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勉強しなさいって言わなくても勉強する子にどうやって育てたの?(4)

●子どもの果てしない興味

子どもは意外なものに興味を示します。電車に夢中になる子ども、昆虫に夢中になる子ども、このあたりは割と普通ですが、先日はテレビで「掃除機に夢中の小学生」を見ました。大人には理解できないものにも子どもは夢中になります。幼児期の息子の興味の対象は「数字」でした。

息子が2歳の頃、我が家の冷蔵庫には、簡単な予定を書き込むためにカレンダーが貼ってありました。朝食を食べ終わると、冷蔵庫を指さして「取って」と言います。カレンダーを取ってくれというのです。そのキティちゃんの絵のカレンダーをテーブルに置いてあげると、子ども用のテーブル付き椅子から降りようともせずに、1時間くらいカレンダーを眺めています。

最初は、キティちゃんが好きなのかと思いましたが、どうやらカレンダーの数字に興味があるようです。「1、2、3…」とカレンダーの日付を追っています。次の月をめくり、書かれたメモ書きを見ては「これはなんて書いてあるの?」と質問、そのうちに家族の誕生日などを「何月何日」と覚え、いつしか1月から12月の1年や、多くても31日しかない1から31の数字では物足りなくなっていきました。

今度はお絵かき帳と色鉛筆を持ってきて「ママ、数字を書いて」と言います。「この色で1、次はこの色で2、次は…」延々と続きます。しかも数字に終わりはありません。毎日毎日、最後に書く数字は大きくなっていきます。

いい加減こちらも嫌になってきて「頑張って自分で書いたら?」と言ってみました。すると、息子は目に涙を浮かべて悲しそうな顔をして「まだ字が上手に書けないの。だからね、数字はママにきれいな字で書いてほしいの。」と言いました。その真剣な様子に「書いてもらうことにも子どもなりの理由があるのね。上手に鉛筆が持てるようになるまで、もう少し書いてあげよう。」と心に決めました。

しばらくの間、私も夫もおばあちゃんたちも、息子につかまると数字を書かされたものです。めでたく息子が自分で書けるようになったときには、長く続いた毎日の数字書きから解放されて家族一同ほっとしました。

4歳になった頃でしょうか。自分で書くようになってしばらくすると息子はあることに気づいたようでした。「数字は10ずつのかたまりになっている」ということです。「10が10個集まって100になる」ということです。

正方形の折り紙に、まず10×10の100マスを作るようになりました。すると、どこからでも数字を埋めていくことができます。「5行目の5列目だから55」という具合です。1から順番に書いていかなくても、ランダムに1から100までの数字を好きな順番で入れていって、その100マスの数字を埋めることに熱中するようになりました。次の折り紙には101から200、その次の折り紙には201から300、どこまでも続いていきます。

毎日毎日、数字ばかり書いているので親として心配しないわけではありませんでしたが、とにかくものすごい集中力でその作業に没頭しているので、気の済むまでやらせることにしました。

こうなると、自然に足し算や引き算にも興味がわいてきます。息子にとっては完全に遊びなので、計算問題すら楽しいパズルのようです。それなら、と幼児向けの計算ドリルを買い与えました。「子どもの興味は大人の感覚でむやみに否定しない」そう思っていたので、息子のことを「ちょっと変わっているかも」とは思いましたが、「こんなに好きなんだから、まぁいいか」という気持ちで見守ることにしました。

そして、息子の中で数字に関する新しい発見があると「すごいね!」と褒めることは忘れないようにしていました。娘が小学生になると、幼稚園児の息子は姉の算数の教科書を毎日楽しそうに読んでいたので、幼稚園年中の時から常に2学年上の算数を自分で勉強していたことになります。


早寝の習慣づけのために、幼児期から寝る前の絵本の読み聞かせを続けていましたが、家にある本はすでに読みつくしてしまっているので、図書館にも定期的に通って、それぞれが好きな本を借りていました。息子はもっぱら算数や数学関係の本です。私はまるで数学には興味がなかったので、子ども向けの算数の本があるとはそれまで知りませんでしたが、探せばあるのですね、息子は図書館にある算数や数学の本たちから、様々な知識を得ていきました。

息子が小学5年生のとき、夫が中学生の頃に買ったルービックキューブを偶然見つけました。古いものなので解き方の解説を書いた紙はすでに行方不明です。来る日も来る日も学校から帰ってきたらルービックキューブに取り組んでいました。夫は中学時代に自力での攻略を諦めて解説を覚えてできるようになった人だったので、「自力で完成させるのは無理」と冷ややかでしたが息子は諦めませんでした。

取り組み始めて1ヶ月くらいが経った頃でしょうか、「あと少しで完成する」とのことです。そうなって初めて、私は「それって一度完成させたら、そのあとはぐちゃぐちゃにしてもまたすぐに完成できるの?やり方全部覚えているの?」と聞いてみました。毎日取り組んでいましたが、むやみやたらに動かしているわけではないようです。正解にたどり着く道筋を検証していたのです。彼の言葉どおり、それから間もなくルービックキューブの6面はきれいに揃いました。

