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【書籍】クレーム対応から日常のコミュニケーションでも役立つ!加藤義樹氏『カスタマーハラスメント撃退の教科書』の実践法

 加藤義樹著『カスタマーハラスメント撃退の教科書 』(Clover出版、2024年)を拝読しました。

 本書は、顧客からの理不尽なクレームやカスタマーハラスメント(カスハラ)に対処するための包括的なガイドブックです。特に中小企業や小規模店舗を対象としており、著者の豊富な経験をもとに、顧客対応の現場で頻繁に起こる問題やその解決策について具体的な事例を交えて詳しく解説しています。

本書の背景

 本書の背景には、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、社会全体で顧客の不満や苛立ちが増加したという事実があります。マスクや消毒液といった必需品の品薄状態や、外出自粛要請などの影響で、店舗や企業には様々なクレームや過剰な要求が寄せられるようになりました。
 このような状況下で、顧客からの理不尽な要求やハラスメント行為に対して、適切な対応方法を知らないと、現場のスタッフが精神的に大きな負担を受けることになります。

 特に、日本の中小企業や小規模店舗では、大企業のように研修体制や人事部、総務部、法務部といった組織的なサポートを受けられることが少なく、現場のスタッフが直接こうしたクレームに対応しなければならないケースが多いのが現状です。そのため、本書では、現場で働くスタッフ一人ひとりが、顧客からのクレームに対してどのように対応すべきかを学び、スキルを高めるための実践的なアドバイスを提供しています。

クレーム対応の基本的な考え方

 本書の冒頭では、まず「正当なクレーム」と「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の違いを明確に理解することの重要性を指摘しています。クレーム対応は単に問題を解決するだけでなく、顧客との信頼関係を築くための重要なプロセスです。正当なクレームに対しては迅速かつ誠実な対応が求められますが、一方で、理不尽な要求やハラスメント行為には毅然とした対応を取らなければ、組織全体の信頼性が損なわれ、場合によってはさらなるトラブルに発展する可能性があります。

 クレーム対応において重要なのは、顧客の意見をしっかりと聞き、その不満や要求の背後にある真意を理解することです。顧客の期待を超える対応をすることで、たとえ最初は不満を抱いていた顧客であっても、最終的にはその誠意ある対応に満足し、リピーターとなる可能性があります。一方で、理不尽な要求に対しては、きちんとした線引きを行い、必要であれば法的手段も視野に入れることが重要です。

現場スタッフのスキル向上

 本書では、「対応する側のスキルを上げる」ことが、顧客対応の質を向上させるために最も効果的な方法であるとしています。特に、現場で直接顧客と接するスタッフのスキルアップが必要不可欠であり、それが組織全体の質の向上にも直結すると述べています。スキルアップには、単にビジネスマナーや商品知識を習得するだけでなく、クレームやトラブルの予防・対応に関する総合的な能力を高めることが求められます。

 具体的には、顧客とのコミュニケーション能力を向上させることが重要です。これは、顧客の話をしっかりと聞き、共感を示すことから始まり、適切なタイミングで効果的な解決策を提案する能力などを含みます。また、問題解決能力も不可欠であり、状況に応じて最適な解決策を見つけ出すための柔軟な思考と判断力が必要です。こうしたスキルを身につけることで、現場スタッフはより自信を持って対応にあたることができ、結果として顧客満足度の向上とトラブルの予防につながります。

クレーマーのタイプ別対応方法

 特に興味深いのは、クレーマーを8つのタイプに分類し、それぞれのタイプに応じた対応方法を具体的に解説している点です。これにより、現場スタッフは顧客のタイプを迅速に見極め、それに応じた最適な対応を取ることができます。

 例えば、「純粋型」のクレーマーは、単純に問題を解決してほしいと考えているため、迅速かつ丁寧な対応が求められます。このタイプの顧客に対しては、誠実で透明性のある対応を行うことで、比較的容易に問題を解決することができます。
 一方で、「理屈型」や「感情型」のクレーマーには、それぞれ異なるアプローチが必要です。理屈型のクレーマーには、論理的で明確な説明が効果的であり、彼らの疑問や不安を論理的に解消することが求められます。感情型のクレーマーに対しては、彼らの感情を理解し、共感を示すことで、状況を改善することができる可能性が高まります。

 著者は、このようなタイプ別の対応方法を学ぶことで、現場スタッフがどのような状況にも柔軟に対応できるようになり、結果としてクレーマーの境界線を上げることができると述べています。つまり、顧客のタイプに応じた適切な対応を行うことで、顧客からの不満を最小限に抑え、満足度を高めることができるというわけです。

実践的なクレーム撃退法

 本書ではさらに、理不尽な要求に対する具体的な撃退法も紹介しています。これにより、現場スタッフはどのような状況でも冷静に対応し、最適な解決策を講じることができるようになります。

