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【小説】『奇人たちのシェアハウス』4/6

 枌。21歳女性。

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(6回中4回目:約1300文字)


ヘギの部屋


 ヘギさんはみんなの中で、唯一、自分のクセを隠していない、ことになっている。
「部屋にいる間はとにかくずっと、音楽を、聴いていたいの。ヘッドセットじゃ満足できないの全身に浴びるみたいに、聴き続けたいのそれが、やめられないだけ」
「カッコいい」
 ってマカリは小馬鹿にした調子で笑ってたけど、多分自分が鳴らすソロバンの音を気にしていたから、部屋割りに困っていたヘギさんに隣に入っても良いと言っていた。
「いいよ音楽くらい。メガネのブスやネクラよりずっと」
 ヘギさんはマカリと同じくらいには、小馬鹿にした調子で返していた。
「この家に集められて、自分の奇行も隠してんならあんただって御同類でしょ」
「俺は数合わせだよ。教授に頼まれて来てるだけ」
「へえぇぇ。時々2時間置きの召集すっぽかすくせに」
「それもだから、バグチェックだろ。本当に機能してんのかって」
 白々しい笑顔で言い合っている二人を、コザイさんとワフーラはただ困った感じに見ていた。
 正確に言うとヘギさんは、音楽を聴いている、というより新しい曲に出会う度に、その歌詞の拍数を、指折り数えてしまう、そしてメモを取る、一曲の歌詞を最後の行まできっちり数え切ってしまうまで、同じ曲をリピートし続ける、そして分かってはいたけど当てはまらなかったって、溜め息をつく、その様子を誰にも見られたくないだけ。他にそんなことしてる人、誰もいないから。
 歌は七五調が美しいんだよって、まだ小さかった頃に大好きだったおじいちゃんから教わって、それ以来のクセになっている。
 それはもちろん和歌の話で、一般的な歌じゃない、まして洋楽なんか絶対に当てはまるわけがないって、大人になったヘギさんはもうちゃんと分かっているんだけど、ずっとカンチガイしてきた恥ずかしさもあって、今更後になんか引けないって、意志が強いのか弱いのか良く分からないことを言っている。
 マカリほどボクのことが、好きじゃないわけじゃないみたいだけど、コザイさんやワフーラほどボクのことを、すんなりマスコットだって思ってくれたわけじゃなかった。
「未来から来たんだったらアース、未来で起きること教えてよ。おっきな事件とか災害とか」
 そうした質問にはボクは、あらかじめセットされてある答えを選ぶことになっている。
「ミライワ、キミタチガ、ツクルモノダ。ワタシガ、コタエルコトワ、デキナイ」
「あーもう、やめてよそんなんじゃなくて。アースあんたはどう思ってんの」
「ドー」
 セットされていない答えは、入力するのに時間がかかるし、ボクに聞こえてくる声にはボクの気持ちなんか乗ってくれないから、ボクにだってどこかヘンに感じるんだ。
「あんた、本気で自分のこと、本当に未来から来たなんて思ってんの?」
「オモッテル。デモ」
 入力するのに一生懸命になって、どう答えて良いのか正しいのか、分からなくなる。
「ホントーヲ、イウト、ホントーニ、イワレテルノワ」
「良いよ時間かかっても。ゆっくりで」
「ボクノ、イルベキトコロワ、ミライダヨ。ウウン。ミライニシカ、オマエガ、イラレルトコロワ、ナインダヨ」

コザイの部屋 | ワフーラの部屋 | マカリの部屋
ヘギの部屋 | 居間 | アースの部屋

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