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『君と明日の約束を』 連載小説 第二十九話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
よろしくお願いします!
毎日長編小説の連載しています。
だいたい、文庫本一冊分くらいになります。
1つずつの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 知っていたことだけど、彼女は学校で、やっぱりずっと寝ていた。改めて彼女のことを見ていると、思わず笑ってしまう。

 僕が学校に着いた時には彼女はまだ登校しておらず、来たと思えば友達の輪の中に入って睡眠を始める。授業前に起こされて、授業が始まればまた睡眠。睡眠の休憩にたまに起きている授業がある、そしてまた睡眠。

「なんかあったの、ミツ」

 食堂で慎一と昼ごはんを食べているときだ。
 僕は食堂のランチセットで慎一は弁当。日織も違うテーブルで数人の友達と弁当を食べているようだった。食堂は広くないから、大きな声を出していたら目立つ。弁当を広げている彼女の周りの女子は何やら盛り上がっているらしく、調子の良さそうな笑い声を上げている。

「慎一って集中力高いよね」

 僕は慎一の質問には答えず、唐突に切り出す。
 彼女の集中の入り方は、部室で慎一が勉強を始めるときのそれと似ている気がした。
 ちなみに慎一は風邪が治って週末はしっかりと塾で授業を受けていたらしい。

 卵焼きを箸で掴んだまま、慎一が怪訝な表情をこちらに見せる。

「急になんの話?」

 昨日のことを言うと、慎一は「さすがだな」と笑う。

その言い方に引っかかる。

「知ってるの?」
「うん、ちょっとな」

けど、それ以上は教えてくれなかった。僕も訊かない。

そして「学校ではいつも寝てるのにな」と笑う。

 その感想はよく分かる。ここ数日の彼女を見ていた僕の感想と一致しているから。

「ほんとに。で、日織なんか慎一に似てた」
「ん? 俺に?」
「そう。慎一が勉強集中し始めるときの空気感ってあるじゃん。それが」
「なんだよ、それ」
「こう、今から一人の世界に潜りますよ、っていう。それがすごかった」
「俺……ばかにされてる?」

 慎一は心外だというような顔をして訊いてくる。

「してないしてない」
「いや、けど、そんなにすごいの、日織の集中力」
「他の音全く聞こえないレベル」
「いやー、まじか。すごいな。俺には絶対無理だ」
「けどなんとなく慎一の集中モードの感じ似てたけど」
「全然違うって」
「そうなのかな」
「そうだろ」
「でも、僕は慎一で慣れてるけど他の人が見たら引くレベルだと思う」

それを聞いた慎一が、けたけた笑う。

「前から思ってたんだけど、なんでそんな集中できるの?」
「んー、俺は集中しないと絶対解けない問題解くときは集中せざるを得ないって感じかな。目標がある間はなんとかって感じ」
「みんな、なんでそんなに何かを見つめられるんだろ」
「なに、さっき田内に何か言われたの」

聡い慎一は話の奥を理解する。

ーー第三十話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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