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【読書】『昨日までの世界』[下]⑧【宗教の役割】

【読書】『昨日までの世界』[下]⑧【宗教の役割】

「それって本当に宗教?」
と疑問に抱く事件やニュースは枚挙にいとまがないが、現代社会のみならず、過去の歴史を鑑みても同様である。
 宗教は信者に、大なり小なり、時間と資源の投下を求める。経済学の言葉を使えば、機会費用を奪っている―――――他のことに使える時間とエネルギーを奪っている。
 だからといって、宗教が無くなるか、滅びるか、と言われると、そんなことはないだろう。
 いつの時代でも、どこの社会

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【読書】『昨日までの世界』[下]⑦【危険とリスク対策】

【読書】『昨日までの世界』[下]⑦【危険とリスク対策】

 クン族のコマという男とは、自分の狩りの獲物に群がるライオンやハイエナたちを平気で追い払える男でもある。しかし、車が走る道路を横断する際には恐怖に震える。
 ニューギニアのザビーネは、野生の豚やワニを目にしたときでも、身の危険を冷静に判断できる男である。しかし車が走る道路の場合は、コマと同様である。

 どの社会においても危険と無縁ではないが、社会ごとに特異な危険が異なる。
 平均寿命の差から判断

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【読書】『昨日までの世界』[下]⑥【建設的なパラノイア(被害妄想)】

【読書】『昨日までの世界』[下]⑥【建設的なパラノイア(被害妄想)】

事故は、いずれ起こる ジャレド・ダイヤモンドさんがニューギニアの密林でフィールドワークをしていた時の話だ。
 ニューギニア人たちは、枯れた巨木の下で寝て、一晩過ごすことを極度に怖れていた。
 巨木が倒れてきて自分たちが下敷きになるかもしれない、と。
 はじめのうちは、彼らの怖がりようは大げさで、ほとんど被害妄想だと思っていたそうだ。
 しかし、その後、数カ月つづいたニューギニアの森での観察活動のあ

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【読書】『昨日までの世界』[上]⑤【高齢者への対応】

【読書】『昨日までの世界』[上]⑤【高齢者への対応】

 社会が高齢者をどのように処遇しているか?
 子育て同様、高齢者の処遇は、現代社会においてもバリエーションがある。
 しかし、伝統的社会のあいだにみられるバリエーションは、現代社会よりもはるかに幅が広く多岐にわたる。
 高齢者の世話は理想として、如何にあるべきか、誰が担うべきかは、ナイーブな問いかけである。
 ナイーブな問いかけになってしまう最大の理由は、我々もいずれ高齢者になる、ということである

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【読書】『愛着障害』【愛着は人間関係の土台なのです】

【読書】『愛着障害』【愛着は人間関係の土台なのです】

 キッカケは『カサンドラ症候群』を読んだこと。
 「愛着障害」に興味をもったしだい。

 人間が幸福に生きていくうえで、もっとも大切なものは、安定した愛着である。
 愛着の問題は親子関係を直撃しやすい。
 とはいえ、問題のなる親に育てられながらも、立派に育った人の例は本書にも登場する。ほかの本にも例がある。
 進学、就職、パートナーとの出会い。そのどれもが「愛着障害」の克服につながる。
 しかし、

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【読書】『カサンドラ症候群』【犯人捜しより原因探し】

【読書】『カサンドラ症候群』【犯人捜しより原因探し】

 いくら伝えようとしても伝わらない、という喩えに、カサンドラが使われる。

 共感性や応答性に欠けた夫と暮らす苦痛をわかってもらおうとしても、常識的な人ほどその苦しみがわからない。
 夫の共感性に問題があるため、妻にうつやストレス性の心身の障害を呈するに至ったものを「カサンドラ症候群」と呼ぶ。
 かつては、妻のほうに問題を押し付けられることがしばしばで「ヒステリー」と呼ばれたりした。
 原因は夫の

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【読書】『昨日までの世界』(上)②【トラブル解決の比較と考察】

【読書】『昨日までの世界』(上)②【トラブル解決の比較と考察】

 パプアニューギニアで発生した交通事故である。
 ミニバスの後方から飛び出したビリー少年が、マロという男の運転する車にはねられた、というものである。
 なお、マロは地元の会社に雇われていたドライバーである。
 この事故は、ヤギーンという人物が仲介して、被害者と加害者の間に立って交渉した。
 五日後に、マロの上司ギデオンがビリー少年の遺族のもとに訪問し、謝罪の言葉を述べ、食料を贈り、遺族とともに悲し

