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73.多様性と包摂

まずは、東京オリンピックで柔道男子100キロ級の金メダリストになったウルフ・アロンさんの発言です。

“根底で多様性とか…そういうところを気にしてるからこそ、そのような言葉が生まれたり、言わないと分からない人がいたりする。
普段の生活から気にせず生活していけば、差別とか区別とか多様性っていう言葉もなく、みんな平等にやっていけると思います。”

まさにその通りで、これができていれば、格差も争いもなくなってソーシャルワーカーも必要なくなり、その職種の人たちももっと違った形で社会貢献ができているのだと思います。

専門用語などはどうでも良くて、本来、人間が築く社会のあるべき姿が多様性の包摂ができた社会なのだと思います。

とは言っても、ここからは専門用語もどんどんぶち込んで おべんきょう を進めていきます。

インクルージョンは“包括”、“包摂”、“包含”などを意味します。
 
すべての人が、個性を尊重されて個々が持つ能力を発揮できて社会の中で活躍している状態のことです。
 
インクルージョンはヨーロッパの社会福祉政策の理念がルーツになっています。

1970~80年代にフランスをはじめとするヨーロッパ諸国では、ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)が社会問題になっていました。
 
今の日本のような状況ですが……ソーシャル・エクスクルージョンは、社会の構成員すべてが享受できるはずのサービスや機会や権利を、格差や差別によって特定の個人やグループが受けられていない状態を指します。
 
当時のヨーロッパでは、産業構造の変化や移民の増加などを背景に生じた失業や貧困が問題視されていました。
 
その対策として“誰もが社会に参加する機会を有する”というソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)に基づく施策が展開されました。
 
以降は、社会福祉政策の文脈以外でもインクルージョンの理念が展開され、教育分野ではインクルーシブ教育として取組が進みました。
 
近年では、ビジネスに不可欠な企業戦略であるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)としても、インクルージョンの概念が広まっています。
 
インクルージョンと混同されやすい概念に、インテグレーション(統合)があります。
 
インテグレーションは同一集団に“まとめられる”ことで、インクルージョンの“個々の状態を見る”とは大きな隔たりがあります。
 
エクスクルージョン(排除)は、マジョリティと異なる属性を枠組から排除することで、次の段階として、セグリゲーション(分離)があり、マジョリティと異なる属性を集団から分離して区別することで排除ではありませんが、差別のような状況です。

その次にインテグレーション(統合)があります。

マジョリティの集団の中に、マイノリティの枠組を組み込み同一化します。
 
そして、インクルージョン(包摂)です。

個々の異なる属性が受け入れられて、互いに尊重されている状態です。
 
このように、インテグレーションとインクルージョンには大きな差があり、日本の教育…それに限らず、日本の社会はようやく、インテグレーションの域に辿り着いた状況と言えるのかもしれません。
 
日本における障がい児教育は、エクスクルージョンの状態から始まりました。

今はインクルージョンの段階を目指しています。
 
すべての児童を受け入れて、個々に最適化するインクルーシブ教育へと展開しつつあります。
 
インテグレーション教育が予め障害のある子どもと障害のない子どもを区別した上で、同じ場所で教育する(障害のある子ともが障害のない子どもに統合されていく)ことで障害のある子どもの支援をするのに対し、インクルージョン教育は障害の有無に関わらずに共に学ぶことを通して、共生社会の実現に貢献しようとする考えに基づく教育で、ひとりひとりの教育的ニーズに応じた合理的配慮が提供されるすべての人を対象にした支援です。
 
このように、インクルーシブ教育は障害の有無に関わらず、すべての子どもたちが共に学ぶ仕組であり、そこにはひとりひとりの教育的ニーズに応じた“合理的配慮”が提供されることになりますが、日本の現状はこの部分の共通理解が難題になっているようです。
 
インクルーシブ教育を考える上で知っておかないといけないのが、これまでの歴史です。
 
1979年に養護学校が義務化されました。
 
それまでは大半の重度・重複障がい児は就学できないで、自宅や施設で過ごしていました。
 
それが養護学校の義務化によって、障害を持った子ども達が教育の場を得られるようになりました。
 
しかし、その一方で“障がい児は養護学校で教育を受けるもの”といったような分離意識が社会全体に芽生えるきっかけになりました。

そして、障がい児と健常児と呼ばれる子ども達を区別した上で同じ場所で教育するインテグレーション教育(統合教育)へ移行していきました。
 
1994年のUNESCO(国際連合教育科学文化機関)によるサマランカ宣言を機に、インクルージョンの原則に基づく教育システムの構築が国際的な潮流になって現在に至っています。
 
