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令和5年度 NPO法人Piece of Syria事業計画書(前編)外部要因とこれまでの歩み

2023年9月に理事会が行なわれ、2023年度の事業計画・予算についての承認されました。
私たちの活動の方針をお伝えするために、noteに掲載いたします。
(後半はこちら)


1 .今年度の事業実施の前提となる外部要因

① 大地震を受けて、教育状況が悪化が進むシリア

 2023年2月、私たちの活動地であるトルコ・シリアを大地震が襲い、両国で6万5000人以上が犠牲となりました。シリアでは180万人以上が被災し、30万人以上が家を失ったと言われています。特に国内避難民が多く生活をするシリア北西部では、半数以上の学校が影響を受けました。

 しかしながら、緊急性の高さがわかりやすい、医療・住居・食糧への支援が集中した結果、教育支援が後回しになり、地震で破壊された校舎の復旧は進まずに、戦争によって悪化した就学率はさらなる低下が見られます
 さらに、戦争に加えて地震によるトラウマからの心のケアのニーズが高まりました。戦争・地震に伴う避難生活は、保護者・先生を含む大人達にも負の影響を及ぼしており、家庭内不和や教師の意欲低下につながる可能性があり、子ども達だけでなく大人も含めた心理社会的ケア事業の必要性が増しています。一方、教育を受けていない状況が続くと、子ども達が学校に戻らなくなるので、「教育もまた緊急性が高い」という現地NGOからの声があるが、現状は地震後の支援の中で、教育は後回しになっています。

地震によって家を失った方も多くいます(2023年)

② 大統領選、経済悪化によって、シリア難民へのヘイトが高まるトルコ

 シリアの隣国トルコには、戦争開始後から多くのシリア人が避難し、現在最も多くのシリア難民が住んでいます。トルコで逃れたシリア人は、「Kimlik」という一時的な外国人ID登録を行なうと、教育・医療を無料で受けることができます。営利企業からシリア支援のNGOの起業もできるなど、他の近隣諸国と比べると住みやすい国だと考えられていました。

トルコにて。アラビア語で書かれた看板(2017年撮影)


 しかし、トルコの通貨リラが暴落し、物価が高騰、経済が悪化していくなかで、「シリア人のせいだ」というヘイトが高まっていきました。実際には、シリア人は海外からの支援や自分で働いたお金でトルコ経済に貢献しています。

ですが、シリア人の受け入れに対して肯定的だったエルドアン大統領に対する攻撃として、野党側が「私たちの生活が悪くなっているのはシリア人のせいであり、それを進めているのはエルドアン大統領ではないか。私たちの税金はシリア難民のために使われている」という主張を行なったと言われています。

エルドアン大統領の再選が決まりましたが、もし野党が勝利していたら「トルコに住む数百万人のシリア人が、シリアに送り返されていただろう」と話していました(トルコ在住シリア人からのヒアリングより)。

地震で建物が壊れ平地になったトルコ南部の街(2023年)

 トルコ人と同じく、物価高騰に苦しむシリア人ですが、トルコ政府はトルコ国民への配慮を余儀なくされ、Kimlikを持っているだけのシリア人が働くと不法労働となるなど、生活がどんどん厳しくなっています。地震の後の支援についても「トルコ国籍を持っている人が優先されており、私たちには届いていない」と、シリア人からの声もあります(※と、同時に、トルコ政府は国籍の区別なく、本当に素晴らしい支援をしてくれている、という声も聞いています)。

 トルコ国民への配慮と両立しながら、シリアの人たちが不安定な状況の中であっても将来の希望が描けるような支援が必要とされています。

差別を受けることも、逆に快く受け入れてくれることもある、と聞いています。


③ 予算1億円以下の規模の国際協力NGOは、縮小傾向

 令和4年度外務省NGO研究会によると、10億円以上の団体は成長している一方で、10億円未満の中規模団体は成長が鈍化し、1億円以下の小規模な団体は縮小傾向が見られました(2015年度と2019年度を比較)。

