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自己紹介って難しい。 だいたい毎週金曜日か土曜日に更新。

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最近の記事

夏葉社の本と署名

もう十年ほど前になるか、昔からある地元の小さな本屋さんのおばちゃんに『本屋図鑑』を勧められて読んだことをきっかけに夏葉社という出版社を知った。 東京・吉祥寺で島田潤一郎さんという方がひとりで営む出版社である夏葉社は、「何度も、読み返される本を」をスローガンに掲げてひとつひとつの作品に丁寧に向き合って本づくりをされている。 出版といえば講談社や集英社などの大手しか知らなかった当時の僕にとってひとりで出版社をやっているということ自体が驚きであったし、実際に夏葉社の本を手に取っ

    • 読書の思い出

      以前も少し書いたように、子供時代からいわゆる文字ばかりが並んだ本が家にあるような家庭環境ではなかった。 こう書きながら記憶をたぐってみると、僕の子供時代うちにあった本といえば母親のレディースコミックと父親が出稼ぎ先からの移動のときに駅のキオスクなどで買ったらしい下世話な週刊誌ぐらいのもので、多少字が読めるようになって自分で漫画を集めるようになるまで絵本すらほとんどないような、とても文化的とはいえない家庭だった。 そんな僕がはじめて文字が多い本に出会ったのは小学校の国語の教科

      • お絵描きは楽しい

        一人っ子で鍵っ子だったから、一人遊びが得意だった。 自分の中の妄想から世界までの距離は子供の頃は近く、今は遠い。 妄想の世界と現実が違うということを自覚しているだけまだましだろう。この境界線が曖昧になり、崩れてしまうとたぶんかなりまずいことになる。 子供時代、自由帳やチラシの裏に絵を描くことが好きで、小学生までは漫画家になることが夢だった。コマを割って描いたこともあるが同じ顔を二度と描けないことに絶望していつからか止めてしまった。 よく見ればプロの漫画でも同じキャラクターが

        • 予期せぬ実践編

          今週ある日の夕方、駅前の大型スーパーに行こうと思って敷地内に入ると、短い白髪のお婆さんが店の搬入口と自転車置き場の間で顔に手を当てて立っているのが見えた。 よく見ると顔に当てている方の手にはハンカチを持っていて、どうやら顔を押さえているようだ。普通じゃない様子だったから近くに寄って「大丈夫ですか」と声をかけると、お婆さんは僕の方を向いてぼんやりした目で「今ここで転んだのよ」と教えてくれた。地面を確認するとアスファルトが劣化で剝がれかけている部分があったので恐らくそこに足を引っ

        夏葉社の本と署名

          利他

          十代の終わり頃の一時期、「どんな人になりたいか」という問いを毎夜自分にぶつけていた。 具体的な「何をしたいのか」とは違い、どうありたいのかを根本から考えるような行いで、今以上に塞ぎがちであった当時の僕はどんどん内に向かうようになっていった。 当時僕が至った結論は「誠実でありたい」というものだった。 それは当時夢中になってやっていた音楽活動に対してもそうだし、自分に関わってくれる人たちに対してもそうであった。 僕はこの頃、生まれて初めて「他者」の存在を強く意識したのだと思う。

          名入れタオルの話

          昨日(6月1日土曜日)は、朝から日テレの報告書を読んで胸糞悪くなって一日体調がおかしかった。怒りに任せて書くこともできたが、いち消費者に過ぎない僕が何を言おうと空しいだけのような気がして何も書けずにいた。 一日経って多少落ち着いたので、今回は好きなものの話をする。 「名入れタオル」と言われてピンとくる人がどれぐらいいるだろうか。1985年生まれの僕が成人を迎える頃まではちょくちょく見かけたような気がするが、この十数年とんと見なくなった。 僕が描いたこの適当なメモで伝わる

          名入れタオルの話

          ホームセンターは楽しい

          帰り道、少しだけ遠回りするとホームセンターが二軒ある。 ひとつはイオン系列の平均的な店、もうひとつはどちらかというとDIY用品が充実した店だ。イオン系列の店の方が近く、DIY系はそこから更に歩いて五分ほど離れている。 僕は二週間に一回ぐらいのペースでどちらかの店に行く。特に買いたいものもないのに。 日用品から木材、工具、自転車、自動車用品など何でも揃っているといっても過言ではないホームセンターの中で、長く留まる売り場が三つほどある。 ひとつ目は文房具売り場。 以前の記事で

