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ホームビデオの断片が紡ぐ終わらない人種差別と現代の奴隷制 - 映画「タイム / Time」を見た話

Amazonオリジナル映画「タイム / Time」を見る。困窮状態から脱却するために銀行強盗を行なった夫婦。そして一足先に刑期を終えた妻(Fox Rich)は、60年の刑期を言い渡された夫の解放を求めていく。

時に激しく憤り、虚しく過ぎ去る18年。子供達の成長の様子や自身の独白が収められたホームビデオの断片と、釈放に至るまでを追った映像を紡ぎ合わせることで、見る者は経過した時間の長さを思い知らされることになる。


更生を促すどころか、利潤の追求に伴って収監期間が長期化し、大量投獄が進められている米国の刑務所の制度。Fox Richはこれを名前を変えた奴隷制度だと断じ、夫の釈放を求めながら刑務所廃止に向けて奔走する。

強盗を実行したことに対する罪からは免れられない中で、刑務所廃止を唱えることが開き直りにも思えてしまうのは、不正義へのリアリティが著しく欠如しているからかもしれない。こうした描写は、罪を犯した者に対する赦しを超えて、同情や礼賛を呼び掛けるような仕立てになり得る可能性もある。

ただ、人種的なマイノリティーに偏りのある収監数の拡大は、南北戦争終了後に解放奴隷を犯罪者に仕立てて南部の労働力として活かした時から、実際には一本の線で繋がっている。

公民権運動の結果として犯罪率が高まったという嘘の主張。クラックによる社会不安を解消するために「麻薬戦争」と称して一気に進められてきた懲罰の厳格化。そして刑務所産業複合体(Prison-Industrial Complex)の存在によって、大量投獄こそが社会の安定と見なされてきた時代。

そのことで軽犯罪、もっというと無罪の人間まで犯罪者としてでっち上げられて、収監人口は拡大していく。低所得者層を抑圧する刑事司法制度における根深い人種差別は、今も続いている。

現に、南北戦争終了後に黒人を野蛮な犯罪者として表現し、KKKを正義として描いた映画「國民の創生 / The Birth of a Nation」と、今も放送しているTucker Carlsonの番組内容と、本質的に何の差異もないわけだから。

ちなみに本作はサンダンスのドキュメンタリー監督賞を受賞し、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門の有力なノミネート候補にもなっている。実はこの作品を撮る前に、監督のGarrett Bradleyは短編ドキュメンタリー映画「Alone」を通じてFox Richと出会っていた。

そして次回作としてFox Richに関わるストーリーを短編として収めることを構想する。するとFoxから100時間にも及ぶmini-DVの素材が手渡される。それが、このドキュメンタリー映画「タイム/Time」で流れる時間の重みへと置換されるのであった。


尚、本作と合わせてNetflixで配信している「13th - 憲法修正第13条 - / 13TH」「クラック コカインをめぐる腐敗と陰謀 / Crack: Cocaine, Corruption & Conspiracy」「黒い司法 0%からの奇跡 / Just Mercy」を一緒に見ると良い。特に「13th - 憲法修正第13条 - / 13TH」はYouTubeで無料で配信しているのでオススメ。




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