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ラ クレリエールの料理集 vol.16

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 第六皿 パロンブのロースト
 → 第七皿(résumé) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第七皿(recette) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第八皿(résumé) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第八皿(recette) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第九皿(résumé) ホワイトアスパラガスの三重奏

第9皿(recette) ホワイトアスパラガスの三重奏

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【材料】(2人分)

ホワイトアスパラガス:1kg
昆布:4g
日本酒:80g
水:1リットル
塩:液体の重量の0.8%
<ホワイトアスパラガスのヴルーテ>
茹でたホワイトアスパラガス:900g
ホワイトアスパラガスの皮の煮汁:50g
牛乳:50g
<ホワイトアスパラガスのジュレ>
ホワイトアスパラガスの皮の煮汁:250g
板ゼラチン:1枚
塩:適量
<ホワイトアスパラガスのムース>
ホワイトアスパラガスのベース:250g
板ゼラチン:1枚
生クリーム:30g
塩:適量
<仕上げ>
フルール・ド・セル:適量

【作り方】

<ホワイトアスパラガスの皮の煮汁>
1.ホワイトアスパラガスの皮を剥いて5~10分間ぬるま湯に浸け、アクを抜く
 ★剥いた皮は取っておき、煮汁をとる
2.鍋に1.の皮、昆布、日本酒、塩を入れ、1リットルの水を加え、火にかける
3.沸いてきたらアクを取って濾す

<ホワイトアスパラガスのベース>
4.鍋に1.のホワイトアスパラガスを切ったもの、牛乳50g、3.の「煮汁」50gを入れて沸騰させ、塩を加えて味を調え、1分煮る
 ★沸騰した時点で味をみた上で、塩を加える
5.火から外して5分置いた後、ミキサーに5分かけてシノワで濾す

<ホワイトアスパラガスのヴルーテ>
6.氷水にあてながら冷やしておいた5.の「ベース」に、牛乳と煮汁を加え、味を調える

<ホワイトアスパラガスのジュレ>
7.3.の「煮汁」に戻した板ゼラチンを加えて溶かし、塩で味を調える
8.7.を濾し、冷やし固める

<ホワイトアスパラガスのムース>
9.5.の「ベース」250gに戻した板ゼラチンを加えて溶かす
10.9.に四分立てにした生クリームを加えてやさしく混ぜ合わせ、塩で味を調える
 ★攪拌機などは使わず、やさしく混ぜる

<仕上げ>
11.提供用の器(カクテルグラス)に10.の「ムース」を10g注ぎ入れ、冷やす
12.11.の上にその上に8.の「ジュレ」10gを流し入れ、さらに冷やし固める
13.12.の上に6.の「ヴルーテ」30gを乗せる
 ★盛り付けは、下からムース:ジュレ:ヴルーテ=10g:10g:30g
14.グラスの右奥にフルール・ド・セルをふる

柴田の工夫

ルセットの中の★は、その工程でのポイントです。一般的なものもあれば、僕自身の経験の中で見出したものもあります。お料理はちょっとした工夫で仕上がりがガラッと変わったりするので、参考にしてみてください。

実際の作り方を見て、驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。このお料理の発想の要は「常識を疑う」。フランス料理の常識では、ホワイトアスパラガスは「たっぷりの水で茹でる」や「束ねて茹でる」のが基本です。でも僕は、一般的なホワイトアスパラガス料理とは異なる「茹で汁も含めアスパラガスから出るもの全てを美味しく使ったお料理」を作りたかった。そこで、茹で方の常識から疑うことにしました。

茹で汁を美味しく生かすには、出来るだけ少ない液体でアスパラを茹でることと塩分濃度がポイントになります。さらに、“全て”という意味で剥いた皮も上手に生かしたいと考えていました。そうして何度も試作を重ねて見つけたのが、茹でる前にぬるま湯に入れてアクを抜きつつ、アスパラ自体の温度を上げていく方法。そしてアスパラ自体と茹で汁の両方を生かすギリギリの塩分濃度でした。

「常識を疑う」と一言でいうのは簡単ですが、常識外の方法なんて、当然、本には載っていないですし、誰もやったことのない方法だったりもします。とにかく理論的な裏付けの下で諦めずにトライアンドエラーを繰り返すしかない。
また「常識でない」には、「方法」だけでなく「仕事(手間)の多さ」という面もあります。そもそもフランス料理は仕事の多い料理です。そして僕の料理はその中でも多い方だと自覚しています。そんな僕から見ても、この「ホワイトアスパラガスの三重奏」の小さなカクテルグラスに詰まった仕事量は常識外れ。まさに、常識を疑えばこそ生まれ得た料理ですね。

そういう試行錯誤も大変でしたが、当時はオーナーシェフではなくて雇われシェフだったことも大変だった記憶があります。前回もお話しましたが、このお料理を作った時、僕はレストランモナリザのシェフで、その上にオーナーシェフの河野透シェフがいらっしゃいました。河野シェフは基本をとても大事にしている方で、基本を守らずに作ったお料理は絶対に認めてくれませんでした。そこで、作る工程は決して見せず、味だけで河野シェフを完全に納得させられるお料理を作ろう!と決めました。
河野シェフは、外部での仕事が入っていない限り毎朝お店に来て、必ず厨房内を見て回り、スタッフ一人一人と挨拶するのが習慣でした。この「厨房内を見て回る」が要注意!とんでもなく鋭くて、細かくて、見逃さない(笑)。スタッフたちと力を合わせて河野シェフチェックをひたすら逃れ続けました。

無事にオンメニューを果たした「ホワイトアスパラガスの三重奏」は、おかげさまでモナリザのお客様にもご好評をいただき、その後もブラッシュアップを重ねて、フランス料理人・柴田にとってもレストラン ラ クレリエールにとってもシグネチャーディッシュといえる存在になりました。
ハウスで育てられたロワール産ホワイトアスパラガスが最も美味しいこの時期にしかお出ししていないお料理です。ご都合がよろしい日がございましたら、ぜひお越しくださいませ。

※仕入れの関係でご提供できない場合もございますので、お召し上がりをご希望の際は、ご予約の折にその旨をお伝えいただけると幸いです。

次回は、「鮎のヴァリエーション 笹茶とクレソンのソース 内臓のブーダンノワールのベニエ添え」をご紹介する予定です。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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