パイナップル

暑い…。耐え難い暑さだ。いくらファンが回っているとはいえ、外気温が30度を超えている状態で、人一人分のスペースしかない着ぐるみの中は完全に蒸し風呂状態だ。ファンもあくまで着ぐるみを膨らませることが主目的であり、私に冷風を届けようなどという気は毛頭ない。挙句、重い。ご立派にも私の身長の1.5倍くらいある存在感の塊となったパイナップルの着ぐるみは、そのやたらと作り込まれてリアルな姿も相まってか、相当な重量で私の双肩に負荷をかけ続けていた。気まぐれを起こして何も考えず、町おこしイベントに参加することを了承してしまったのがそもそもの間違いだ。フルーツの着ぐるみを着て15分程度パレードしていただくだけです、という主催者からの電話での説明だけでわかった気になり、どれを着るかもおまかせきりだった。そりゃ誰もこんな重量のあるパイナップルの着ぐるみなど着たくはない。しかもパレードだから何となくクルクル回ってほしいとのリクエストまでついている。目まで回る。ただでさえ朦朧としているのにだ。ついでに言おう。私はパイナップルが嫌いだ。どうにもあのトロピカルな味わいが口に合わない。このイゴイゴとした見た目も何だか不安を煽られる。クルクルと回っているパイナップルを見たら、次から発狂するに違いない。クルクルパイナップル…ふふふ…そんな状態あるわけないのに…ふふ…。
次に気づいた時、私はクーラーの効いた畳の一室で横たわっていた。どうも暑さと重量と回転に耐えかね、本当にそのまま気を失ってしまったようだ。周りの人がバタバタしながら大丈夫か、すまなかったと仕切りに話しかけてくる。どうも救急車がこれから到着するらしい。大丈夫だと言いたいが、体がうまく動かないあたり、そのまま従った方が良さそうだ。とりあえず水分を摂るようにと、濃い黄色のジュースを渡され、何も考えずにそのままごくごくと飲んだ。爽やかな果汁が喉を通り抜け、ようやく息ができるようになった気さえする。ありがとう、とても美味しい、これは何ジュースかを問うと隣で団扇をパタパタ仰ぎ続けてくれていたおばちゃんがニコニコしながら言った。
「パイナップルジュースですよ」

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