パリ軟禁日記 41日目 それでも、ハラは減る
2020/4/26(日)
街中を駆けていると、春から夏にむけて少しずつ季節が動いていることがわかる。
2週間前は葉がまばらだった街路樹は、今や青々とした葉を繁らせている。公園の近くの花壇には色とりどりの花が咲く。速度が遅くなっているのは人間が営む経済活動だけで、地球は回れば他の生物たちの営みは変わることがない。
僕の生活の速度も今遅くなっている。ここ数日は特にやる気が出ない。そういう日は生きていれば、どうしたってやって来る。避けられないことは知っていながらも、毎回「来たか」と身構えずにはいられない。そういう日は、雨の日が終わるのを待つように、粛々と僕は休む。もちろん、予定が許せばではあるけれども。
今日は休日だった。軟禁生活が始まって以来、友人とのビデオチャット以外、プライベートに予定というものは特になくなっている。今日も1時間ほど友人と話した。お互い元気そう、と言ってとりとめのないことを話した。在宅ワークが始まってから、友人の会社では契約書のデジタル化が始まったそうだ。社内稟議を通すために7個も8個もハンコをもらったり、社長サインを得るために苦労した前職での記憶が蘇った。やればできるんじゃん。
今、僕にとって最も煩わしいことは食べることだ。何を食べたいか考えることも、それを満たすために必要な材料を調達することも、調理をすることも、片付けることも、何もかもが面倒だった。軟禁生活が始まった最初は、作ってみたいレシピもあったけれども、今やそれらも作り尽くし、ネタ切れだった。
それでも、ハラは減る。
なんだか映画のタイトルみたいだ。空腹を避けることは、残念ながら不可能だ。脳の満腹中枢を刺激する薬で食欲を抑えることはできたとしても、それでは根本解決になっていないし、なんかちょっと怖い。僕の頭にあることはいかに多くの作り置きをして調理の回数を減らし、迅速にことを済ませるかということだった。
軍事博物館の堀の向こう、敷地内の大砲の隣に子ウサギの姿が見えた。よく見ると1匹だけではない。5匹くらい姿が見えた。前からいただろうか?空から降ってくることはないから、誰かが放したのだろうか。20時を過ぎてもまだ日は沈まず、クロウタドリのさえずりが聞こえる。
動物たちは春を謳歌していた。
あちら側に行きたい。もしくは光合成ができるようになりたい。
叶わぬ夢想をしつつ、僕は今週どこかで昼テイクアウトの電話を入れようと心に誓った。
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