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64.VUCAに福祉

“当たり前のことを当たり前にこなす”
 
日本の社会では今でもよく言われます。
 
その“当たり前”とはどういうことを言うのでしょうか…。
 
実際のところは人それぞれで“当たり前”という基準は違います。
 
多様性が求められている現代は、何かを伝えようとする時にはもっと言葉を選ぶ必要があるように思います。
 
同時に、自分が“当たり前”だと捉えていることが、相手の“当たり前”と一致しているのか…そういうことから考えないといけないものだと思います。
 
ひとつひとつの動作に根拠を持つこと……“当たり前”という言葉に頼っていてはいけません。
 
現代はVUCA時代と呼ばれています。
 
新型コロナウイルス感染症の蔓延やウクライナに対するロシアの軍事侵攻による影響など、世界では数年前に予測できなかったことが起こり、その影響で社会がめまぐるしい速さで変化しています。
 
VUCA(ブーカ)とは“未来が予測困難な時代”を指し、時代の特徴を表す以下の4単語の頭文字を繋げたものです。
 
Volatility=変動性

Uncertainty=不確実性

Complexity=複雑性

Ambiguity=曖昧性
 
もともとはアメリカの軍事分野で登場した用語ですが、今はビジネス場面などでも幅広く用いられています。
 
“未来が予測困難で時代の変化が激しい”ということ自体は、大正や昭和の時代から言われ続けていたことです。
 
戦国時代以前や明治維新の時代 なんて、もっともっと凄かったのではないかと簡単に想像ができます。
 
時代の渦中にいる人にとっては、時代変化はいつも急激であり予測が難しいものです。
 
その中でも、現代はITの発達やグローバル化を通じて、物理的、経済的、情報的に世界中がより“強く”、そして、“速く”繋がる時代になっていることは間違いありません。
 
街中の書店が苦戦を強いられている最大の原因はamazonです。
 
同じく、CDやDVDのレンタルサービスが廃れていく理由は、NetflixやSpotifyの普及にあります。
 
更に、最近ではITサービスのプラットフォームに対する規制などは政治的な要素も絡んできます。
 
世界中が繋がっていることで、海外での問題が日本国内での製品やサービス提供、経済活動に影響を及ぼすことも珍しくありません。
 
このように昔と比べて様々な要因から、現代はより未来予測が困難になっています。
 
Volatility=変動性は、変動の激しい状態を意味します。
 
半導体最大手である米インテルの共同創業者の1人であるゴードン・ムーアさんは、1965年に“半導体回路の集積密度は1年半〜2年で2倍になる”とコメントしました。

これは“ムーアの法則”として現在も有名です。
 
技術進歩を述べたものですが、技術進歩だけではなくサービスの普及スピードなども変動性は激しくなっています。
 
例えば、ここ十数年でのスマートフォンやSNSの普及スピードはその1つです。

また、現在は市場ニーズや消費者の価値観などの変化も激しくなっています。

変化に対応できなければビジネスが衰退する一方で、変化に追随、先取りできれば急成長のチャンスにもなり得ます。
 
現代に関していえば、IT技術の急速な進展、クラウドサービスの出現などで、どこかで生まれたサービスや価値観が一気に世界中に広がって、世の中に変化をもたらすようになっています。
 
Uncertainty=不確実性は、“この先の環境がどう変化するのか?”という不確実性な事柄が多い状態を意味します。
 
不確実性が高いと、事業計画などの見通しを立てることが困難になります。
 
例えば、日本国内で2020年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大がもたらした影響などは予測できない不確実な変化の典型といえます。
 