 例えば、顧客から「土下座しろ!」などの過剰な要求をされた場合、どのように対応すべきかといった具体的なケーススタディが示されています。著者は、このような場合には毅然とした態度で対応することが重要であると強調しています。また、「警察に通報するタイミング」や、「対応記録の重要性」についても詳しく説明されており、法的手段を講じる際の注意点なども解説されています。これにより、現場スタッフはどのようなトラブルに直面しても冷静に対応し、問題を迅速に解決するための道筋を見つけ出すことが可能になります。

クレーム予防策の重要性

 また、クレームを未然に防ぐことも顧客対応の重要な要素です。本書では「クレームは予防が8割」として、クレーム予防のための具体的な方法についても詳細に解説しています。クレーム予防策としてまず挙げられるのは、現場スタッフのスキルアップです。スタッフが適切な対応をすることで、顧客の不満を事前に解消し、クレームが発生するのを防ぐことができます。

 次に、店舗や会社の雰囲気を整えることも重要です。例えば、清潔な店舗環境や、フレンドリーで親切なスタッフの対応は、顧客の満足度を大きく向上させ、クレームの発生を防ぐ効果があります。また、ルールや管理システムを整備することも、クレームを予防するための基本的な要素とされています。これは、顧客対応の際に一貫した基準を持つことで、スタッフが迷わずに対応できるようにするためです。

 さらに、顧客とのコミュニケーションを通じて、期待値を正しく把握し、それに応える努力をすることもクレーム予防には欠かせません。顧客が何を期待しているのかを理解し、その期待に応えることで、満足度を高め、クレームを未然に防ぐことができます。

経営者や管理職への提言

 本書では、現場のスタッフだけでなく、経営者や中間管理職に対する提言もしています。著者は、経営者や管理職が現場スタッフのスキルアップを支援するための「意識改革」が必要であると訴えています。
 先に述べたように、特に中小企業では、組織としてのサポート体制が整っていない場合が多いため、経営者自身がクレーム対応の重要性を理解し、現場スタッフに対する支援を強化することが求められます。

 これには、適切な研修の実施や、メンタルサポートの提供などを実施する必要があります。また、経営者自身が現場の声に耳を傾け、スタッフの意見を取り入れることが、組織全体の士気を高めるために重要であると述べています。これにより、現場のスタッフは自分たちが重要な役割を果たしていると感じることができ、モチベーションの向上につながります。

 さらに、経営者や管理職がクレーム対応のスキルを持っていることも重要です。彼らが自らクレーム対応の現場に立ち会い、スタッフと一緒に問題を解決する姿勢を見せることで、スタッフの信頼を得ることができます。また、クレーム対応に関する方針や手順を明確にし、全社的に共有することで、クレーム発生時の混乱を防ぎ、迅速かつ的確な対応を可能にします。

日常の人間関係にも応用できるスキル

 本書で紹介されているクレーム対応のスキルは、単に職場での顧客対応にとどまらず、日常の人間関係にも応用できるものであると述べられています。クレーム対応を「交渉とコミュニケーション」として捉え、人間関係を円滑にするためのヒントが多く含まれています。

 例えば、相手の話をしっかりと聞き、共感を示すことで、相手との信頼関係を築くことができるという点は、職場以外のあらゆる人間関係においても非常に有益です。また、問題が発生した際には迅速かつ冷静に対処し、解決策を見つけ出す能力は、どのような状況においても求められる重要なスキルです。

 さらに、理不尽な要求やトラブルに直面した際に、感情的にならずに冷静に対応することで、自分自身の精神的な安定を保つことができます。これにより、長期的な視点で問題を解決し、より良い人間関係を築くことが可能になります。

まとめ

 本書は、顧客対応の現場で直面するあらゆる問題に対する具体的な解決策を提供するだけでなく、顧客との関係性をより良いものにするための多くのヒントが詰まった一冊です。顧客対応を「交渉とコミュニケーション」として捉え、日常の人間関係にも応用できる内容が多く含まれています。

 本書の内容を実践することで、現場で直接顧客対応を行うスタッフはもちろんのこと、経営者や管理職の方々も、顧客対応のスキルを向上させることができ、結果として組織全体の質の向上に貢献することができます。顧客、スタッフ、企業のすべてが利益を享受し、持続的な成長が期待できるのです。

 本書を通じて、顧客対応のスキルを向上させ、組織全体の質を向上させることで、顧客満足度の向上と、スタッフの働きやすい環境の整備を同時に達成することが可能です。これにより、顧客、スタッフ、企業のすべてが利益を享受し、持続的な成長が期待できるでしょう。
 経営者や管理職の方々にも、本書を参考にし、クレーム対応のスキルアップと組織のサポート体制の強化を図ることを強くお勧めします。


顧客サービススキル向上を目指す小規模なグループミーティングの様子cっです。多様な背景の社員たちが小さなテーブルを囲み、トレーナーがフリップチャートを使って顧客対応について説明しています。自然光が差し込むオフィスで、落ち着いたプロフェッショナルな雰囲気が伝わってきます。こういったトレーニングも、社内で共通の理解をしておくという意味では大変重要です。


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