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【87】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 最終日 余市〜札幌① 2020年8月18日

※note公式マガジン「国内旅行 記事まとめ」「#旅のフォトアルバム 記事まとめ」「ロードレース 記事まとめ」に、本稿の前日の記事「86】北国の空の下〜岩内〜余市③」をピックアップしていただきました。ありがとうございます!


2015年の春から足掛け5年、つぎはぎで走ってきた「週末北海道一周」の最終日を迎えました。

▼ 「週末北海道一周」、ここまでの記録はこちらです。


◆ 旅の終わりに

いつものように5時に目が覚めると、余市の町の上には青空が広がり、夏の終わりの柔らかな日差しが降り注いでいました。

深く耳をすませば 朝一番の汽笛 町はにわかにざわめいて
遠い旅の空から きみに送る便りは 力まかせの殴り書き
回り道でも 人生の終わりに きみにもう一度 会えたならいいね

松山千春『人生の空から』

昔から好きな曲のフレーズが、よく似合う朝。
札幌まで、残すところ60キロあまり。まっすぐ走れば昼前には到着してしまいます。そこで、友だちに以前から薦められていた、赤井川カルデラを走りに行こうかと考えていました。

函館線の始発列車で倶知安まで輪行すれば、赤井川カルデラを走って、昼前には余市へ戻ってこられそう。それから札幌への最後の道程に就いても、日の長い時期ですから、余裕を持って走り切ることができるでしょう。

そのプランを実行するには絶好のお天気。そして、絶好の時刻に目覚めました。
ところが、前夜の呑みすぎ・食べすぎが祟って、胃がもたれてたまりません。

ゆうべは、ホテルのフロントで教えてもらった居酒屋でひとしきり呑み食いしたあと、満天の星の下、夜の町を散歩し、適度に酔いが醒めたところでおとなしく宿へ戻りゃあいいものを、〆にちょっとだけ寿司つまむべえ、と、ホテルに程近い地元で評判の回転寿司へ、ふらふらと吸い寄せられました。北海道における回転寿司のクオリティの高さは定評がありますが、この店も評判に違わず、2〜3皿つまんでさっと帰るつもりだったのが、どれだけ呑んで食ったのか…
朝になってもまだ腹が苦しく、どうにも起き上がるのが億劫で、テレビをつけてゴロゴロしているうちに、始発列車は汽笛を残して行ってしまいました。

◆ 忍路半島

7時半、国道6号線を東へ走り出しました。ちょうど出勤時刻なので、クルマが頻りに行き交います。道路の端に寄り、路側帯のマンホールの段差に煩わしさを感じながら市街地を走りました。
市街地を抜けると、左手に渚、前方に忍路半島、そして後方には昨日走り抜けた積丹半島の東海岸のパノラマが広がりました。

▲ 朝のビーチを東へ

交通量の多い国道を走り続けるのもストレスが溜まるし、余市〜小樽間には長いトンネルもあります。適度に寄り道や回り道をしながら走ることにしました。
まず、忍路半島に寄り道。ここはもう小樽市の一部です。
ひとしきり長い坂を登った先、忍路トンネルの手前で左折して半島に入り、漁港まで直線的な長い坂道を下っていきます。

小樽は、道央の都市部の中では、特に高齢者比率が高い街。東京に対する横浜、大阪に対する神戸のような存在なのだから、港湾都市としてもベッドタウンとしても、もう少し活性化して良さそうなものだけど、やはり気候の厳しい日本海側ということがハンデなのでしょうか。ここまでの北海道一周の道程でも、日本海側は急速に過疎化が進む僻遠の地という印象が強く、経済振興や地域コミュニティの活性化など、厳しい状況が窺えました。
そんな中、この忍路半島は隠れ家的な雰囲気を好んで定住する人も少なくないのでしょうか、最近新築または改装された家も少なくありませんでした。半島の先端にある漁港まで降ると、端の方に赤い屋根が印象的な可愛らしい建物があります。北大の臨海実験所でした。

▲ 漁港へ下る道より
▲ 忍路漁港と北大臨海実験所
▲ 小樽方面を望む

◆ google mapに翻弄される

緩やかな坂道を登り返して国道に戻り、歩行者用のボタンを押して横断。反対側で、信号が変わるのを待っていたスクーターの女性から、ありがとうございます、と声を掛けられました。他人のためにやったことじゃないのだけれど、良いことをしたような気分になりました。
この先、大型車が間断なく行き交う国道6号は忌避し、山側を並行して走る道を行くことにします。地図には「フルーツ街道」と記されており、山裾にリンゴ畑などが広がる長閑な風景の中をゆったり走れるのでは、と期待していました。