この声明で、インクルーシブ教育は国際社会で取り組むべき世界的教育課題として提言されています。
 
2001年にICIDH(国際障害分類)が、ICF(生活機能、障害、健康の国際分類)へと改定されたこともインクルーシブ教育への流れに大きく影響したと考えられます。
 
日本の特別支援教育に関しては、2007年にCRPD(Convention on the Rights of Persons with Disabilities:障害者の権利に関する条約)に署名を行い、それまでの特殊教育から特別支援教育に変わり、インクルーシブ教育システムの理念や合理的配慮の提供などが盛り込まれた本格的な特別支援教育が始まりました。
 
ちなみに、CRPDの批准書に寄託されたのは、署名が行われたこの年から7年後の2014年のことです。
 
国内の障がい者に関わる法律の整備に時間がかかったということでしょう。
 
現在のLGBTQに対する政府の理解度や見解を見ても、やはり、ご老人の割合が多い多数決政治ではマイノリティの問題は難しいのかもしれません。
 
このように、インクルーシブ教育の歴史はまだ浅く、制度や人々の意識にかなりの“差”が生じているように思います。
 
インクルーシブ教育という言葉が活用されていても、実際にはインテグレーション教育の価値観がそのまま引き継がれていたり、分離教育に逆行するようなことが行われていたりする現場も多いようです。
 
インクルージョンを実践する為には、インテグレーション、セグリゲーション、エクスクルージョンの4つ全ての概念を理解しておく必要があります。

そして、的確な現状把握と問題発見から課題解決をしていくことが重要です。

2006年に国連で採択されたCRPD(Convention on the Rights of Persons with Disabilities:障害者の権利に関する条約)は、障害に関する差別をなくして人権を尊重する為の措置を国家に求めた条約で、教育も重要なテーマの1つです。
 
日本は、2007年にCRPDに署名した後、障害者基本法や障害者雇用促進法の改正、障害者総合支援法や障害者差別解消法の制定などの法整備を進めた後の2014年にようやく批准(国家として最終的な同意を完了した状態)しました。
 
CRPDで重視されていることに“合理的配慮”があります。
 
“合理的配慮”は、障がい者が権利を公平に享受する為に必要な変更や調整を指します。
 
CRPDでは、この“合理的配慮”に関して、変更や調整を担う側に、対象者との対話を通じたケースバイケースの対応を求めるもので、一方的な決めつけをせずに個々を尊重するインクルージョンの姿勢を前提にしています。
 
CRPDはあくまで“障害”という属性を対象にしていますが、インクルージョン教育の実現においては、公平な機会を阻害する“貧困”や“ジェンダー”などの“障害”以外の属性への配慮も求められます。
 
CRPDへの批准やインクルーシブ教育も含めて、2010年代以降は日本政府もインクルージョンの普及を重要課題の1つとして位置付けています。
 
2016年に閣議決定されたニッポン一億総活躍プラン“や“人生100年時代構想”は、あらゆる属性の個人が排除されないで活躍できる状態(インクルージョン)を目指したものです。
 
2021年の“経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では、“誰一人として取り残さない包摂的な社会”を目指すとしています。
 
他にも内閣府が定義した未来社会コンセプト“Society5.0”は、“デジタル技術の活用により誰もが活躍できる社会”を日本が目指すべき社会としています。
 
ダイバーシティ&インクルージョンという取組が、ビジネスの分野では進んでいます。
 
ダイバーシティは“多様性”を意味する言葉で、様々な個人の属性の違いが受け入れられている状態を示します。
 
その為、個々の違いが尊重されて能力が発揮できる状態であるインクルージョンの前提条件になります。
 
アメリカの公民権運動をルーツとするダイバーシティは、インクルージョンよりも先に広まりました。
 
しかし、“違い”を認めて受け入れることに終始するというダイバーシティの課題が出てきました。
 
例えば、ビジネスの現場では多様な人材の採用だけが目的になってしまい、能力を存分に発揮できずに離職に至ってしまう場合が多くなっていきました。
 
そこで重視されたのが、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考え方です。
 
多様性を認めるだけではなく、多様な属性の人材が活躍できる組織構築までを目指す取組です。
 
経済産業省が推進しているダイバーシティ経営も、多様な属性の人材が活躍できる状況を強調しているので、インクルージョンを内包したダイバーシティ&インクルージョン(D&I)と同義と言えます。
 
