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【小説】『マダム・タデイのN語教室』10/10

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(10回中10回目:約1500文字)


ディデクション


 それからひと月も経たないくらいだったと思うけど、お隣のご主人がやって来た。
「すみません」
 私はちょうど庭先に出ていたところで、私には胸の高さくらいの板塀越しでの話になる。
「しばらく、一週間ほど家を空けるので……、留守中何かあったら」
「ええ。いいけどどこに行かれるの?」
「D国に」
 あら、って私は嬉しい話みたいに聞き取った。
「このところ、しきりに行きたがるので……」
 目線を家の方に向けて、ステファニーの希望だって事が分かる。
「結構な事じゃない。区切りが付けられるなら付けて来たら」
「ロウ!」
 お隣の玄関扉が開いて、色が濃くなったように見える金髪が外に飛び出して来た。
「ヒコーキは、ジカン、きまってある。はやく、とじまり」
「飛行機か……」
 ため息をつきながらご主人は、家の方に向かって行く。
「おねがい! わたしは、ヒコーキつかいたい。ロウと、いっしょのジカン、たくさんつかう」
 ああ髪を後ろで一つ結びにしているから、色が濃くなったように見えるのねって、近付いて来る様子を見ながら思っていたけど、バックパックを背負って動きやすそうなパンツ姿に、カーキ色のざっくりしたトップスを着ている胸は、平らだ。
「ステファニー?」
「セツコさん」
 私を振り向いて、「エヘッ」と笑ってくる感じは、確かにステファニーなんだけれど、思い返してみれば結構低めの声だったり、背の高いご主人に、自分からキスしに行ける身長だったりしていた。
「はい。ワタシは、シュテファン、です」
 おお私は教えるのを断念した丁寧語が入ったぞ。
「ロウは、オンナノコすきだから、オンナノコのカッコウ、しかたない、ておもってたけど、ホントウは、オンナやオトコじゃなくてワタシの、ソンザイがすきて、いってくれた。だから、ワタシはロウのツマ、です」
 そして前よりも長い文章が作れてしかもスムーズになってきている。
「ロウも、ワタシのツマ、です。ワタシも、ロウのソンザイがすき、だから」
「戸締まり、確認したよ」
 スーツケースを手にしたご主人が戻って来て、
「あいさつ」
 とその唇にキスをした。ご主人は私の視線を気にして後ずさって、
「人前で、その挨拶はしないんだよシュテファン」
 少し赤くなって言い聞かせている。
「(貴方はいつも人前とか気にしないじゃない)」
「(いつもは皆さんに、君が女性だって、思ってもらってたから!)」
「(それは変だ。男同士が見せちゃいけないなら、男女でだって見せちゃダメだよ)」
「D語同士で夫婦喧嘩しないでくれる?」
 ため息ついでに言ってやったら、ピタッと止まって二人とも、笑顔を向けて来た。
 お隣の家の門を出て鍵をかけて、
「すみません。じゃあ、よろしくお願いします」
「セツコさんホントウに、すごく、とてもありがとう。ワタシD国いく! さようなら!」
 私の家の前の道を、手を振りながら駅の方に向かって歩いて行く。私も手を振り返して二人が見えなくなった辺りで、自分の家を振り返って、
 もしかすると、役割を変える事にしたのかしら、
 って思ったら、あの取り澄ましたご主人が、次会う時には、奥さんに? とか思い浮かんでつい吹き出しそうになったけれど、もちろん他所のお宅の内側なんか、無理に知る必要もありません。
 家に入って扉を閉めて、背中にチャイムが鳴る音を聞いた。


イントロダクション
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ディテクション

 
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 ところでこの話の全容はpixivにネーム形式で公開しているんですが、
 わりとセンシティブな内容でもあり、
 pixivアカウントが無いと見られないと思われます。

 しかも私は漫画として完成させられる技術を持っていないので、
 気に入って下さった方がいましたら、かつ、
 ある程度は使えるようでしたら使って欲しいです。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!