見出し画像

忘れるという愛について

また、本を衝動買いした。寺山修司の『ポケットに名言を』だが、これは長年温めている欲しい本リストには入っていなかった。本当に、思いつきで買った本。歌人で劇作家のその人が選ぶ名言とは、果たしてどんなものだろう。ふと興味がわいたのだ。

本の中では、映画のセリフから聖書にいたるまで、あらゆる名言が引用されているが、それらは独自にカテゴライズされ、タイトルと著者の序文が添えられている。なかでも特別に心を打たれた一説を、書き留めておきたい。

私には、忘れてしまったものが一杯ある。だが、私はそれらを「捨てて来た」のでは決してない。忘れることもまた、愛することだという気がするのである。
 寺山修司『ポケットに名言を』

この章のタイトルは、「忘却」。愛とは結びつかないように見えても、著者の生きた時代をおもえば、歴史や革命といった言葉の数々が選ばれていることは、自然でまっとうなことなのだろう。一つ目の名言には、まさに寺山修司の忘却の愛が集約されている感じがしてならない。

地上に存在する地獄を、黒人は美へと昇華させ、芸術的貢献であるジャズをもたらしたのである。
マックス・ローチ


もうひとつ、好きな詩の一節も書き留めておく。忘却と相反しているようで、やはりその深意はおなじだと思うのだ。

さよならだけが 人生ならば またくる春は なんだろう
寺山修司 「幸福が遠すぎたら」

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?