また、同報告書には、助成金主導型の団体が厳しい一方で、寄付型の団体が成長していること、積極的な投資姿勢がある団体が成長率が高いという点も指摘されています(「日本の国際協力NGOの資金調達リデザイン化と財務内容の強化」2023年3月)。

2 .前年度の歩み

<必要となった継続性>

 Piece of Syriaは、任意団体からNPO法人となり、2年が経ちました。2016年に設立した際は「支援が不要になること」を目指し、敢えて継続性を求めずに、社会人プロボノを中心に活動をしていました。

 しかし、2011年に始まったシリアの戦争は終わることなく続き、仮に戦争が終わったとしても10年以上の戦禍によって、すぐに元通りにならないと考えざるをえませんでした。

 一方で、支援のニーズが高くなっているにもかかわらず、戦争が長期化・膠着していくと、シリアに関する報道も減り、シリア支援は減少傾向にありました。そこで、私たちは報道に左右されず、「シリアをまた行きたい国にする」というビジョンを掲げて、継続的に組織を成長させながら活動をしていくことを決めました。

対面での活動報告会を東京・大阪で実施しました(2023年)

<団体の基盤強化を進める>

 2020年から外部コンサルタントに協力していただき、組織基盤強化を進めていました。
 さらに2023年から有給職員の雇用を始めました。社会人プロボノだった鈴木が、専従職員として事務局業務に従事し、過去に2000万円のクラウドファンディングを成功させた経験がある坂田が、非常勤スタッフとしてファンドレイジング業務に従事しています。今まで活動を共にしてきた社会人プロボノと共に、より安定的な成長ができる土台を作っています。

 代表の中野は、朝日新聞の「ひと」欄に掲載されて以降、テレビ朝日に15分の特集を受け、2023年8月発売のNewsweek日本版の特集「世界が尊敬する日本人100」に選ばれました。また小学生向けの図書「好きな場所ではたらく」(岩崎書店)にて、中野の半生が紹介され、団体の認知と信頼を成長させています。


<シリア国内の幼稚園支援>

 シリアの幼稚園事業は、現地の教育ニーズの高さに対応するため、生徒数を100人から200人、そして300人まで増やしています。トルコでのシリア難民向けの補習校事業については、維持・継続しています。どちらの事業も、物価の高騰と円安で予算が増える中、ご寄付をしていただける方を増やして対応することができました。

午前と午後の2シフト制で各150人ずつが授業を受けています


 2023年2月の地震の際は、すぐに現地スタッフと連絡を取って状況を確認して緊急支援のためのクラウドファンディングを実施しました。1200万円が集まり、シリア国内で被災した700世帯にテント・食料・毛布・家の補修のための現金給付を実施することができました。

 次年度に向けて、コロナ禍のため2019年以降、渡航できていなかったトルコに、2023年7月、中野と鈴木が訪れました。団体設立以来、活動を共にしてきた現地パートナーNGOの事務所を訪問した後、運営支援をしているトルコの補習校にて活動の成果を確認しました。

<現地のモニタリングの強化>

 さらに他のシリア支援NGOの事務所を訪問し、ヒアリングを行いました。その中で、事業の質を高め、活動を広くしていくために、外国人の入れない事業地を訪問できるシリア人協力者に、第三者視点でモニタリングを実施する必要性が明らかになりました。

 そこで、認定NPO法人パルシックにてプログラムオフィサー・チームリーダーとして事業管理をしていた経験のほか、数団体でプロジェクト管理経験を持つヨーセフ氏に依頼し、現地の評価・モニタリング事業を進めています。

複数のNGOを訪問し、ヒアリングさせていただきました



(後編)「今年度の重点的な活動」に続きます


読んでいる方が「面白い!」と思ってもらえるような形で、私たち国際協力夫婦らしい形でサポートを使わせて頂きます。めぐりめぐって、きっと世界がHappyになるような形になるように!