個人や組織は不確実性が増して想定していない変化が起こることを前提にして、対応する柔軟性を持ったりリスク管理をしておく必要があります。
 
Complexity=複雑性は、様々な要素や要因が絡み合っていて解決策を導き出すことが難しい状態のことです。
 
複雑性が高いと成功事例をそのまま活用することができません。
 
世界的には普及しているもので、日本国内で浸透し切らないキャッシュレス化の問題なども、複雑性の例として挙げられます。
 
キャッシュレス化の促進でいえば、例えば、ハードウェア、ソフトウェア、通信端末、人々の異文化への受け入れ、既存産業への影響、店舗などの利用事業者の負担や都合など、様々な問題が複雑に絡み合います。
 
複雑化に伴って、1つの国や企業だけでは問題を根本的に解決できないことも増えています。
 
Ambiguity=曖昧性は、“この方法なら問題を解決できる”という絶対的な解決方法が見つからないなど…曖昧な状態のことです。
 
変動性、不確実性、複雑性が組み合わさることで、曖昧な状態になります。

確実な解決方法が見い出せないということに加えて、白黒がハッキリしないグレーな状況、ケースバイケースによる判断が求められることも増えます。
 
ただし、曖昧性が高くなるからこそ、先を読んでリスクを取ることでチャンスが生まれるという側面もあります。
 
VUCA時代を乗り切る為には、どんな状態になるかを想定して準備しておく必要があります。
 
どんな状態になるのか…。
 
①想定外のことが次々と発生します。
 
経済、ビジネス、個人のキャリアなど…、あらゆるものが複雑さや変動性を増して将来予測が困難になります。
 
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大はその典型といえます。

コロナ禍自体も、予測不可能なものでした。
 
更に、コロナ禍を契機として働き方や人の価値観、ビジネスのあり方が、僅か数年で大きく変化しました。
 
コロナウイルスのような不確実性のある将来に備えるには、変化のトレンドを見つけ、そこに素早く対応していくことが必要です
 
②新サービスの登場によって市場が急激に変化します。
 
これからの時代、1つの新サービスが市場を激変させる可能性があります。
 
特に、当初からグローバル展開することを想定して開発されたインターネットサービスは数年で世界中に広がりました。
 
NetflixやSpotifyもそうですし、インターネットを軸にしたリアルサービス、AirbnbやUberなどのモデルも短期間で一気に広がり、既存産業に影響を及ぼしています。

