【小説】 職場に警察が乗り込んできた話

「全部の犯人に似ている」

そんな単語を見てある一人の後輩を思い出した。

彼はかつて勤めていた会社での後輩で、私は新卒入社してきた彼の教育担当だった。

彼は調子がよく、何に対しても「頑張ります」と口にしていた。

しかし、返事は良いが頑張らない人間だった。
正確には、本人は頑張っているつもりになっているようだった。

これは後で知ったことだが、私や他の上席の人間がいない所では全く別の顔を見せていたらしい。

周囲の人間に不平不満を撒き散らし、自分は頑張っていると豪語していたらしい。

あまりにも結果が伴わないので手を抜いているのか力が無いのかを判断しかねていたが、力が無いという方が正解だったようだ。

彼をあるべき姿へと導いてあげられなかった、彼のスキルを伸ばしてあげられなかった、そんな私の力不足は否めない。

反面、その一つ下の後輩はぐんぐん伸びていったので、私だけの問題ではないと思いたい気持ちもある。

彼に関するエピソードは枚挙に暇がない。

例えば、
・元カノとのエピソードをドヤ顔で延々と語り続ける話
・社内のグループLINEにエッチな漫画を投下してしまった話
・飲食店でお冷のおかわりを注ぎながら寝てしまった話
あたりが今も私の記憶に残っている。

それ以上にインパクトの強かったエピソードが、タイトルにも入れた『職場に警察が乗り込んできた話』だ。

それは彼が入社してきて少し経った頃の話だ。正確には覚えていないが、ちょうど今くらいの季節だった気がする。

いつも通り仕事をしていたら職場に警察がやってきた。それも複数名で。パトロールにしては明らかに人数が多い。

窃盗で警察を呼んだ時など、何かしら犯罪が発生した時の人員配置に思われた。

しかし、その日警察を呼んだ覚えはなかったし、お客様と何かしらのトラブルが発生している様子もない。

「指名手配犯と思しき男が働いていると通報がありました」

警察官Aはそう言いながら手配書を見せてきた。

そこに掲載されていた人物は言われみれば後輩に似ていないとは言い切れないが、別人だった。

「別人ですよ」

少しテンパりながら後輩は反論していた。警察に促されるがまま、身分証を差し出す。

後輩の身分証を見て別人という確証を得た上で警察は帰っていった。

彼は不満そうに警察が置いていった手配書を眺めていた。

「そんなに似てますかね?そもそもこの事件が起きた時、自分小さかったですし」

「小さい子どもが人を殺すってチャッキーみたいじゃん。あれは人形だけど」

それ以来、しばらくの間彼はチャッキーと呼ばれ続けることとなった。

その仕事をやめてから一切連絡を取っていないが、元気にやっているだろうか。

彼が再び犯罪者と間違われることがないように、彼が犯罪者にならないようにと祈るばかりである。





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