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プロスポーツ法人に於ける社長の退き際(ひきぎわ)

INDEX
■プロスポーツ法人社長の責任の重さ
■解任/進退伺い/辞任
■私の考える社長の退き際

■プロスポーツ法人社長の責任の重さ 

 ここのところ、Jリーグクラブ選手の不祥事が続いている。それに伴ってメディアや支援者達から、その管理責任についての追求も少なくない。アルビレックス新潟の社長は、当該クラブ選手の起こした不祥事の責任をとる形で辞任している。またJリーグクラブの場合、成績不振が続くとサポーターから容赦のない「社長辞めろ」コールが巻き起こる。誤解を恐れずに申し上げれば、一般企業で社員の酒気帯び運転を速やかに取締役会報告としなかったことに対して、社長が辞任したということを耳にした記憶は少なくとも私にはない。

 また、よく耳にするのは「プロスポーツ事業は地域の方々への豊かな時間の提供という公益的性格が強いため、そのトップたる社長はなかば公人として、クラブのあらゆる活動に対しての責任を広く世間にコミットしなければならない」という考え方だ。私はこのことを否定するつもりはないし、そのくらいの気持ちでこれまで社長職を務めてきたつもりでいる。それだけプロスポーツ事業に於ける社長の責任は重いということなのだろう。

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 一方で、社長の退き際(ひきぎわ)ということについて、私はキチンと明文化されたものを目にしたことがない。これだけ責任を問われやすいポストでありながら、その羅針盤がハッキリしないというのも妙なものだと思う。そこで今回のコラムでは、私なりに考えるプロスポーツ法人に於ける社長の退き際について言及してみたい。あくまでも私の経験に基づいた個人的見解として読んでいただければ幸いである。

■解任/進退伺い/辞任

 退き際と言っても退き方には幾つかのパターンがある。自身の思いとは関係なく任を解かれる「解任」、自身の進退を取締役会に委ねる「進退伺い」、自らの意思で職を辞する「辞任」がそのパターンに相当する。結果、職を退いたことを「退任」と称する。大事なポストの異動なので、言葉は正確な理解と使用を心がけるべきだ。そして、そのそれぞれが適用される事由について簡単に記しておきたい。特に親会社からの出向者である場合と、私のように個人事業主として契約でやっている場合とでは、その事由もやや異なる部分もあるので、そこも含めて記しておくことが必要だろう。尚、退任は取締役会、株主総会の決議をもって完了する。

 おおよそ退任の引き金となるであろう事由は以下の通りと考えている。
①契約した任期を満了(通常退任)
②疾病や家庭事情等、私的都合で職務続行不可
③親会社への復職または別会社への異動命令(出向者の場合に限る)
④ブランド毀損に繋がる日本国法令またはリーグ規定違反及びその隠蔽
⑤ブランド毀損に繋がる④項に関わる管理監督義務不履行
⑥会社存続に重大な影響を及ぼす業績低迷に関する執行責任、及びその原因となった人事配置に対する任命責任
⑦チーム成績低迷の原因となった現場及びフロント人事に対する任命責任
⑧その他、取締役会とコミットした事項の未達成
⑨輩下組織構成員及びお客様からの著しい信頼の失墜
⑩人/モノ/金の経営資源や経営プロセスに対する過度な干渉

 上記の内、それぞれの退任手段に相当する事由を以下に記してみた。
・解任=③④⑤⑥⑦⑧
・進退伺い=④⑤⑥⑦⑧⑨
・辞任=②④⑤⑥⑦⑧⑨⑩

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 こうして並べてみるとそれぞれの事由をどうとらえるかによって、同じ事由でも解任であったり辞任であったり進退伺いであったりする。それは、一つにはその事由の程度の問題であったり、自身をどう律するかという意識の問題であったり、或いは解任や進退伺いの場合に、それを決める取締役会メンバーのスタンス等も影響してくるので、一概にうまくいっていないからと言って「クビだクビだ」と軽々に騒ぎ立てるのは如何なものかと言えよう。特に自ら退任を決める辞任の場合、決心する人によって異なるし、また決めたことを尊重する周囲の姿勢は必要と考える。

【私の考える社長の退き際】

 解任や進退伺いの場合は、事由の程度等を斟酌しながら適切な判断を適切な機関(取締役会)で決めるというプロセスがあるので、ここでのバラツキはあまりないと思料する。よってこれ以降の題材としては扱わなくて良いだろう。一方、己だけで決められる辞任については、人によって考え方にかなりのバラツキもあろうかと思うので、私なりにどう考えるかということを記しておく。

 その前に、私は3つのクラブを経て現在に至っているが、その全ては事務手続き上では、単年契約の期日満了退任扱いとなっている。但し気持ちの中では、マリノスとエスパルスは、私的に言って契約更新を望みながらも何らかの理由で更新が叶わなかったことを、この場ではっきりしておくことにする。

 さて、辞任の基本スタンスについて、先ずは社員や現場を預かる身として、軽々に職を辞するべきではないと考える。社員や現場の幸せを願い、かかわる全てのお客様にひたすら喜びやご満足を味わっていただくことに全知全能を傾けるべき立場の人間として、簡単に辞めてはいけない。例え不祥事があり管理責任を問われたとしても、隠蔽等の重大な過失を犯さない限り、罰は甘んじて受けることはあっても、自ら職を辞するべきではない。業績不振、チーム低迷が顕著となっても、お客様や社員、現場から信を問われない限り、浮揚に向けて渾身の力を出し続けるのが筋と考える。さらには、前項⑩にあるような干渉で、十分な権限を与えられない状態になったとしても、忍の一字で出來得る限り社員、現場、お客様のために務めるメンタリティを持つべきだ。

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 社員、現場、お客様は宝物である。総じて、何はさておき、そうした方々のために、自身を捧げる思いで社長職を務めるべきその社長が、自ら職を辞することが如何に無責任極まりないかということをこの場を借りて申し上げておきたい。よって、自身が身を引くのは、前項⑨の社員、現場、お客様からの信頼を得られなくなった、その時につきる。それが私の考える退き際であり、トップとしての潮時である。したがって、一度トップとしての任を受けたからには、簡単に自ら任を解く無責任な行為を「潔し」などと思わず、負から正へ、悪から善へ、貧から富へ、悲から喜へ、常にみんなの道しるべとなって進むことがトップの最も大事な務めと思っていただければ幸いである。

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