉は万能であり無力、有益であり有害、与え奪う

          長いよるが続く

          我々は特殊なことをしたのか?~国立駅前ドーナッツパークを振り返る~

          長い前置き先日、JR国立駅前にある旧国立駅舎にて行われたドーナッツパークというイベントに関わらせてもらった。イベント自体をなるだけシンプルにいうと、ドーナッツにまつわる様々なコンテンツを提供し、楽しんでもらうというものだった。ドーナッツの販売や紙粘土のワークショップ、リビングスペースの提供や本の交換、フリーコーヒー、輪投げ、天体ショーおよび天文学者の講演と幅広いコンテンツを3日間提供し、多くの人に楽しんでもらうことができた。 楽しいイベントを作るお手伝いができたということに

          我々は特殊なことをしたのか?~国立駅前ドーナッツパークを振り返る~

          パイナップル

          暑い…。耐え難い暑さだ。いくらファンが回っているとはいえ、外気温が30度を超えている状態で、人一人分のスペースしかない着ぐるみの中は完全に蒸し風呂状態だ。ファンもあくまで着ぐるみを膨らませることが主目的であり、私に冷風を届けようなどという気は毛頭ない。挙句、重い。ご立派にも私の身長の1.5倍くらいある存在感の塊となったパイナップルの着ぐるみは、そのやたらと作り込まれてリアルな姿も相まってか、相当な重量で私の双肩に負荷をかけ続けていた。気まぐれを起こして何も考えず、町おこしイベ

          パイナップル

          ラッパ

          鳴り響くラッパの音が絶望的な朝を迎えたことを告げた。軽快なメロディとは裏腹にその音が意味するところは、重く苦しい。今日もいつもと変わらない朝を迎え、1日を何とかやり過ごし、生き延びて、夜深くにようやく布団に潜り込み、泥のように眠る。そしてまた再び明日の朝には同じラッパの音で目を覚ますこととなる。このような生活がいつまで続くというのか。心が安まらない。寝ている間もどこかでラッパの音がしている。夢の中で何周か同じルーティーンを繰り返している気さえする。だが、夢ではない朝のラッパの

          ゴリラ

          「だから申し訳ないんですけど、食べたことがないんですよ」 スーパーのレトルトカレーコーナーで私は何度目かの謝罪をした。ここにはいつも常備しているレトルトカレーのストックが切れていることを思い出し、その追加を買いにふらりと訪れただけなのだ。そのコーナーで面見せされているレトルトカレーの中から、いつものカレーを選ぼうとした時、ふとゴーゴーカレーのパッケージが目に入った。ゴリラの描かれた印象的なパッケージは、特に用がなくても目に入ってしまうが、少なくとも私の常備品ではなかったし、