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サマセット モーム 『九月姫とウグイス』 武井武雄イラスト, 光吉夏弥訳, 岩波書店, 1954.

サマセット モーム 『九月姫とウグイス』 武井武雄イラスト, 光吉夏弥訳, 岩波書店, 1954.

シャム(今のタイ)のお話です.

王様とお妃の間に9人の姫が誕生します.
多分,王様も,周囲も,お妃さえも王子の誕生を待望し,
多分,第二夫人等も居ただろうに,
12人までは姫で良しとする王様のお妃への愛を感じます.

8人の姉は名前を変えられることにより,性質がひねくれます.
とくに,
長女と次女は
「夜」と「ひる」
から,
「春」と「夏」
そして,
「月曜」と「火曜」
最後に,
「一月」と「二月」
と,計3回も改名しています.
アイデンティティが定まらず,性質がひねくれるのも理解できます.

王様が気に入るほどの,
シャム国中で一番上手な鳥籠職人が,
姫達が使う同じ様な籠を作らせぬよう,
技術が仇となり殺されます.

2,3日もしたら,自由だったことなんか忘れてしまう,
という姉たち.

姉たちの言う,
死んだら強情を張ったウグイスのせいという,
自己責任論

自由でなければ歌えず,
歌えなければ死んでしまう
というウグイス.


とても難しいことですが,
自分の幸せよりも,
自分の好きなウグイスの幸せを
第一に考えた九月姫に

ウグイスは,
きれいなところを飛び回っている間に覚えた美しい歌を
歌って聴かせてくれました.


九月姫は,
ウグイスがいつでも入ってこれるよう,
昼も夜も窓を開け放しておきました.

それは九月姫にはいいことで,
九月姫はとても綺麗になり,
カンボジャの王様のお嫁に,
王さまの都まで白い像に乗り向かいました.

一方,
窓を開けてお休みになることなんか一度もなかったという姉たちは,
それはそれは醜い方になり,
紅茶1ポンドとシャムネコ1ぴきつけて王様の大臣たちのお嫁になりました.

ここでの九月姫と姉たちの境涯の違いは,
開かれたか,閉じたか,
の違いであり,
外見の綺麗さだけでなく,
本書の中の言葉を借りれば
「性質」にも作用しているのかもしれません.
夜,九月姫が読書している絵も「開かれ」ていることを表現しているのかもしれません.

しかし,
上にも書いたように,
九月姫が生まれる前から,
自らの固有名を何度も変えられ,
性質がひねくれた姉たちも不憫です.

タイトルのフォント,中のグラフィックもとても素敵な絵本でした.


ひとつ,わからない点なのですが,

うやうやしくおじぎをする,
おぎょうぎがいい芸術家の小鳥が,
行水の水を飲み干します.

その行為に対して侍女は
おぎょうぎのわるいこと
と言うのですが,
九月姫は
「そこが,芸術家らしいところなのよ」
と応答します.

おぎょうぎがいい芸術家の小鳥が,
おぎょうぎのわるいこと」をし,
九月姫は「そこ[おぎょうぎのわるいこと]が,芸術家らしいところなのよ」と言うのです.

いったいどういうことなのでしょうか.

もともとおぎょうぎがいいのに,
行水の水を飲み干すような,
おぎょうぎのわるいことをするのは,
エキセントリックであり,
そこが,九月姫の言う「芸術家らしいところなの」でしょうか.

どう読めばよいのかわからないので,コメント頂けたら嬉しいです.


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