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浜辺に打ち上げられた設定/もちはこび短歌(3)

文・写真●小野田光

帰ったら上着も脱がずうつ伏せで浜辺に打ち上げられた設定
原田彩加黄色いボート』(書肆侃侃房、2016年)


 今日、わたしの「脳内もちはこびリスト」からご紹介する短歌は、疲れた時によく効く一首だ。
 疲れて帰宅することは、誰にでもあると思うし、わたしにもある。そんな時に思い出す歌。自宅でも、出張先のホテルでも思い出す。これからもどこへでもこの歌を連れてゆくことだろう。
 仕事や社会の喧騒から脱出し、自室でようやくひとりだけの世界に入り込む瞬間。力が抜けてコートを着たまま倒れこむ。でも、その時に「ああ、今は、浜辺に打ち上げられた設定!」と思えば、なんかたのしい気分になるのだ。たぶん、好きな短歌を脳内から取り出してきたということが、仕事の世界から短歌の世界に帰ってきたという確認になってうれしいのだろう(もちろん作者の原田さんがわたしにとって、とても大切な短歌の友人だということもある。仕事から離れて短歌の友人のことを思い出す時間はたのしいのだから)。
 そして、そんな気分を取り出しやすくしているのが、最後の「設定」という言葉だと感じる。ここは浜辺ではない、フィクションなんだ、という念押し。虚構性はわたしの心をすごく楽にする栄養素なのだ。虚構は現実から離れた快感をもたらしてくれる。みなさんも、肉体疲労時の栄養補給に、浜辺に打ち上げられてみませんか。

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3月22日(金)19時から
福岡の本屋さん&カフェ「本のあるところ ajiro」で、トークイベント「『蝶は地下鉄をぬけて』ともちはこび短歌のこと」を開催していただくことになりました。
「もちはこび短歌」を10首ご紹介し、その短歌の実生活における効用などもお話しする予定です(noteではご紹介していない10首をご用意するつもりです)。お近くの方、よろしければご来場くださいませ。お会いできること、たのしみにしています。
当日は20時からの「ajiro歌会」に、わたしも参加する予定です。

お申し込み(要予約)はこちらからどうぞ。

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