現在は、公平性(エクイティ)をより重要視するダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)と呼ばれる考え方も普及しています。
 
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)では、単に全員に等しく機会や情報、リソースを与えるのではなく、個々の違いに合わせて、合理的配慮を講じて公平性を保つことを強調しています。

公平性が担保されずに活躍できる人材が限定されてしまう事態を避ける為に、必要な概念とされています。
 
D&I…DE&Iが重要視される背景には、生産年齢人口の減少、グローバル化による競争の激化、価値観や消費者ニーズの多様化があります。
 
グローバルな規模でインクルージョンな環境を整備することは、新たな価値観のビジネスを生むイノベーションの原動力になると考えられています。

予測困難な環境変化が次々と起きるVUCA時代に適応して競争力を高める為にも、D&Iの推進は重要です。
 
そして、世界レベルで取組が進んでいるSDGsの達成においても、D&Iは不可欠です。
 
SDGsの基本理念は“誰1人取り残さない(leave no one behind)”であり、そのすべての目標でインクルージョンな姿勢が求められます。
 
SDGsの17の目標の中でインクルーシブ(包摂的)という言葉は、目標4、8、9、11、16で使用されています。
 
また、“あらゆる”、“すべての”という言葉も頻繁に使用されています。
 
地球上の“誰1人取り残さない(leave no one behind)”ことを誓うSDGsは、あらゆる人が排除されないことを意味するインクルーシブと非常に近い理念といえます。
 
目標4の“質の高い教育をみんなに”では“すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。”とあります。
 
経済力や性別、障害の有無などに関わらず、すべての人が質の高い教育を受けることができるように環境を整えることを掲げた目標です。
 
学校教育の他、フリースクールや職場での職業訓練、生涯学習なども含まれます。
 
教育は、経済的自立や様々な課題を理解して解決策を導く為の根幹であり、SDGsのその他の目標達成にも欠かせないものです。
 
目標8の“働きがいも経済成長も”では“包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。”とあります。
 
経済成長や生産性だけではなく、働きがいのある人間らしい雇用が求められています。
 
日本では働き方改革が推進されていますが、労働人口の減少や少子高齢化、過労死問題など…、まだ多くの課題を抱えています。

インクルーシブの視点で考えると、女性、若者、外国人、障がい者など、社会的立場の弱い人たちの活躍が推進されることが求められます。
 
目標10の“人や国の不平等をなくそう”では“各国内及び各国間の不平等を是正する。”とあります。
 
包摂的という文言は使用されていませんが、性別や年齢、障害の有無、国籍、人種、宗教などによる差別や不平等の解消を目指す目標です。
 
貧困問題を解決する国際的な活動から、国内における男女格差の是正、労働同一賃金の推奨、障がい者や外国人などのマイノリティの雇用まで…様々な取組が行われています。
 
環境を整えるとともに、ひとりひとりが偏見をなくして、多様性を尊重し合うことが何よりも大切なことです。
 
目標11の“住み続けられるまちづくりを”では“包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。”とあります。
 
人口が集中する都市では、大気汚染やゴミ問題、住宅不足などの様々な課題が発生しています。
 
持続可能なまちづくりの為に、スマートシティの推進や廃棄物の削減、再生可能エネルギーの導入など…様々な取組が進められています。
 
インクルーシブなまちをつくる為には、ユニバーサルデザインの導入などのハード面、地域の交流やマイノリティへの理解などのソフト面も合わせて、すべての人が自分らしく生きられる環境を整えることが重要になります。
 
ここでは改めて、目標8の“働きがいも経済成長も”を詳しく見てみます。
 
ターゲット8.5で“2030年までに、若者や障がい者を含むすべての男性及び女性の完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)、ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する。”とあります。
 
そして、ターゲット8.8には“移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全で安心な労働環境を促進する。”とあります。
 
企業がインクルージョンを推進するメリットや効果としては、優秀な人材の確保と定着、生産性の向上とイノベーションの創出、企業ブランドのイメージアップが挙げられます。
 
インクルージョンの推進によって、企業は優秀な人材をより幅広く受け入れられます。
 
伸び伸びと実力を発揮できて働きがいのある環境は、優秀な人材の離職を抑えて定着率を高める効果が見込めます。
 
個々人が尊重されるインクルージョンな環境は、従業員のモチベーション向上が期待できるのと同時に生産性の向上にも繋がります。
 
更に、多様な属性の人材の活躍はビジネスに多角的な視点をもたらして、固定観念に囚われないイノベーション創出にも繋がります。

インクルージョン推進の取組は社会的に重要視されているので、推進施策の情報開示はステークホルダーからの評価向上をもたらし、企業PRを助けることで、企業ブランドの価値向上が実現すれば業績や採用活動への相乗効果も生みます。
 