従来のビジネスは“同じ業界の企業”が直接的に競合しましたが、今は“業界”という概念そのものがなくなりつつある部分もあります。

③今までの常識が覆されます。
 
想定外のことが次々と発生したり、新サービスの登場で市場が急激に変化したりすれば、今までの常識も覆されていきます。
 
前述したコロナ禍に伴うリモートワークの普及、それに伴うマネジメントの変化などは、今までの常識が覆された点も多いです。
 
すべての変化に追随することがビジネスにとって有効とは限りません。
 
ただし、無暗に変化を拒んだり、従来の常識に固執したりするのではなく、変化の方向を見極めた上で事業所の状況や事業特性を踏まえて対応する必要があります。
 
VUCA時代を生き抜く為には、個人のスキルを伸ばしていく必要があります。
 
①考え抜く力が必要になります。
 
現在、多くの仕事がITやAIに代替される時代になってきています。
 
単純労働だけではなく、これまで知識労働の典型とされてきたような仕事もAIに代替される可能性は大いにあります。
 
その中で必要なのは、人間にしかできない“考える力”を高めることです。
 
AIは過去の事例がない課題を解決したり、アイディアを生み出したりすることはなかなかできません。
 
AIができない“考え抜く力”を徹底して身につけることが、これからの時代で重要なスキルになります。
 
②感情を扱う力が必要になります。
 
感情労働の領域も、まだITやAIには苦手な分野です。
 
人間の感情や気持ち、気分は、科学でも解明されていない部分が大きいです。

数十年前から言われている“IQの時代からEQの時代へ”という変化は、AIの世界を踏まえてより進んでいます。
 
“考え抜く力”の重要性と併せて考えると、“知識と記憶の時代”から、“感情と創造の時代”への変化の時…と考えても良いかもしれません。
 
③幅広い情報収集力が必要になります。
 
競合の概念が変わったり、世の中に大きな変化が起こったりする中で、視野を広げて情報収集する力が求められます。
 
Web上の情報を素早く検索したり、大きなトレンドを見出したりする力も大切です。
 
同時に、顧客などとコミュニケーションを取ることや、チームや組織の枠を超えて、ネットワークを広げて幅広く一次情報を得る力も大切です。
 
④多様性を武器に変える力が必要になります。
 
多様性を尊重して、違いから相乗効果やイノベーションを生み出す力もVUCA時代を生き抜くポイントです。
 
多様性が増すことは、様々な価値観がぶつかり合って人間関係のトラブルが発生しやすくなるという側面もあります。
 
大切なのは、多様性を受け入れつつ、異なる価値観や意見を成果に繋げていくコミュニケーション力やファシリテーション力、そして人格です。
 
⑤アジャイル思考が必要になります。

変化の激しい時代、計画を立てることに時間をかけ過ぎてしまうと、ビジネスチャンスを逃してしまいます。
 
そもそも、VUCA時代に“完璧な計画”を立てることは不可能だともいえます。
 
従って、いきなり完成形を生み出そうとするのではなく、素早く試行錯誤する力が大事です。

試行錯誤しながら、常にアンテナを張って、迅速に軌道修正を行えるようにすることが求められます。
 
計画通りに物事が進まない場合、現状に合わせて臨機応変に対応する柔軟さも大切です。
 
⑥リーダーシップが必要になります。
 
VUCAの時代は変化が激しいからこそ、今までのようなトップダウンは通用しなくなります。
 
これからは個人や小チームのリーダーが意思決定することがより求められます。
 
適切な状況判断を行ない、複数の選択肢の中から行動を選択する決断力が求められます。
 
⑦曖昧さを受け入れる力が必要になります。
 
複雑性が激しい時代に、1つの基準ですべてを判断することは難しくなっています。
 
問題解決したり意思決定したりする上で、物事に白黒をつけるよりも曖昧さを受け入れる包容力も必要です。
 
前述したアジャイル思考にも繋がりますが、完璧や正解を求めていると大事な時に動き出せなかったり、意思決定できないことが増えてしまう場合があります。
 
VUCAに企業が対応する為に必要なことは、
 
①人材の育成が必要になります。
 
VUCAの時代には、多種多様なパフォーマンスを発揮できる人材の育成が重要です。
 
人材育成におけるリーダーシップや柔軟性、思考力やEQなどのスキルの重要性が増しています。
 
②迅速な経営判断が必要になります。
 
状況に応じて迅速に経営判断を行ない、柔軟に対応する必要があります。

将来予測も大切ですが、VUCAの時代は予測に時間をかけすぎると変化に乗り遅れるリスクがあります。
 
スピーディーに意思決定して、軌道修正を行なうことが重要です。
 
個人と同じく、組織や経営にもアジャイル思考が求められています。
 
③リスクに備える必要があります。
 
VUCA時代は、企業の社会的責任が強く求められる時代になり、企業が抱える潜在的なリスクはどんどん増してきています。
 
前述のとおり、2020年からのコロナ禍などはVUCA時代における予測不可能なリスクを象徴するような事態でした。
 
最近ではデータ化とネットワーク化が進んだ中で、個人情報の管理などもリスクをはらんだ問題になっています。
 
また、ハラスメントや勤怠管理などに関する社会的な価値観の変化、またSNSによる炎上リスクなどもあります。
 
アジャイル思考を取り入れたり、迅速な経営判断を実施したりする中でも、適切なリスクマネジメントを実施することが必要です。
 
“攻め”と“守り”、どちらも大切です。
 
なお、リスクマネジメントとは、リスクを取らないだけでなく、リスクを見極めた上であえてリスクを取ることも含まれます。
 
“リスクに備える”ことが重要とはいえ、守ってばかりいても変化には対応できません。
 
適切に守るべきポイントを見極めて守る、そして同時に、それ以外の領域では攻める…といった対応が求められています。
 
VUCA時代に有効な考え方として、OODAループがあります。

もともとアメリカ空軍で使用されていました。
 
PDCAに対応した概念で、以下4つの概念をループさせるという考え方です。
 
1.Observe(観察)

