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【自作小説】カンガルージャーキー

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自作小説。子供と大人の狭間にいる男女3人の青春小説です。少し前に書いたので、設定は古いのですが、お許しを。 答えがあるものがすべてではないのだ、という現実を初めて目の当たりにした…
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2020年8月の記事一覧

「カンガルージャーキー」ep.15

「カンガルージャーキー」ep.15

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 クジラの捕虜を否定する国に、カンガルージャーキーがあっていいのだろうか。
 観光客に向けて触れ合いツアーがあるほどに可愛がられているはずなのに、食肉として土産が売られている現実は、生まれてきた環境で考え方が違うのだという例えの一つでしかない。
 そんな違いに、興味を示す人、嫌悪を示す人、無関心な人、受け入れる人……と世の中いろいろな人がいるもんだなぁ、と関心する。
 
 土産店の人気商

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「カンガルージャーキー」ep.14

「カンガルージャーキー」ep.14

 日本に帰って来てから、退屈な時間の経過の中で、私自身の何かが変わったのを感じていた。あの星空を思い出すと、その時の感覚が蘇る。今なら何にでも立ち向かえるような気がする。単純な考えだということは分かっているけれど、楽観的に物事を見るのも悪くないかも、そう思えるようになれたのだ。それほど、あの光景と時間は私にとって大きな影響を与えるものだった。
 祐樹も同じだったのかもしれない。彼の目には、何か迷い

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「カンガルージャーキー」ep.13

「カンガルージャーキー」ep.13

*** 

 北半球の島国は猛暑だった。
 すっかり南半球の気温に慣れていた身体は、急激な変化に追いつけなかったらしく、私は帰国してすぐに体調を崩した。スーツケースを仕舞うこともできず、始めの一週間は学校が終わるとすぐに帰宅してはベッドで過ごした。スーツケースに染みついた南半球の香りは、自然とあの高い空を思い出させるものだったけれど、淡々と過ぎる日常は、一週間前の時間が幻だったのかと思えるほど味気

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「カンガルージャーキー」ep.12

「カンガルージャーキー」ep.12

「あれ?日本人?」
 一杯目の乾杯をしてしばらく経つと、突然、肩に手を置かれた。
 そいつの声は確実に男の声だったが、振り返って目に入った人間はまるで女の子のような顔をしていた。肌は白く、髪色は金髪に近いくらい明るい。両耳に、瞬時には数えられない程のピアスをしていて、その中には小ぶりの、花のモチーフをしたものも見えた。そのピアスは、違和感がないほど彼に似合っていた。

「え、あ……はい。」
 急に

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「カンガルージャーキー」ep.11

「カンガルージャーキー」ep.11

 シドニー二日目は、現地ツアーに申し込んで、ブルーマウンテンズとジェノラン鍾乳洞に行くことにした。涼子も真司も英語を勉強したい、という強い希望で、幾分日本語のものより安い英語のツアーを申し込んでいた。

 昨夜早く寝たからか、朝は三人で近くのカフェでモーニングをすることにした。モーニングと言っても日本のように良心的な金額でもなかったが、空腹だった三人にとって、金額よりもボリューム重視でオーダーをす

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