          ホームセンターは楽しい

          【エッセイ】学校サボって弁当

          中学三年生の頃から諸々の事情で高校生のための下宿で暮らしていた。 学校と自宅が離れていて通学が大変な高校生が共同生活をする下宿で、僕のほかに男子七人・女子二人の学生がいて、それぞれ通っている高校も部活も違うがそれなりに平和に過ごしていた。特に僕は唯一の中学生だったこともあり先輩たちによくしてもらった。 僕の事情を呑み込んで迎え入れてくれた下宿屋さん一家にも本当にお世話になって、それまでほとんど勉強をしてこなかった僕は高校受験に向けて、下宿のお姉さんに夜はほぼ付きっきりで母屋の

          【エッセイ】学校サボって弁当

          映画を観た〈黒部とマイゴジ〉

          昨日、Amazonプライム・ビデオで山崎貴監督・脚本による昨年公開の映画『ゴジラ-1.0』を観て、ものすごく違和感を覚えた。 それは、主演の神木隆之介や浜辺美波、佐々木蔵之介、山田裕貴だけでなく、群衆シーンの人々から元海軍軍人のモブに至るまで、一人として労働者の臭いを感じないということだ。血色もいいしすっきりとしている。もっと平たくいえば誰一人臭そうじゃない。 そこで二年ほど前、1968年公開の映画『黒部の太陽』(監督・熊井啓、脚本・井手雅人、熊井啓)を観たときのことをふと思

          映画を観た〈黒部とマイゴジ〉

          モノを持つということ

          僕が幼少期に住んでいた家は、二階建ての団地だった。一階が狭い台所と八畳ぐらいの居間で、狭くて昼間でも暗い階段を上った二階も同じ広さの畳敷の部屋だった。そこに母とたまに帰ってくる父(父は出稼ぎの土方だった)は布団を並べて寝る。僕は隅に置いた二段ベッドの下部分の中に布団を敷いて寝ていた。 母が片付け全般が苦手な人だったから、一階も二階も物が雑然と並んでいて、父が帰る前日には母と二人でそれをどうにかこうにか整理するというのが決まりのようになっていた。 そんな環境で育ったせいか、僕

          モノを持つということ

          本屋さんのこと

          僕が住んでいる町には本屋さんがない。 数年前に引っ越してきたときには昔ながらの小さな書店と全国チェーンの小型店舗がひとつあったが、どちらも3年ほど前になくなって別の建物や業態に変わってしまった。 二駅先にそこそこ大きな書店はあるが、10~15分自転車を漕げば行ける距離に本屋さんがない生活というのは本好きにとってなかなか苦しいものだ。 思えば子供の頃から記憶のあちこちに本屋さんの存在があった。家になにがしかの全集や図鑑・辞典があるような文化的な家族ではなかった我が家にも漫画や

          本屋さんのこと

          俺たちのフィールドのこと

          1998年フランスワールドカップに日本代表は初出場。 アメリカ大会予選において今も語り継がれる「ドーハの悲劇」を味わい、次回2002年の母国開催を控えていた日本サッカー界は歓喜に沸くと同時に金でW杯を買ったといわれずに済んだことに胸を撫で下ろした。 1993年Jリーグ開幕からの熱狂的なサッカーブームは、今にして思えばバブル終焉と共に下降線に入った経済を忘れるための狂った祭りのようでもあった。 その時代を小学校低学年の子供として過ごした僕は、素直にサッカー熱に浮かされ、地上波

          俺たちのフィールドのこと

          思い出の曲「Time For Heroes」

          2003年は18歳で福岡にいた。様々な事情で離れて暮らしていた母親に呼ばれて地元の町から移り住んだ。高校は一年前に辞めていた。 お世辞にも治安がいいとは呼べない地域の団地の二階。六畳が二間と台所。玄関脇の二畳ほどの物置のような部屋に布団とCDコンポと低いテーブルを置いて、ギターケースと幾つかのCD、本を持ち込んだら僕の部屋が完成した。 僕はそこでラーメン屋のバイトに行く以外のほとんどの時間を音楽を聴くか本を読むかギターを弾いて過ごした。ギターは地元で一緒に音楽をやっていた仲

          思い出の曲「Time For Heroes」

          本屋大賞について思うこと

          2024年の本屋大賞が発表され宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が大賞を受賞した。宮島さんは、2018年に『二位の君』で「コバルト短編小説」新人賞を受賞して作家生活を始めた。今年の1月には受賞作の続編『成瀬は信じた道をいく』も刊行されている。 二十一年とそれなりに長い歴史を持つことになった本屋大賞は、ノミネート作品が発表されるなりSNSでも話題になるし、書店の文芸コーナーでは少なくともひとスパンを割いて販促スペースが設けられる。書店にとっては一年の中でもかな

          本屋大賞について思うこと