教室のアリ 第36話 「5月28日①」〈平均点へのルール破り〉
オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組で名前はコタロー。仲間は頭のいいポンタと食いしん坊のまるお。
〈約束〉
運動会が終わり、サクラちゃんに笑顔が戻り、まるおの食欲も回復し(土曜はほとんど食べなかった。だから日曜は大雨だった)、なぜか月曜日は誰も学校に来ず、火曜日になった。子どもたちは元気に教室にやってきた…ダイキくんを除いては…
「ヘイ!ダイキ!きょうから体育はスポーツテストだな!50メートル走とボール投げ以外はお前に負けないぜ!」眉毛の太い子が言った。
「うん、そうだね…」
「『そうだね…』って、違うだろ!『ひとつも負ける気はないぜ!』だろ!」
「うん、そうだね…」
「ダイキ、どうしたんだよ」
「なんかさぁ、来週のテストでパパとママがひとつでいいから平均点を取らないと、野球を…」
まるおは怒りだした。
「だから、勉強は勉強!野球は野球!何で人間はわからないの?運動会、かっこよかったじゃん!それでいいんだよ!かっとばせばいいんだ」
「でもさ、ひとつでも平均点を取れば野球を続けられるってことでしょ?」ポンタは冷静だった。
「ダイキ、平均点を取れそうな教科は何?」眉毛の太い子が聞いた。
「う〜ん…算数と理科は無理だなぁ。得意なのは…社会かなぁ。先生にプリントを作ってもらって都道府県は大丈夫で、山地とか、コウギョウチタイとかもわかってきたから。」
5教科のうち1教科で平均点を取る。簡単なのか難しいのか…アリにはわからない。兎にも角にも次の月曜日からテストは始まる。もう1週間もない…
「オレたちにできることはないのかな?」オレは2匹に聞いた。
「応援だろ!」まるおは、気合いと根性で解決するタイプだ。
「う〜ん…本当はダメなんだけど…どうしてもピンチになったら…最後の手段は…」ポンタはモゴモゴしている。
「何だよ!いってみてよ!」まるおがせかした。
〈時にはルールを破らなければいけない〉
「う〜ん…この前、ダイキくん家で発見した【クセ】を使うんだ」
「どういうこと?」オレは聞いた。
「(ア)(イ)(ウ)…とかの中からひとつを○する問題があるよね。あれだけでも全部正解すれば平均点をクリアできると思うんだ」
「なるほど!で、どうするの?」
「ていねいに説明するよ。しっかり聞いてね」
「うん」
「テストが始まったら、まず頭の良い子の答えを見る。その次にダイキくんがあきらめて眠るのを待つ。その間に、オレたちは机に登り正しい答えの近くにうんち💩をする。ダイキくんを起こす。ダイキくんは【点を○するクセ】があるからうんち💩のついた正しい答えに○をするはず」ポンタのアイデアにふむふむと思いながらもいくつか疑問がうかんだ。
「ポンタ、まず頭の良い子って誰?」
「サクラちゃんかなぁ」
「じゃぁ、どうやって答えを見るの?サクラちゃんの机に登ったら『キャー』って叫ばれて、下手したらあの世行きだぜ」オレは言った。
「方法はひとつある。まるおはイヤかもしれないけど…」
「なんだよ、教えろよ!」まるおは強く言った。
「蝿に頼むんだ…」
「蝿?蝿ってこの前、ボクと戦った蝿?アイツに頼む?」まるおは大声を出した。「でも、どうやって?」このままだと、まるおとポンタがケンカをはじめそうなので、話を進めた。1時間目の授業がはじまった。さすがにテスト前だ。子どもたちは静かに授業を聞いている。オレたちは教室の隅で話し続けた。授業は社会、ダイキくんは先生の話を聞いている。まぶたが少しずつくっつきそうになってきた。まだ、朝なのに…