【小説】『奇人たちのシェアハウス』3/6
真狩。19歳男性。
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(6回中3回目:約1300文字)
マカリの部屋
ワフーラを呼び捨てにしているのは、ボクが多分みんなの中で、ワフーラのことが一番好きだからなんだけど、
マカリを呼び捨てにしてしまうのは、マカリのことが本当を言うと、そんなに好きじゃないから、って言ったら、お父さんからは叱られてしまうんだけど。
「お前はこの時代の事を知らないんだから、人の表面だけを見て判断してはいけないよ」
とかって、言ってくるんだけどボクは、マカリの中身の方が好きじゃないんだよって、思う。
ボクにはよく、分からないけど、この時代では顔が結構良いらしいことと、みんなの中でも特にレベルが高いらしい理系の大学に通っていることを、ずいぶん自慢に思っているのは、良いんだけど、その分他のみんなを、特にワフーラを、馬鹿にしているように見える。
ボクのこともそんなに好きじゃないみたいで、テレビ台から掴み上げたり放り投げたり、そうかと思うと「気色悪っ」とか呟きながら、床に放り捨てるみたいに転がしたりしてくる。
ボクの身体はちっとも痛くないけど、気持ちが痛い。
あと転がされたまま長い時間、壁や床しか見えなくなるのはさみしい。他のみんなに見付けられたらすぐに、拾ってもらえるけど。
部屋の中でマカリは何をしているかって言ったら、ソロバンを触っている。
居間のテレビに昔の家電とか、技術が映る度に苦笑して、「今時こんなもの」って、口癖みたいにぼやいてるのに、厚みがあって重たそうな、木で出来た古いソロバンを、触り出したら一時間でも二時間でも、特に計算する様子でもなくただひたすら、はじき続けている。
はじかれ続ける珠の音を聞きながら、心はどこかに行っちゃってるみたいだ。隣のヘギさんの部屋から聞こえている音楽が、曲の合間なんかで途切れた数秒だけ、手を止めるくらいで他は、家の中では必ずみんなに着けてもらっているリストバンドに、「相手をして」ってボクが2時間置きの連絡を入れるまで、ソロバンに向かっているテーブルのその位置からちっとも動かない。
時には連絡をしても動かなくて、そうなるともう2時間は出て来ない。
マカリは毎日の記録も、ほとんど書き残してくれないから、はっきり分かって言えるようなことは、そんなに多くないんだけど、
そのソロバンが大好きか、大好きだった人のソロバンかで、パソコンなんかでプログラミングとか高度な数式とか扱っているよりも本当は、マカリはただソロバンが使えるようになりたかったんだろうなって思う。
「彼は、実に優秀な学生だからね。他のヒケンシャと同じようには扱われたくないんだろう」
って言うお父さんの方がもしかしたら、表面だけを見てるんじゃないのかな。
ヒケンシャ、って何、って訊いてみたら、
「お前の、お友達の事だよ」
って言ったけど、それにしてはどうもオトモダチと、同じような響きに聞こえない。
字は、どう書くの、って訊いてみたら、
「覚えてもお前には書けないだろう」
って、教えてもらえなかった。後で、こっそり調べてみようと思っていたんだけど。
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