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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2022年1月の記事一覧

クマとハム(158日目)

青の鼓動 第5幕

目次 * * 第5幕 青の鼓動が息づく  カーテンの隙間から、朝の光が漏れている。日中の暑さが嘘のように、朝は思いの外ほんの少し肌寒くなる。東側から日が差し込む手前のタイミングで、シエスタは目を覚ました。思ったよりも、深く眠れたらしい。  隣を見ると、ベッドはもぬけの殻だった。軽く上着を羽織り、あそこかなと目星をつけて屋上へと歩く。扉を開けると、静謐な空気の中でカシャンカシャンと音がする。髪を纏めていないままのリーナの姿が、浮かぶ上がるように目に入った。 「おはよ

息遣い

夜が抜けていく時間に起きた。 同居人の朝は(異常に)早い。パン屋さんと比べたら遅いが。明けの明星が走っていくような、空の色が僕たちの与れぬところにいることを知る時間帯だと思う。多くのことを選んだり捨てたり吟味することのできる我々だけど、 どうにもできないまま、ただ自然の中にいる生き物なのだと思う。空の色が変わっていく時間はそんな時間だと思う時がある。 パートナーを見送って二度寝も考えたけど、結局起きることにした。眠くなったらこのまま後ろに倒れて眠る。 今日は病院に行く。

雨宿り(短編小説)

さっきから雨の音に混じって何か聞こえるような気がする。ひと通りの家事を終え、ぼんやり椅子に座っていたわたしは、立ち上がることもおっくうだった。 規則的ではない。固い、小さなものが当たるような音。冷えてはいるけれど、まだみぞれの季節ではない。連続したり、途切れたりしながらも、その音が止むことはなかった。 昨日、流産の手術を終えたばかりだった。しばらくは安静にしていてくださいと医師は言ったけれど、特に腹部の痛みはない。出血も今朝はほんの少しだった。 「早くわかったから、よかったの

未来のわたしへ。辛くなったら読むこと。

一週間後、一ヶ月後、三ヶ月後、そして半年後のわたしへ。仕事が辛くなったらこれを読むこと。 今日は1月31日。あなたは明日から、新しい会社で働く。今までとは全く違う仕事をする。大変だと思う。三ヶ月かけて勉強はしたけど全然わからなかったし、そのくせ就職までの間もずっとゴロゴロして漫画ばかり読んでいて努力もしなかった。やらなきゃいけないって、わかってるのにやらなかった。 そりゃ辛いはずだよ。わかってたでしょ。頑張ってない自分が悪いよ。上司に怒られてる?呆れられてる?自分より若く

2022/01/31

 今朝は、昨日よりはマシな目覚め。  郵便ポストに投函しに行く時、バイクに乗った郵便局員とすれ違い、既に郵便物の回収が終わったことを悟る。最寄りの郵便ポストは、回収が1日1回で回収時間が郵便ポストに記載された時間通りだったりそうじゃなかったり、その日ごとにマチマチなので、当日の回収に間に合うかは運次第だったりする。  帰宅して、家事を済ませ、昨夜買った電子書籍を少し読んだら、昼飯時だったので、夫とコンビニへ行く。昼ごはんは、サラダとおにぎりにした。  午後は、私の仕事を

レポートが終わったので連続投稿してみました。

めちゃくちゃレポート書きました。この一週間。 通信制大学の文芸コースに通っているのですが、家族も仕事もある状態で、レポートに取り組むのはなかなか大変です。勉強以外にもやらなきゃいけないことがいっぱいあって、とにかく時間が足りない。 しかし。今回のレポートには卒業論文着手条件がかかっておりますので、そうも言っていられない状況でした。なのでこの一週間、毎日ひたすら文字を書いておりました。読んでは書き、書いては推敲し、また推敲し、の日々です。 とにかくひたすら書く・インタビュ

note2年目、目標は「文章」ではなく「私自身」を磨くこと。

昨日、「noteをはじめて1周年記念!」のお知らせが届いた。 今年は「発信する」と決めた。という記事を書いてから1年が経ったことになる。プロフィールがわりに固定記事にしていたが、もう「今年」ではないので固定記事も変更した。 仕事は別だが、プライベートの文章に関しては、私は「書く」ことだけで満足してしまうタイプなので、これまであまり「読んでもらう」ということに重きを置いてこなかった。 ただ、noteで書いたものを発信するようになり、多くの人の目に触れて、「共感」「応援」「情