函館本線の踏切を渡り、細い生活道路のような道を抜けてフルーツ街道に至ると、いきなり轟音と共にダンプが駆け抜けていきました。国道ほどではないとは言え、結構クルマが走っています。しかも道路は幅員が狭く荒れていました。風景も期待に反して、何の変哲もない雑木林が続いていました。

森の中のアップダウンを繰り返し、塩谷付近で再び国道に出ましたが、このまま国道を辿るのも面白くないので、内陸を通って祝津へ抜けてみようと、Googleマップでルート検索してみました。
表示されたルートは、住宅地の中の細道やら、墓地の中やらを抜けており、一抹の不安を覚えましたが、時間もあることだし、Google先生のご指示通りに走ってみることにします。

国道を逸れると、いきなり20%はあろうかという激坂が登場。僅か数十メートルながら息が上がります。この辺は、斜面に公営の団地や住宅地が細長く伸びており、開発から4〜50年ほども経った高齢化の象徴のようなエリアに見えました。
再び国道に戻り、長い坂道を登らされ、また左に逸れて住宅地に入ります。

小樽は坂の街。自転車乗りの間では、手宮の「励まし坂」が知られており、わたしも5年前に登りました。最大勾配24%という激坂が延々1キロ近く続いており、筋力的なきつさはもちろんのこと、最後の方では心肺機能が限界に達して臓器が破裂しそうな恐怖に襲われ、2〜30メートルを残して、足をついて路傍にしゃがみこんだものです。

▲2015年11月 励まし坂で息も絶え絶え

この住宅地にも、距離は励まし坂よりはるかに短いものの、斜度は引けを取らない厳しい坂が待ち構えていました。のみならず、その先には同等の急な下りもあります。前転しそうな恐怖を覚え、曳いて下りました。半年前の骨折のトラウマが残っているのです。
続いて、山裾のダート混じりの道を走らされます。Google先生はいったい、わたしをどこへ連れて行くつもりなのだろう。

ようやく、オモタイ周回道路だったか小樽周回道路だったか、ちゃんとした道に出ました。が、ここも山中の寂しい道で、ごみ収集車が2、3台駆け抜けて行くだけ。
ともかくも、山中を緩やかに弧を描く道路を辿っていきます。
やがて住宅が増え、周回道路を外れ、生活道路を走り、またその道を逸れて、急斜面に広がる高島墓地に着きました。墓標の間を一直線の激坂が蒼天へと伸びています。

▲ 高島墓地 天国へ続きそうな道

この道を登って行くと自分も動脈が破裂して昇天してしまうのではないか、などという不安がよぎったわけではありませんが、今日はフルーツ街道といい、Google先生にナビゲートされた不可思議な道といい、北海道一周の掉尾を飾るにはパッとしない道ばかりで、そこへ持ってきてこんな道、何だか嫌になってしまいました。後になって航空写真を見れば、墓地を迂回して登る道もあり、その先には祝津パノラマ展望台というのもあるのですが、この時はもう面倒になってしまい、とにかく走りやすい道に戻って確実に祝津まで行こう、という気持ちしかなくなっていました。
高島墓地に背を向け、家並の中を海岸線に向かって下り、小樽市街地と祝津を結ぶ道道を走り始めた時は、やれやれ、と思ったものです。

◆ 祝津にて

そして、やっと祝津の浜辺に着きました。

▲ 祝津にて、鰊御殿をバックに

今さら鰊御殿や小樽水族館の見学でもないので、路傍に腰を下ろし、クレジットカード会社へ電話を入れました。一昨日来、何故か決済ができなくなってしまっているのです。来週には引越し費用など高額の決済を予定しているので、このままでは困ります。

オペレーター曰く、限度額オーバーや不正利用などが原因ではなく、ICチップの摩耗と思われ、代わりのカードを送るとのこと。ついでに引越しに伴う住所変更手続きもしていたら、結構な時間を喰ってしまいました。

北海道一周をスタートした5年前からの大きな社会変化の一つが、キャッシュレス決済の普及です。おかげで、外食やコンビニで現金を使う機会が大幅に減り、数日間のサイクリングでも銀行のキャッシュカードを持ち歩く必然性がなくなりました。
また、このようにクレジットカードのトラブルが発生しても、手持ち現金とバーコード決済や交通系IC決済で、何とか対処できるようになりました。
一方で、スマホへの依存は増す一方であり、こっちをなくしたり壊したりしたら、大ごとなのですが。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次は、小樽から札幌へ、北海道一周の轍をつなぐ最後の行程です。よろしければ続きもお読みいただければ幸いです。

わたしは、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。



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