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名調子太鼓吟ずる火の用心

季語:火の用心(三冬)

めいちょうしたいこぎんずるひのようじん

空気が乾燥し、ストーブなど火の利用が増える冬は、火事がよく起こります。ニュースでもどこそこで火災で住んでいた方が亡くなったといった悲しい報道を、毎日のように目にします。

少しでも火災を減らそうと、町内会や消防団の方を中心に「火の用心」の夜回りが行われる地域もあります。スタンダードというか有名なのは、

「火の用心、マッチ1本火事の元」

の標語を読み、拍子木でカチカチとリズムを取るスタイルでしょう。以前住んでいた町内はこの形式の夜回りが行われていました。

昨年5月に転居をし、新しい町内で迎える初めての冬です。住宅が古いせいかあちこちが寒く、2Fの自室から1Fのリビングまでの階段と玄関ホールの冷たい空気はわたしの気管支炎の大敵です。急に冷たい空気を吸うことで、気管支が収縮して呼吸困難を引き起こしてしまうのです。そのため、数秒間息を止めて移動しています。

夕食後、息を止めて自室に上がり、原稿書きに勤しんでいるときに遠方で太鼓の音が聴こえてきました。今頃お祭りの練習でもあるまい、と思いながら聴いているとだんだん太鼓の音が近づいてきます。それと同時に何かを歌いながら太鼓を叩いているのがわかりました。

ひのーよーうじん

「の」に強いアクセントがあり、民謡を歌うように朗々と発声しているのがわかりました。

この町内の火の番のスタイルのようです。「マッチ1本火事の元」は唄いません。

「ひのーよーうじん」 トントン(太鼓の音)

これだけをリズミカルに繰り返して、町内を廻られているようです。単に標語を繰り返す火の番よりも、耳にしていて思わず聴き惚れてしまいそうでした。

スタンダードな標語型なら誰でもできます。町内会や消防団で持ち回り当番を決めて実施することもできるでしょう。しかし、「ひのーよーうじん」の節回しは民謡か詩吟か、何かそういった心得がなければ難しそうです。あるいは、カラオケ自慢のお父さんとか?

バスは廃線、駅はやや遠く、コンビニも少ない田舎町で正直住みやすいとは言えない場所です。しかも、築年数数十年の家は底冷えがします。マイナスイメージばかりが目についてしまいますが、思わぬところで面白い慣習(もしかしたらあの方のオリジナルかもしれませんが)に接することができました。

今日から始められたのか、たまたまこの辺を通りかかっただけなのか、わかりません。願わくばお身体に気をつけつつ、できるだけ多く近所を廻ってもらいたいものだと思います。

記事を書くつもりはなかったのですが、「ひのーよーうじん」の名調子に釣られて一気に書き上げてしまいました。もちろん、予定していた仕事の原稿はそっちのけ、です。

たまにはこういう出会いがあるのもよいものですね。最後までおつきあいありがとうございました。

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