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【読書】『昨日までの世界』[上]①【交易の目的】

【読書】『昨日までの世界』[上]①【交易の目的】

 本書は、伝統的社会と現代社会を比較考察し、そこから判明する叡智を、日常生活や政策に反映させようと試みている。

 ただし、いたずらに伝統的社会をユートピアと考えているわけではない。現代社会ではありえないような危険や不幸が含まれている。それに気づけば、現代社会の優れた点を、改めて理解できる。
 しかし、だからといって、伝統的社会がディストピアだと決めつけるわけでもない。忘れ去ったものや、打ち捨てて

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【読書】『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』

【読書】『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』

 本書は、ストレスに対する思い込みを変え、上手に付き合う方法を提示している。
 なにより、ストレスとうまく付き合っていくためには、科学的な知識があったほうがいい。
 理由の一つは、人間の性質に関する研究は、自分自身や大切な人たちに対する理解を深めるための、良い機会になるから。
 二つ目は、ストレスの科学は驚くべき発見があるからだ。
 「なぜそうなのか?」という科学的根拠を理解できれば、学んだ方法を

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【読書】『改革の不条理』【制度と人間を活用する】

【読書】『改革の不条理』【制度と人間を活用する】

本書で取り上げる「改革の不条理」は多方面にわたる。
 しかし、主語を変えたり、商品・製品・サービスを変えてたりしてみても、現在進行形で通用してしまう―――――「問題」が変わっていないのだ。
 それはなぜか?
 失敗したり、不祥事を起こしたり―――――それはもちろん悪いことなのだが―――――非難を繰り返すだけでは、問題が解決しないからだ。
 問題を解決するには、対策を考えるしかないのである。

人間

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【読書】『わが友マキアヴェッリ』第三巻【イタリア統一しかない】

【読書】『わが友マキアヴェッリ』第三巻【イタリア統一しかない】

考えることしかない 仕事が大好きであったがゆえに有能になり、有能であったがゆえに職場から追放される。
 皮肉以外の何物でもないが、仕事がなくなってしまったがゆえに、考えることしかできなくなってしまった。
 マキアヴェッリ、四十四歳から四十六歳は、最も失意の時期で、不惑どころか戸惑ってばかりであった。
 だからこそ『君主論』が生まれるのだけれども。

フランチェスコ・ヴェットーリ

 一五一三年、フ

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【読書】『わが友マキアヴェッリ』第二巻③【失職】

【読書】『わが友マキアヴェッリ』第二巻③【失職】

自分の国は自分で守ろう・・・・・とした 終身大統領になったソデリーニは、新税法案の理論的根拠作成をマキアヴェッリに命じる。
 新税を課さない限りフィレンツェ政府の財源は尽きていたからだ。
 だからといって新税が嫌われるのはいつの時代でも変わらない。
 したがって、誰もが納得する根拠を提示して、それで押す、しかない。
 そのマキアヴェッリの論文は、
『若干の序論と考慮すべき事情を述べながらの、資金準

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【読書】『わが友マキアヴェッリ』第二巻①【フィレンツェ孤立】

【読書】『わが友マキアヴェッリ』第二巻①【フィレンツェ孤立】

傭兵に頼って大失敗 「徴兵」制度に基づき、自前の軍事力を備えたとしよう。
 そうすると、仕事をするのに絶好の年頃の男たちが、生産活動に従事できず、消費するだけの戦争に出かけていく。
 それなら、自分たちは生産活動に専念して、戦争は「傭兵」に任せよう。
 こうして、この当時のイタリアは、戦争を傭兵に任せるようになる。
 これを傭兵隊長の立場から考えると、自分の部下である傭兵は立派な「資産」なのである

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【読書】『わが友マキアヴェッリ』第一巻③

【読書】『わが友マキアヴェッリ』第一巻③

 一四九八年五月二十三日、サヴォナローラ処刑。

失職したマキアヴェッリの想いは? これからマキアヴェッリの「現役時代」の話になるのだが、その前に「失職した想い」を想像するのは、順番が逆であるようように思われるかもしれない。
 しかし、「現役時代」のマキアヴェッリは、まさに八面六臂の大活躍なのである。
 それでいて「失職」してしまうのだということを念頭に置いておかないと、マキアヴェッリの想いに寄り

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