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ラ クレリエールの料理集 vol.17

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 第六皿 パロンブのロースト
 → 第七皿(résumé) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第七皿(recette) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第八皿(résumé) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第八皿(recette) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第九皿(résumé) ホワイトアスパラガスの三重奏
 → 第九皿(recette) ホワイトアスパラガスの三重奏

第10皿(résumé) 鮎のヴァリエーション 笹茶とクレソンのソース 内臓のブーダンノワールのベニエ添え

この料理のポイント

*フレンチの技法で作る最高の「鮎の塩焼き」
*鮎の一番美味しい食べ方
*蓼酢とソース

成り立ち

このお料理を作り始めたのは32歳くらいだったので、10年ほど前になりますね。丸の内のレストランモナリザでシェフを務めて3年目の頃です。
モナリザには当時、既に河野シェフの鮎料理がありました。この「料理集」でご紹介した記念すべき第1皿「キスとジャガイモのクレープ」の原型となった、鮎をジャガイモのクレープで巻いて、キャビアとバニラのソースを添えたお料理です。僕も自分の鮎料理を作ろうとパートブリックで包んでみたりいろいろとやってみましたが、「これだ!」と言い切れないものを感じていました。
契機となったのは、ランベリーの岸本直人シェフと日本料理の小十の奥田透大将とのコラボレーションイベントでした。そこで、ゲストだった龍吟の山本征治シェフが鮎を焼いたのです。「鮎を焼くこと」へのシェフの熱量に圧倒されました。同時に、一つの熱源で四つの火入れを行う調理法に感動しました。熱源は炭火だけ。そこに、串の打ち方や焼く角度など細部に至る計算と技術で、頭は鮎の脂でカリっと揚げ、身の部分では外の皮はパリッと中身はしっとり焼き上げ、尾は燻して干物のように仕上げる。とんでもないと思いました。そしてそんなお料理を「鮎の塩焼き」として普通に召し上がっているお客様が、モナリザに来て鮎を召し上がっている。そう思ったら今までの鮎料理が出来なくなりました。
しかし「下手なことは出来ない」と肝に銘じたことで、鮎と真正面から向き合う覚悟ができました。
鮎は塩焼きで食べるのが最高に美味しい。ただそれを再現しただけでは本家本元の日本料理には敵わないし、面白くない。自分はフランス料理人なのだから、フランス料理で鮎を食べる楽しさや美味しさをお客様に体感していただきたい。これこそが僕の目指すべき道だと考えました。
そうして行きついたのが、今回ご紹介する「鮎のヴァリエーション」です。

メイン食材「鮎」

鮎という食材は、ことさら天然ものが好まれるように思いますが、このお料理では敢えて半養殖を使っています。理由は、一つは安定して入荷があるから。そして、手を加える“隙”が素材にあるから、です。僕が思うに、天然ものには部位ごとにばらすなどの手を加えるような“隙”がない。だからこそ、炭火の塩焼きで楽しんでもらえば良いと考えています。また調理の面でも、フライパンでポワレするので、渓流を泳いで育った天然ものは筋繊維がしっかりし過ぎていて目指したい“ふっくら感”に仕上がりにくいのです。クレリエールでは現在、主に和歌山、千葉、宮城から状態を見て仕入れています。

フレンチの技術で「塩焼き」を作る

鮎の最大の魅力は、身の繊細な味わいと香りだと思います。だから、それを最も味わえる「塩焼き」が、僕の中での鮎料理の最高峰。ただし、単純にそれを模しただけでは、自己満足に終わってしまいます。同時に四つの火入れはできないけれど、一つ一つの火入れ方法はフレンチにもある。それらを駆使して鮎の魅力を最大限に生かす火入れをすれば・・・。
考えた末に、思い切って最初に、頭、身、内臓、尾やヒレなど部位ごとにばらすことを決断。別々に調理することで、各部位の“炭火で焼いた時の良さ”を、食感はもちろん風味や香りにもこだわって追求しました。

蓼酢以外の可能性を探る

鮎は塩焼きが一番美味しい」と言いつつ、鮎×蓼酢は絶対的な組み合わせなのか?という思いが頭の中にずっとありました。鮎の塩焼きの蓼酢は、フランス料理でいえばソースです。モナリザでも初めの内は蓼を使ったソースを添えていましたが、もっと自分なりの組合せがあるはずだと思うようになりました。しかし盛り付けの趣向から、色はグリーンにしたい。そこでパセリとレモングラスのソースに変えました。
お茶を要素として加えるようになったのも、同じ頃でした。この発想は、以前、茶塩で食べた鮎が美味しかったからです。僕の地元・北海道では熊笹で美味しいお茶を作っているので、笹茶塩を使うことにしました。その後、パセリでは風味が強く出過ぎるためクレソンに変え、今に至っています。

最近では東京のフレンチレストランで鮎が出てくることは珍しくありませんが、フランスで川魚といったら岩魚や鱒が中心です。そもそもヨーロッパに鮎は生息していません。フランス修業中も鮎には出会いませんでした。北海道も鮎を食べる習慣はないし、東京に出てきてからも和食はあまり食べなかったので、僕にとって鮎は遠い存在と言うか、馴染みのない食材でした。だからこそ、あの時に山本シェフの鮎の塩焼きに出会わなかったら、ここまで鮎と向き合うこともなかっただろうと思うのです。そしてあのイベントにも、ランベリーで岸本シェフと働いていなかったら行っていなかったでしょう。岸本シェフの鮎への思い入れの強さも、僕の背中を押してくれたように思います。何か一つ欠けても、今やクレリエールでも毎年楽しみにしてくださるお客様も多い「鮎のヴァリエーション」は生まれなかった。めぐり合わせというのは不思議なものですね。

次回はこのお料理のレシピと調理の具体的な工夫などをお話します!

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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