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パリ軟禁日記 15日目 「やっぱりフルで」

2020/3/31(火)
ハーフマラソン大会に出たと思ったら、途中で主催者から「やっぱりフルで」と言われて、「えー」と思いながらも21km地点を通過した時の気持ち…。これが今の心境である。

このレース、正直終わりが見えない。思いつきで参加して、なんとなく走り続けているけれど、疲れがないと言えばウソになるだろう。コース風景は悪くない…、しかし、同じ場所をぐるぐる回り続けているので少々モチベーションも下がってきた。21kmを走り切った達成感がありつつも、なんだかまた途中で「ごめん、やっぱウルトラマラソンにしよう!」と言われそうな予感も漂う。

まあ、行けるところまで行ってみよう。歩いてもいいようだし、タイムを競い合う相手もいない。沿道にはちらほらとソーシャル・ディスタンスの2mを空けた観客もいる。ポケットにはスマートフォンもあって、好きな音楽を聴いたりしながら走ってもいい。どうやら棄権しないことが重要のようだ。

外出禁止令が出たのが2週間前の火曜日。今日がもともとの最終日だったけれど、想定どおりやっぱり延長された。次なるゴールが4月15日。軟禁中に人は何を考えるのだろう、という好奇心から日々思いついたことを書く記録も本日で15日目。気楽でありつつも、毎日書くのはやっぱり楽ではない。そもそも、思い出す限り、こんなにまめまめしく日記をつけるのは初めてではなかろうか。着実に残っていく足跡もあり、進んでいる実感もある。これはいい兆候だと思う。軟禁明けには何か別の風景が見えるかもしれない。

晩酌をしながら本を読むのも日課になった。カミュの『ペスト』は第2章に入り、アルジェリアのオラン市にペストが広がり、市民は隔離状態になった。人々の考えること、行動様式が現在のものと重なり合う。

「そこにはまだ、いくつかの家族が事態を軽くとらえ、用心することなくこの機会に両親にもう一度会ったり、子どもたちを家に招いたりする欲望を優先させた(拙訳)。」

この例はまさに1ヶ月前のフランスであり、いまの日本かもしれない。第2章はこう続く。

「それでも、最も重要なこととして、この(孤独の)苦悩がいかに痛ましかろうと、いかに空っぽの心で生きるのが重苦しかろうと、ペストのこの第一段階で隔離された人は恵まれた人々である、と言えるだろう。」

このペースで読めば、隔離期間が終わる頃には物語の結末を見届けているはずだ。今日も健康であることに感謝して、明日からのレースに備えることとしよう。

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