インクルージョンはこのようにメリットがありますが、その実現は容易ではないかもしれません。
 
特に日本の風潮としては、まだまだ課題があるのかなと思います。
 
インクルージョンを推進するにあたって、企業は従業員の理解や意識改革、行動の変容が求められます。
 
その際に、従業員からの反発が予想されます。
 
そして、従業員が具体的な行動を起こせるような制度やルールの策定も重要になります。
 
従業員の理解を得て、制度やルールを浸透させるまでには、相応の時間を要すると考えられます。
 
長期的であり、継続的な取組が求められます。

インクルージョン施策を推進する際は、施策の軌道修正や見直しをすることも必要になると考えられます。
 
しかし、インクルージョンの進捗状況や成果は数値で測りにくいという特徴があります。
 
例えば、ダイバーシティの進捗であれば“管理職に占める女性従業員の割合”などの実態が把握しやすい数値がありますが、インクルージョンの場合は社内アンケートや従業員満足度調査などによる状況確認が必要になります。
 
的確で効率的な進捗状況把握の仕組が求められます。
 
インクルージョン施策を行う為の流れとしては、
 
➀経営トップの先導

➁インクルージョン施策を推進する組織体制の構築

➂制度やルールを策定して環境整備

➃意識改革と行動変容を支援

➄進捗の確認と継続的な改善
 
インクルージョンの推進は経営陣によるビジョンや経営方針の策定から始まります。
 
経営トップが先頭に立って、部門を横断した多様な人材による推進チームや社外の専門家の登用も念頭に置いた監査体制の構築を進めます。
 
その後は、経営トップと推進チームで連携しながら、インクルージョン課題に対する施策を講じて、制度やルールを策定します。
 
従業員の意識改革と行動変容を支援する為に、現場のマネジメントする管理職の育成や教育も重要です。
 
継続的に従業員の意見を集めて進捗を確認しながら施策を改善していく為には、社内アンケートやヒアリング、従業員の本音を拾い上げる提案制度などの仕組も有効になります。
 
これらのプロセスでインクルージョン施策を創出、推進していく為には、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)に対する気付きや問題意識を得ることが大切になります。

従業員の声を細かく拾い上げる機会や建設的な意見交換の場を設けたり、他社事例を研究したりする取組が求められます。
 
現状に満足しないで、継続的な改善の意識で取り組む必要があります。
 
社会のインフラ整備においても、インクルージョンは重要な要素になります。
 
ユニバーサルデザインは、ユーザーの身体能力の違いや年齢、性別、国籍に関わらず、すべての人が使いやすいように作られたデザインのことです。
 
多様な人が暮らす中で、ユニバーサルデザインは社会インフラの整備において求められる重要なポイントになっています。
 
近年、日本でも増えているインクルーシブ公園はその一例です。
 
改めてインクルーシブとは、日本語で“包み込むような、包摂的な”という意味です。
 
英語で“除外(Exclude)”の対義語である“Include(含める)”が語源で、誰も排除しない社会を目指す考え方です。
 
これまでの社会のあり方は、性別や人種、民族や国籍、出身地や社会的地位、障害の有無などによって、多くの人々を分け隔ててきました。
 
しかし、“誰1人取り残さない”をテーマに掲げるSDGsの達成に向けて、インクルーシブな考え方を、いろいろな場面で採り入れる動きが社会全体で広がっています。

近年では、すべての人が社会を構成する1人とする“インクルーシブ社会”や、障害の有無に関わりなく、ニーズに合った適切な教育を、地域の通常学級で学ぶことができる“インクルーシブ教育”もあります。

その中で、“インクルーシブ公園”が現在、普及し始めています。
 
インクルーシブ公園は障害の有無に関わらず、子ども達がみんなで一緒に遊べるように設計された公園のことです。
 
インクルーシブ公園の特徴としては、以下の5つの要素があります。
 
➀公平にアクセスでき、自立して遊びに参加できる(アクセシビリティ)

➁自分の好きな遊びを見つけられる(選択肢)

