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100年続くレストランを目指して vol.6

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしていきたいと思います。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.6 「ジェットファーム」のアスパラガス

今回のテーマが「アスパラガス」と聞いてピンときた方は、かなりのクレリエール通かもしれません。と言うのも、フランス料理人・柴田秀之のシグネチャーディッシュの一つに「ホワイトアスパラガスの三重奏」というお料理があるのです。(以前のnoteでご紹介しているので、ご興味があったらコチラをご覧ください。)でも、今回ご紹介したいのは、ホワイトではなくグリーンの方。北海道・厚沢部町にあるアスパラ専門農家ジェットファームのグリーンアスパラガスです。初めて食べた瞬間から驚かされましたが、使えば使うほど感じるポテンシャルの高さに料理人の挑戦欲が掻き立てられ、さらに上を目指して挑みたくなる、そんな食材です。

ジェットファームの長谷川博紀さんは、元会社員。25歳の時に農家に転身し、ご自身の体調不良をきっかけに化学肥料や農薬を使わない農法を学び始めたそうです。現在は無農薬・無化学肥料で除草剤や殺虫剤も使わず、植物性の原料を主体とした発酵堆肥などで土地本来の力を引き出す農法でアスパラを育てています。

前にもお話したように、以前の僕は「時間があれば厨房で料理をしていたい」と思うタイプで、産地訪問にはあまり積極的ではありませんでした。ジェットファームに伺ったのも様々なご縁が重なった結果で、クレリエールのシェフとして初めての産地訪問でした。4年ほど前のことです。もちろん「ジェットファームのアスパラ」の存在は知っていました。当時すでに多くの有名シェフが使っていましたし、親しい料理人たちも絶賛していましたから。
長谷川さんは右も左も分からない僕を快く受け入れ、畑を見せ、あらゆることを丁寧に説明してくださいました。ところが当時の僕はアスパラがどのように育つのかすら知らない状態。お話の内容は分かるけど、その工夫の何が凄いのか、どこが他の農家と決定的に違うのかさっぱり分かりません。それでもとてもこだわって育てていることは感じましたし、考え方が非常にしっかりしている方だと思ったのを覚えています。

長谷川さんのアスパラには「うま味が深い」「甘みが濃い」など様々な特長がありますが、僕にとっての最大の魅力は「皮が柔らかい」こと。アスパラの皮の部分にはアスパラの美味しさが詰まっていますが、通常は繊維が口に残ったり噛み切れなかったりするので、皮をしっかり剥かないといけません。ところが、ジェットファーム産だと剥くのは最小限で済み、お料理によっては剥かなくてもよいのです。“美味しいアスパラ”は他にもありますが、“アスパラならではの美味しさを最大限に楽しめるアスパラ”を僕は他に知りません。そして僕の中でムクムクと膨らんでくる、ある思い。
「アスパラがメインの一皿を作ろう!」

使うのは春のアスパラにしました。ジェットファームに行って初めて知ったのですが、アスパラには収穫期が春と夏秋の年2回あるんです。春に収穫するものは、日照時間が少ない中でゆっくり育つため、太くてグリーンが濃い。太い分、根元から穂先まで部位による味の違いも楽しめます。一方、夏秋収穫のものは日照が多くすぐに育つため、細身で柔らかいのが特徴。お肉やお魚の付け合せなどによく使われます。

いざ作り始めると、素材自体の味わいが豊かなので「美味しい」はすぐにクリア出来ましたが、最大の難関は「お客様に満足いただけるか?」ということでした。一般に新鮮で良い食材の場合、味つけはできるだけシンプルにして素材そのものの味を楽しませるという考え方がありますが、僕はフランス料理の料理人ですので、あくまでもソースと合わせることでその素材の美味しさをより豊かにしたいという考え方でいつも料理をしています。春ものならではの部位ごとの味の違いを生かしつつ、しっかりしたソースを合わせることを考えつつ、さらに“レストランの一皿”としての食べ応えも追求し、出来上がったのが「グリーンアスパラガスのヴァリエーション キャビアと共に」です。

うま味の強い根元部分はフェットチーネ状に薄くスライスして鶏の出汁で蒸し煮にし、穂先は柔らかさと風味を生かすようシンプルに仕上げて、手羽先から抽出したジュのソースで全体をまとめます。今はキャビアを塩味の要素として乗せていますが、ゆくゆくはそれもなくしたいと考えています。キャビアがお客様に与える満足感は小さくありませんが、長谷川さんのアスパラのポテンシャルをさらに引き出せれば、キャビアなしでも高い満足度で、より洗練された「アスパラガスの一皿」が出来るんじゃないか?もちろん、今でも十分美味しいですし、お客様からもご好評をいただいています。でもフランス料理人としての挑戦魂には抗えません(笑)。正直大変ですが、そんな凄い食材と出会えたことは料理人として幸せだと心から思います!

周囲を山に囲まれた盆地で、アスパラの育成に最適な朝晩の寒暖差、有機質成分に富んだ肥沃な土壌など恵まれた環境にあるというだけでなく、残留農薬のことを考えて畑に撒く水も川からではなく湧水をひいた地域の水道水を使ったり、堆肥の工夫をしたりと、安心安全を追求しながら「自然から搾取するのではなく、自然に生かされていることを理解し、畑の恵みをいただく。」(JETFARM HPより引用)を行動指針に掲げて長谷川さんは農業を続けています。そして農家として子供や孫の世代に健全な地球を残したいと考えていらっしゃる。「100年続くレストランを目指す」僕としては大いに共感するところです。

さらに僕が素敵だなあと思うのは、人と人を繋げる長谷川さんのお人柄です。今、クレリエールでお付き合いのある生産者さんで長谷川さんがきっかけをくださった方が少なくありませんし、このnoteでも徐々にご紹介していきたいと考えています。そしてそんなご縁に、僕はこれからもお料理でお返しをしていくつもりです。ジェットファームは今さら僕がどうこうする必要がないくらい有名で評価も高いですが、僕のお料理で長谷川さんのアスパラの新しい魅力を引き出せたり、僕のお料理を通して魅力に気づく人が新たに出てきたら・・・。何より、長谷川さんにしても僕にしても、召し上がった方が「美味しい!」と喜んでくださるのが一番の幸せ。そうして生産者・料理人・お客様が幸せであることが、「100年続く」力になるのだと思うのです。

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まだまだ参加者募集中です!
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集合場所:澳オリーブ「オキオリーブハウス」
       香川県高松市西植田町4532

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当日のスケジュールや申込方法など詳細はこちらのページをご覧ください。
(連載記事の最後に詳細情報が載っています。)

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。


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