それぞれの感性で (123)

みなさん、こんばんは。禧螺です。 今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。 レディースウィークの体調絶不調が続きますが、気力だけでも上々なのがありがたいです。 みなさんも体調不良の際は、どうかご無理なさらずにお過ごしくださいね。 というわけで、本日も「それぞれの感性で」シリーズ(音楽)でお送りします。 趣向を変えて、ちょっと格好いい雰囲気の音楽で参ります。 ⚔ 最近、自己タロットカードリーディングを始めたのですが、やたらと「ソード6」のカードが続くの

青の鼓動 第4幕

目次 * * 第4幕 生きることにただ必死なだけ  愛とは、いったい何だろうか。  夢の中で、リーナはひとりただ静かに泣く女の子の幻影を見た。その女の子のことが気がかりでそっと近づいていくと、顔を上げた彼女を見て思わず目を見張る。かつての自分が小さかった頃に、そっくりだった。  胸がギュッと掴まれたような気持ちになる。女の子の目は、リーナに向かって問いかけていた。あなたはいま、幸せ?  かつて数年一緒に暮らした夫のことを思い出した。毎日、自分としては彼に献身的に

◎大寒・だいかん「1月20日〜2月3日頃」

一年で最も寒さの厳しくなる 「大寒(だいかん)」。 冬最後の節気となっております。 大寒の最終日は、その風習が今も色濃くのこる 節分(せつぶん)。 翌日には 「立春(りっしゅん)」を迎えます。 さて、大寒(だいかん)の 始まりは 1月20日~1月24日 大寒の初候 《款冬華 ・ふきのはなさく》でした。 そのほろ苦さが初春を感じさせる ふきのとうが芽吹き始める頃です。 続いては、 1月25日〜1月29日 大寒の次候 《水沢腹堅・さわみずこおりつめる》。 沢の水

フランスおいも天国

冬の間の温かいご馳走は煮込み料理とかラクレットチーズなどのボリュームたっぷりものに限る。 そう、しかも何故かこのシーズンに無性に食べたくなるのはイモなのである。 現在私の冬の主食はじゃがいもといっても過言ではないくらい。 実は個人的には夏の間はほとんど食べられないのに…。少し重すぎる様な気さえする。日本にいた時には比較的よく食べていたポテトサラダを主食として、パンも摂らずに白ワイン、或いはプロヴァンスのロゼワインと合わせて栄養補足をしている感じである。 正直なところ、年

小説┊︎エーデルワイスの案内人

 外の世界はどうやら雨が降っているらしい。そういえばここ数日外に出ていない。ここには時々、忘れものを探しに人が訪れる。訪れる、と言うよりも「迷い込んでくる」と言った方が正しい気がする。なにか大切なものを忘れた人がこの町、この案内所にやってくる。どうやら忘れものを見つけないと元いた場所には帰れないらしい。僕もその1人なのだが。その忘れものはさまざまで、この前は「自分の名前」を探しに来た人がいた。さすがに名前となると探すのは一苦労だ。何とか見つけることが出来たがあの人は無事に帰れ

薄皮[短編小説]

 わたしは馨の手元から目を逸らすことは出来ませんでした。  白い白い、陶器で出来ているかのような壊れやすそうな長い指。  馨の指先は蜜柑の房と房とを引っ張っていました。  蜜に汚れた両の、親指と人差し指。  しりしりという僅かな、あるかなきかの音ともに蜜柑は引き離されました。  三日月にも半月にも似た、ひと房同士。  白い薄皮に包まれて透けている橙色の果肉。 「不思議ですね」  馨は不思議でもなんでも無さそうです。 「あんなにしっかりくっついていたのに、一度離れてしまうと、