➂遊びを通して、相互理解が深まる(インクルージョン)

➃危険に晒されることなく、伸び伸びと遊べる(安心・安全)

➄わくわくしながら、自らの世界を大きく広げられる(楽しさ)
 
例えば、敷地内に段差がなく、車いすやベビーカーが移動し易かったり、遊具の高さを抑えることで、身体が不自由な子どもでも怪我の心配がないことなどです。
 
一般的な公園で遊びづらい子どもへの配慮が施されているのが特徴です。
 
何かしらの障害のある子どもや、そうではない子ども、それぞれ違う能力を持った子ども達が同じ遊具を共有して遊ぶことで、公園が遊び場であり成長し合える場となると考えられます。
 
全国には、たくさんの公園があります。

そんな市民に開かれている街の公園ですが、子ども全体の1割以上が通常の公園では思うように遊べていないと感じているようです。
 
聴覚障害や視覚障害、ダウン症、多動症などの障害があることで、公園を利用できていない子どももたくさんいます。
 
欧米諸国ではインクルーシブ公園が普及していますが、日本ではまだまだ初期段階です。
 
国内最初の事例として、2020年3月に東京都世田谷区の都立砧公園にできた みんなの広場 があります。

この公園敷地内には、ファミリーパーク、スポーツ施設、世田谷美術館など多彩な施設があり、その一角に みんな広場 が誕生しました。

広場の遊具の周りはゴムチップ舗装され、全体を柵で覆うことで急な飛び出しによる衝突が起こらないように配慮されています。

遊具のブランコは、一般的なタイプや、皿型、いす型の3種類があります。

身体を支える力が弱い子どもでも楽しむことができます。
 
立体遊具は緩やかなスロープで構成されていて、てっぺんの滑り台は車いすからも移りやすいように高さが調整されています。

また、お互いに回したり回してもらったりして楽しめる回転遊具もあります。

多様性のある遊具で、子どもたちが思い思いに遊ぶことができる広場として注目されています。
 
同じ年の9月に、としまみどりの防災公園(愛称:IKE・SUNPARK)の横にオープンした としまキッズパーク もあります。

車いすに乗ったまま遊べる箱型の砂場や、2人で乗れるベンチ型のブランコなど、親子でも楽しめる遊具が整備されています。
 
北海道でも、2023年になって札幌市の農試公園やさとらんど等がインクルーシブ公園として進化しています。
 
従来の公園の在り方では、障害のない子どもとある子どもが交流を持ち、一緒に肩を並べて遊ぶことは困難でした。
 
そうした状況が、障害に対する理解を妨げていたと考えられます。
 
子どもは遊びを通して成長します。
 
同じ場所で遊ぶことで、互いに違いがあることを理解することができると考えられます。
 
公園の環境を整えることが、誰も排除しない社会に実現に向けての大きな一歩であるとも考えられます。
 
障害のある子どもとない子どもが一緒に遊べることによって交流が生まれます。

公園に限らず、あらゆる人との交流が生まれやすい場所は、今後も更に求められると考えられます。
 
ちなみに、ユニバーサルデザインと類似した言葉に“インクルーシブデザイン”があります。
 
目指すものは近いですが、ユニバーサルデザインはデザイナーなど専門家が作るのに対して、高齢者や障がい者などの使う人の目線を起点として企画設計されたデザインを“インクルーシブデザイン”と呼びます。
 
ここからは日本のインクルーシブな取組を少し見てみます。
 
日本では、人口減少や地域の繋がりが弱まっている現状や、これまでの福祉制度や政策と、人びとが生活を送る中で直面する困難や生きづらさの多様性と複雑性から表れる支援ニーズとの間に、大きなギャップが生じてきたことを踏まえて、分野や世代を超えて繋がる共生社会実現を目的に厚生労働省が創設した事業として、重層的支援体制整備事業があります。
 
これを受けて、例えば、福島県では8050問題やひきこもり、ダブルケアなどの複合的な悩みを抱えている方や、従来の福祉制度の狭間にあり必要な支援が届いていない方を支援する取組として、包括的支援体制整備事業を実施しています。
 
そして、難民が失われた権利を回復することを目的に支援に取り組むNPO法人の難民支援協会もインクルーシブな取組の代表例です。
 
弁護士との連帯による難民認定の支援や自立支援、地域との繋がりをつくるコミュニティ支援などを行っています。
 
親の病気や貧困などの様々な理由によって、家族と暮らせない子どもと家族の支援を行っている団体に、SOS子ども村JAPANがあります。
 
里親制度を利用して、子ども達を受け入れて、子ども達は育親(いくおや)や臨床心理士、ソーシャルワーカー、医師などの専門家チーム、地域のボランティアによって育てられます。
 