2.Orient(状況判断、方向づけ)

3.Decide(意思決定)

4.Act(行動)
 
PDCAが、計画⇒実行⇒検証⇒再実行を順番に実行していく大きな考え方だったのに対して、OODAループは大きな方針やゴールが定まっている中でアジャイル的に物事を進めていく考え方ともいえます。
 
PDCAの“P”で計画を作る難易度が増していることを踏まえて、ゴールや基準だけは明確にして早々に試してみます(“D”に入る)。
 
試してみる中で、OODAループを活用して、高速で試行錯誤を回していく。
 
その上で、ある程度の切りがいいところで、1度、立ち止まって検証“C”をして、次の大枠を定める“A”に移行するというイメージです。
 
もう1つは、VUCAプライムです。
 
これは、2007年にロバート・ヨハンセンさんが提唱したリーダーシップモデルです。
 
VUCAそれぞれに対抗する為の考え方を下記の4つで示しています。
 
Vision

状況が予測不可能なほど早く変化している場合、リーダーは目標や目的とヴィジョンにフォーカスし続けるべきとされています。
追いかけるヴィジョンは、従業員や顧客、取引先などの事業における各ステークホルダーを納得させられる、説得力を持つものである必要があります。
 
Understanding

何が起こっているかを正確に理解することは、事業の不確実性を低減する効果があります。
事業を進める上で計測できない不確実性に遭遇した場合、外部の政治的、経済的、社会的、技術的、法的及び環境的な要因について深く理解する為に調査や実験が必要になります。
 
Clarity

予測不可能な事象にぶつかった時には、可能な限り状況を単純化して捉えてみます。
簡素化して物事を捉えることは、必要な意思決定を容易にします。
 
Agility

今まで行ったようなことがない施策でも、有効と判断すれば、迅速に意思決定して取り組みます。
迅速な判断や行動は、ビジョンや目標を達成するに当たって非常に有効です。
事業所のマネジメントや組織開発、人材育成を振り返る視点として、有効に活用できます。
 
将来が予測不可能で変化が激しいVUCA時代を乗り切る為には、しっかりと準備しておくことが大事です。
 
現状や従来の常識に固執して変化に対応できなければ、すぐに時代に取り残されてしまいます。
 
組織としては、リスク管理の視点はしっかりと持った上で、人材育成を通じて、変化に柔軟に対応していけるマネジメント、組織開発を進めていくことが大切になります。
 
多国籍、ジェンダー、性格、得意不得意など、様々な観点において多様性ある人材経営が大切になります。
 
変化に対応した会社運営を行うには、多様性という観点が非常に重要です。
 
多様性ある人材経営をしていれば、その時々の外部変化に対応できる内部の人材が、外部変化への理解やリーダーシップを持って企業の方向性を見出すことができると考えられます。
 
逆に、ある特定の分野や考え方の社員しか存在しない人材経営では、皆が同じような思考を持つ傾向にあるので、外部変化に対する理解や適切な対応策が浮かびにくくなります。
 
企業としての価値観など全員が共有すべきこともありますが、“異質”を認めることが大事だと思います。

イノベーションを促進する組織である為には、多様なバックグラウンドを持った人材がいた方が良いと思います。

日本では、そういうのを排除したくなる人が多い傾向がありますが…。
 
AIなど…進化はしてますが、人間は昔から変わらない…本来持つべき力を身につけて発揮すれば乗り越えられる時代だと思います。
 
 
最後にブッダさんの名言です。
 
“過去を追ってはならない。未来を期待してはならない。

今日、まさに成すべきことを熱心に成せ。”


写真はいつの日か…恵庭市で撮影したものです。


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