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無機質な巨大防潮堤に彩り 自然と一体的な壁画完成 雄勝に「海岸線の美術館」

 石巻市雄勝町上雄勝で東日本大震災後に建設された巨大防潮堤に壁画が完成し、26日に「海岸線の美術館」として開館した。灰色の無機質な壁面に色彩が加わり、背景の自然と一体的な新たな風景を生み出している。

 完成したのは高さ7.5メートル、幅54.6メートルの壁画。題名の「テオリア」は「観想」という意味のギリシャ語で、「雄勝の海辺」の意味も込めた。芸術家の安井鷹之介さん(29)=東京都=が各浜でスケッチした風景を一つに混ぜ合わせた絵で、木々の間から水平線や対岸が見える雄勝特有の移動体験を表現している。

太鼓演奏に合わせて大漁旗が下げられ、作品が披露された

 美術館としての開館セレモニーでは、和太鼓演奏に合わせて、除幕の代わりに大漁旗が下された。来賓の齋藤正美市長は「新しい拠点として多くの人が来る場所になれば」と期待を述べ、安井さんは「絵だけでなく、流れる雲、潮のにおいなど風景の一部として見ていただければ」と語った。

 近くには高さ7.5メートル、幅6.6メートルの壁画「漁師」も完成。朝日が昇りきる前の海で作業する漁師の背中を描いた作品で、覆っていた漁網を引いてお披露目された。

漁師の背中を描いた縦長の壁画

 披露に合わせて「雄勝壁画まつり」と題したイベントがあり、地区内外から集まった人に焼きガキなどの料理の振る舞いや壁画前での演奏、ダンスの披露があった。防潮堤の建設や壁画の制作には地元に賛否があるが、近くの復興公営住宅に住む60歳代の女性は「高台の団地からきれいに見える。多くの人が見に訪れたらいいねえ」と話した。

 壁画は雄勝湾を囲むように整備された全長約3.5キロ、高さ最大9.7メートルの防潮堤をキャンバスとし、野外美術館として展示する取り組み。3年半前に雄勝町に初めて訪れ、巨大防潮堤に衝撃を受けた館長の高橋窓太郎さん(34)らが一般社団法人「SEAWALL CLUB」を立ち上げ、インターネットでの募金や住民と絵の下地を作るイベントを催すなどして完成にこぎ着けた。

 美術館は今後も年に1、2作品ほどの壁画を制作し、規模を拡大していく考え。高橋さんは「自然豊かな風景の中に続く防潮堤に、アートが描かれたら素晴らしいだろうとスタートした。市、住民、友人といろいろな人を巻き込んで開館を迎えることができた」と感謝した。【熊谷利勝】





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