ベルギーの移民を受け入れるシステムからヒントを得た仕組で、バディファミリー(公益社団法人トレイディングケア)があります。
 
外国人労働者と地域の人を結び、国や年代を超えた交流を通じて、文化や日本の生活ルールを伝えていく取組です。
 
情報弱者である彼らをサポートするのは当然のことですが、同質性の高い日本社会で様々な人と触れ合う機会を提供しています。
 
最近は、SNSを通じた、様々なマイノリティの人たちによる勇気ある発信などによって、排除されてきた人たちに気づくことができました。

しかし、まだまだ他にも、身近で気づかれていない排除はたくさんあるはずです。
 
インクルーシブ社会の実現の為には他者への理解が欠かせませんが、その為にはまず排除に気づくことが重要です。

利便性や効率を優先し、健常者と呼ばれる人たちによる“最大公約数的”な幸福を追求してきた社会から、これまで排除されてきた人たちを包み込む社会へとようやく変わり始めています。
 
しかし、日本の中枢を担う…社会を動かす中心の政治家の人たちがダイバーシティ&インクルージョンとは程遠い、世襲社会を貫き、堂々と差別発言をしてしまっている悲惨な状況でもあります。
 
政治家が生きている社会と国民が生きている社会は、ひょっとしたら既に別世界なのかもしれません。
 
だからこそ、国民ひとりひとりが、地域やこれまで関わらなかったコミュニティに参加してみたり、興味のなかった社会へも目を向けて一歩踏み込んで考えてみたり、インクルーシブな商品やサービスが生まれた背景を探ってみるなど……新しい気づきを探しにいくことは、個人でもできるインクルーシブへの取組だと思います。
 
インクルーシブの取組には課題もあります。
 
教育の面からみると、必要な教育環境の整備が追いついていないことが挙げられます。
 
必要な配慮も一般的な支援に留まっていて、同じ教室で学ぶということが重要視される一方で、個性を活かす教育にはまだ距離があるようです。

教員1人で見るには負担も大きく、人員不足も深刻です。

障害のない子どもたちがどう受け入れられるのかという懸念もあります。

経営面では、女性管理職を何%まで増やしたい、障がい者の雇用率を上げたいといった数値目標に縛られがちな現状があります。

数値目標を達成しても、それぞれが生き生きと働けていなければ意味がありません。
 
マイノリティの立場にある人が安心して働ける職場であること、ライフステージの変化に合わせた休暇や時短、在宅勤務などの制度を整えることなどの環境づくりが重要です。
 
D&Iは、まだまだ新しい考え方です。
 
理解が浸透しないままで進めてしまうと、過去の価値観から脱却できない人たちが取り残されてしまうことも考えられます。

現在のマイノリティがマジョリティになり、逆に現在のマジョリティがマイノリティになるのでは意味がありません。

マイノリティを優遇するわけではなく、“すべての人の為である”という意識改革が必要です。

もう人口も少くなくなり続けるわけで、日本では線引きや排除なんてものは不要な時代だと思います。

こんな時、ジョン・レノンさんの1971年の名曲「Imagine」が心に響きます。

今回の ふくしのおべんきょう の最後は「Imagine」の歌詞まるごと書いてしまいますか…。
 
想像してごらん、天国なんてないと
やってみれば簡単さ
僕らの下には地獄もない
上にあるのは空だけ
想像してごらん、すべての人がただ今日を生きていると
 
想像してごらん、国なんてないと
難しいことじゃないさ
殺める理由も死ぬ理由もない
そして宗教もない
想像してごらん、すべての人々がただ平和に暮らしていると
 
君は思うかも、僕が夢想家だって
でも、それは僕だけじゃないんだ
君もいつか仲間になってくれたら
そして世界は1つになるんだ
 
想像してごらん、何も所有しないと
君にも出来るんじゃないかな
欲張ったり飢えたりする必要もない
人類はみんな兄弟
想像してごらん、すべての人々が世界を分かち合っていると
 
君は思うかも、僕が夢想家だって
でも、それは僕だけじゃないんだ
君もいつか仲間になってくれたら
そして世界は1つになるんだ
 

写真はいつの日か…増毛町で撮影したものです。

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