【小説】『奇人たちのシェアハウス』1/6
古財。20歳男性。
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(6回中1回目:約1300文字)
コザイの部屋
同じ家に暮らしている、みんなの中で、コザイさんは誰よりも症状が軽いと言えるかもしれないけど、だからこそ自分の、趣味というかクセというか悪癖というのか、とにかく愚行を、絶対に誰にも知られたくないと思っている。
部屋に帰り付いて即、机の隣の棚の奥に隠してある、爪楊枝がみっちり詰まった薄っぺらいプラスチックケースを、ひっくり返して中身を全部机一面にバラまいた上で、一本一本拾い集めては元の通りにみっちりと、納め直すまでは自分の気持ちが落ち着かない。
小さな頃はカギっ子で、よく夜遅くまで一人で、お留守番をさせられていた時に身に付いてしまった習慣で、他の行為では代わりが利かないらしい。あと何年も使い続けているそのプラスチックケースが、指になじんでちょうど良いらしい。時にはみっちり納め直したその後で、もう一回、更にもう一回とひっくり返す時もある。だけど、コザイさんはまだ軽症だなって思えるのは、三回を超えることが滅多に無い。絶対に無いと言っても良いくらいだ。
大学生になってまで、何をやっているんだってコザイさんは自分に呆れ返っている。これまでこのクセに費やしてきた時間を、もっと有益な何かに使えたんじゃないのかって、だけど、
ボクに言わせれば、どれだけ時間がかかったとしても、家の外から部屋に帰って来た後の約30分で済むみたいだし、それで気持ちが落ち着いてくれるのならまだ良い方じゃないのかなって思う。
ボクの話をしておくべきだろうか。本当は、かなり迷っていたんだけど。
ボクはアース。
未来からやって来た、ロボットで、このシェアハウスのマスコットキャラクターとしていつもは、居間のテレビ台の上に座っている。
アースって名前はもちろん、地球って意味。ボクがいた所では、日本人が独自に開発して使っていた、カタカナ発音の英語が、すっごく面白がられて今大流行しているんだ。
ボクを作ってくれた、お父さんが、ボクが欲しがっていたお友達を、4人も連れて来てくれた。お父さんの知り合いの人たちに話して集めてもらった、大学生のお兄さんお姉さんたちで、お金を払わずこの家に暮らし続けて良いよって、その代わりに、時々ボクの相手をしてあげて欲しいって、頼み方をしている。
ちょっと、ヘンだなってボクも思ったけど、そう正直に話したら初めてみんなで居間に集まった日、コザイさんだけは笑ってくれた。
コザイさんはこの家に住み始めてからの記録を、毎日きちんと書き残してくれて、みんなに知られたくないって思ってることも、ボクだけは読ませてもらえて知ることが出来る。
マインスイーパーとかテトリスとか、トランプでタワーを作る、みたいなゲームにも弱くて、いつまでもいつまでも時間を忘れてやり続けてしまうから、自分の中で最大の禁止事項にしている。どれだけ良いスコアを出せても何段も高く積み上げ切れても、達成感が無くて、
もっとじっくり壊したくなって、またイチから積み上げたくなってしまう、らしい。
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