それまで気にもかけていませんでしたが、私は「ルービックキューブ 作者」とインターネットで検索してみました。「ルービック」というのは、作者の名前らしいということは聞いたことがあったのですが、いったいどんな人なのだろうと思ったからです。

「ルービックキューブ」は、ハンガリーの建築学者で、ブダペスト工科大学教授だったエルノー・ルービックが1974年に考案したもので、3次元幾何学を説明するための動くモデルを求めて発明されたそうです。「ルービックキューブって数学に関係あるのね。」と、ここしばらくの息子の取りつかれ具合に納得する思いでした。それ以後、彼の誕生日プレゼントには、オーソドックスな「3×3」以外の様々なルービックキューブを探すことになりました。

ルービックキューブに夢中になり始めた頃、息子の愛読書は「頭がよくなる図形パズル」という本でした。本屋さんで息子が自分で見つけて選んだ本です。その中にはN中学やK学院の中学入試問題が載っていました。それらの問題は、息子にとっては「わくわくするパズル」でした。時間を忘れて問題に取り組んでいました。一般的には難解だといわれるN中学やK学院の算数の問題のほうが、他の学校の算数の問題よりも惹きつけられているようでした。

それから約1年後、我が家ではかなり予定外のことだったのですが、息子はK学院の入試に臨んでいました。試験を終えて私の顔を見て開口一番「今日の算数の問題、いい問題だったよ~!」とニコニコして言いました。私は「いい問題だなぁ」と試験中に笑顔を浮かべていたであろう息子の様子を想像して、とても楽しくなりました。子ども自身に興味がある物事は、大人には「勉強」だと思えるものであっても楽しい遊びの一部なのです。


ルービックキューブ3×3を自力で攻略し、「頭がよくなる図形パズル」の問題に楽しく取り組んでいた小学5年生のある時期、私が仕事から帰ると、電卓をすさまじいスピードでたたく息子の姿を目にするようになりました。手元には1枚の紙、そして電卓。今度は何を始めたのかと思いながらも、数日間はただ黙って見ていました。

それが毎日続くので、たまりかねて何をしているのか聞いてみました。すると、返事は「算数の考え事」。はぁ?算数の考え事ですか?そうですか、あなたもいろいろ考えることがあって大変ね。来る日も来る日も、暇さえあれば電卓をたたく日が何日続いたでしょうか。

夕食を作っている私のところに息子が来ました。「ママ、ルート2って知ってる!?」「ルートって√のこと?1.41421356…ってやつ?中学のとき『ひとよひとよにひとみごろ』って覚えたわ~」「えーっ!知ってるの?」「どうして急に√なの??」

話を聞いてみると、数日間電卓をたたき続けた結果、出した答えが「1.41421356…(実際には、もっと多くの桁数でした)」で、ふと思いついて、自分が導き出した数字をインターネットで検索してみたら、それは「√2」だということを知ったようでした。

息子が何をしていたかというと、正方形の一辺と対角線の比に何か法則があるのではないかと思い立ち、いろいろと考えた末に、正方形の一辺を「1」としたとき、その対角線は、かけ合わせたら「2」になる「ある数字」であるという結論に達したそうです。その「かけ合わせたら限りなく2に近づく数字」を求めて、電卓をたたくという原始的な方法で「1.41421356…」という数字にたどり着いたとのことでした。

自分で見つけ出したその数字が、もうすでに世の中では知られている存在であるということにはとてもがっかりしたようでしたが、自分の仮説は間違っておらず、しかも導き出した数字が正しいものであったということは、小学5年生の息子にとっては、とても嬉しい発見だったことでしょう。

私はたしか中学3年生の時に、√というものを数学の時間に教わっても、とくに何の感動もありませんでしたので、正直まったく息子の興味が理解できませんでしたが、どうしてこんなことを考えるようになったのか、息子に聞いてみました。

最初は、円周率を自分で計算しようと思ったそうです。円をその中心を頂点とする限りなく細い三角すいに切り分けて、円周率の3.15を計算してみようと思ったのだとか。やってみるとなかなか難しくて、これは途中で諦めたそうです。それならば、と正方形の一辺と対角線の比にも何らかの法則があるに違いないと考えてこれに行きついたそうです。その考え方を解説してもらったところ、それは遠い昔に私が中学校の授業で聞いた解説とおそらく同じでした。

ママには何が楽しいのかまったく理解できないけれど、あなたが楽しそうに算数の考え事をしている姿を見ているとママも楽しくなるわ。好きなことがあるってすごく素敵なことね。もっともっと好きなことが勉強できるといいわね。ママは応援するわ。心の中でこう言いました。

(次回は「●幼少期の様々な体験」)


勉強しなさいって言わなくても勉強する子にどうやって育てたの?(1)


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