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教室のアリ 第14話 「4月25日」①〈懐かしく怖い音、ピンクのリュック〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
朝が来た。おおげさじゃなく、眠れないほど悩んだけど、オレは「遠足」に行くことにした。理由は2つだ。ひとつはこの前、ダイキくんの家に冒険をしてとても楽しかったから。いろんなところに行って、いろんな景色を見てみたくなったから。アリの世界、オレが生きてきた世界を広げたいと思ったんだ。もうひとつは、給食室のエサを食べにきた仲間(推測だけど)と会えるチャンスはまだまだあるかな、と。遠足はきょうを逃したら秋まで無い。そう決めたオレが次に決めなきゃならないのが、「誰のリュックに忍び込むか?」ってことだ。学習したことは給食をよく食べて、体が大きい男の子は乱暴にリュックを扱うから命の危険があるってこと。だから、女子にしよう。さらに言えば、目立つ色のリュックがいい。見た目で決めた、ピンクのリュックのサクラちゃんにした。都合のいいことに、オレの居場所から近い窓側の前から2番目の席。ゆっくり、すばやく、机を登り、リュックに入り、ひとまず横に付いている小さなポッケの中へ。あとはジッと、ひたすら、待つだけだ。

〈速い、速すぎる〉
 サクラさんはリュック(とオレ)を持ち上げると背負って移動して、みんなと長くて大きい車に乗った。バスと言うらしい。少しすると、「ブーーン」言う音がして動き出した。オレはまだ真っ暗なポッケにいるので外の様子はわからないが、多分、バスは自転車より速い。体がポッケにくっつきそうだ。オレはどれくらい速いのか知りたくなってサクラさんのリュックを抜け出してみた。先生が話しているから、子どもたちはそっちを見ている。だから、窓の方を歩けば見つからない。ガラスに体をくっつけて外を見た。速くて目が回りそうだ。もし、窓が少しでも開いていて外に放り出されたら…あの世いきだ。でもこれが、オレがしたかった冒険なのだ。遠くに山があって、近くには田んぼがある。ダイキくんの家と似ているけどちょっと違う家もある。それが流れるように後ろにいってしまうんだ。1時間くらいして、バスは止まった。慌てて、リュックに戻りサクラさんと一緒に降りた。リュックは一ヶ所にかためて置かれ、子どもたちはそれぞれ走っていった。着いたのは、学校のグラウンドよりむちゃくちゃ広い、草の原っぱだった。グループに分かれて、ボールで遊んだり、とにかく楽しそうだ。そんな姿を見ていたら、オレも動きたくなったぞ!草をかき分けて、とにかく歩き回った。シロツメグサを集めてネックレスを作っている女の子を見た時は少し悲しくなったけど…

〈お弁当、最高!おやつもね!〉
 腹が減ったら、お昼になった。子どもたちはいろんな色の敷物の上に座って弁当を食べた。ポロポロとこばしながら…さらに、「オレのウインナーとそのコロッケ交換しよー」とかいってワイワイしているからさらにこぼす。蜂さんとか蝿さんとかが来てしまうかもと、少し心配になったよ。まぁ、来たら身を隠すか、あいさつするかだけど。子どもたちはお弁当の時間におやつも食べる。これも「狙い」だ。包みの中からカラフルなお菓子を取り出すんだけど、オレはちょっとイライラしている。なぜか…子どもたちがなかなかお菓子にたどりつかないんだ。紙をはいで、箱を開けて、袋をやぶって、やっとお菓子と出会える。昔からそうだったっけ?一回開けたら、すぐお菓子が登場してた気もするんだけど…。これも、運動会の時期が早くなったり、俺たちの巣(もう無いけど)が深くなったりしていることに関係あるのだろうか?

〈恐怖の行進〉
 そんなことを考えたり、空を見たり、雲を見たり、風を感じたり、草の匂いをかいだりしていた。いい日だなぁ。子どもたちは、敷物をたたんでリュックにしまうとまた遊びにいってしまった。オレは昼寝をしようと草のベッドにゴロンとした。その時だった!「カサカサっ」「すすっす」。どこかで聞いたことのある音が聞こえた。それは一度ではなく、何回も。そしてどんどん近づいてくる。「カサカサカサ」は何回も連続でやってくる感じ。音はどんどん大きくなる。この音は…アリの行進だ!そりゃそうだよな。子どもたちが甘いものをこぼしまくったんだもん。やばいかな…

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