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予約なしで学びの機会 石巻市南浜・津波伝承館 毎週土曜は語り部講話

 石巻南浜津波復興祈念公園内の展示施設「みやぎ東日本大震災津波伝承館」で23日、県内語り部の定期講話が始まった。毎週土曜の定時開催となり、ふらっと訪れた人に対しても、思いがけない語り部との出会いと学びの場を提供する。初回は津波で流された自宅跡地に「がんばろう!石巻」の看板を建てた黒澤健一さん(51)が被災体験と伝承の取り組みを語り、午前に24人、午後は22人が耳を傾けた。

 黒澤さんは11年前、東松島市で地震に遭い、石巻市門脇町にあった自宅兼店舗に車で戻る途中の石巻工業港近くで津波に遭遇。松の木に上って難を逃れ、翌朝、徒歩で自宅近くまで来た。心配だったのは、地震後のわずかな携帯電話の会話で「家に居る」と言った妻の安否。自宅には近づけなかったが、避難所を探し回り、救助されていた妻を見つけることができた。

初回は園内の「がんばろう!石巻」看板を建てた黒澤さんが語り部を務めた

 数日後、門脇町で目にしたのは、遺体が毛布にくるまれて運びだされる様子。悔しさに何とかしたいと建てたのが、「がんばろう!石巻」と書いた看板だった。周辺が祈念公園になった現在も看板は代替わりしながら残され、節目の日を中心に多くの人が集まる場になっている。

 黒澤さんは次世代への防災教育として、看板近くに咲いた「ど根性ひまわり」の子孫を各地で育ててもらう活動や、伝承看板の設置にも取り組む。「建てたからには、できることを全部やろうと今に至っている」と振り返った。海に近い所を移動した震災時の行動は「最初から最後まで間違い」と反省した。

 復興支援で定期的に来ている山梨県の辺見佳子さん(83)はコロナ禍で3年ぶりの来訪。この間に開館した伝承館は初めてで、偶然聞けた講話に「本当の体験談は身に染みるものがある」と感慨深そうにしていた。

新たな人材も募集

 定期講話は同館を開設する県と、東北大学災害科学国際研究所の共催。施設を管理する3・11みらいサポートなど主催の定期講話と合わせ、毎週土曜午前11時と午後1時の2回、もしくは午後のみの1回行われる。いずれも聴講無料で、事前申込み不要。県などは語り部を募集しており、1回当たり7千円の日当がある。詳細は県ホームページ。伝承館から離れた場所でオンライ講話も可能だ。

 定期講話は同館を県内の伝承拠点としての機能を高め、次世代の伝承の担い手育成を図るのが目的。みらいサポートなどが昨年度に同館などで行っていた定期講話を県が拡大させた。ほかに中高生、大学生の解説員も募っている。

 予約なしの定期講話は他県の伝承施設で先例があり、進行役を務めた同研究所の佐藤翔輔准教授は「語り部を知らない人が、他の人も聞いてみたいと思うきっかけにしたい。希望制の語り部であり、やったことがない人の育成もできれば」と期待した。【熊谷利勝】





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