シェア
萬
2016年6月14日 01:49
流れ去る景色に滲んだ背骨を縛られてやがて肉体に対する嫌悪は怒りに変わり時間は輪郭を持たない影たちに付き添われ暗い瞳で硝子に映る見知らぬ顔を覗き込む
2016年6月11日 15:22
いってきますと後に残した空白に声をかけるたぶん部屋はいつまでもそのままに欠けた心の帰りを待ち続ける
2016年6月11日 12:45
窓辺に枕を置いて横たわり読みかけの開いた頁を胸にのせ眠るわけでもなく目をつむり休日の昼の明かりをめくり読む
2016年6月10日 10:40
おやすみなさいと誰に言うでもなく口に出してみるすると遠く離れていた眠りがそっと優しく側に横たわった
2016年6月6日 18:28
口から零れた昨日の私を拾い集めてひと欠片ずつそっと指先で繋ぎ合わせる繰り返し行われてきたささやかな儀式は足元に積み重なってゆく幾つもの体と共に見慣れた顔を過ぎ去った輪郭の裡に失くし組み上がった歪な姿に乾いた声を聞く恐れは消え覆う土の温かい静けさだけが閉じた瞼を柔らかい月に向かって開かせる
2016年6月5日 04:32
足元に広がる空に向かって水底の小石の中を落ちていく体は月明かりにはためいて暗い水面は澄んだまま僕の重さに流れる風が驚いた
2016年5月25日 11:34
一羽のすずめが側にやって来たぴょんぴょん飛び跳ねながらときおり思い出したかのように立ち止まっては首を少しかしげ小さなつぶらな瞳で僕を見上げた空っぽの青いポケットに触れて何も入っていないよと言うとすずめは音もなく身を翻しわかっていましたという風に軽々と仲間のもとへと飛び去った一羽のはとが足元にやって来たぴょこぴょこと足を引きずってときおり微かに喉を鳴らし折れ曲がった赤い
2016年5月23日 06:50
I君の手が暗い光を放つ手摺りに触れた時僕はかつてここが深い森の中であったことを思い出した深い深い森の中梢が幾重にも重なり合い僅かな光もその葉に捕らわれて延々と編み上げられた静物の誰の目に触れることもなく誰をも逃さぬ陰影の奥底で君は白く柔らかい光を放っていた深い深い森の奥存在し得たはずの全てから誰一人に気づかれることもなく厳かに築かれた景色の中で澄んだ街の匂
2016年5月21日 11:40
ある朝目覚めると僕の祖父は見ることを失った病気の妻と幼い子供と共に生まれた地を離れ病院を転々とした後、微かに光を取り戻したがそれでもその殆どを失ったまま寝床から起き上がることのなくなった祖母の跡を追ったある朝目覚めると僕の父は聴くことを失った妻と子供達を負った頑健な身体は病み衰え病室に座り込んだ後、僅かに音を取り戻したがそれでもその殆どを失ったまま自らのかつての姿を忘れられずに
2016年5月21日 00:48
ダンボール箱から子犬が僕を見上げていた不安そうな顔をして悲しそうに鳴いている思わず近寄り両手を差し出し抱き上げた湿った鼻先 折れ曲がった耳に潤んだ瞳しがみ付こうと太く短い足を突き出して弱々しく鳴きながら微かに身を震わせた腕の中の毛むくじゃらな小さな体は暖かい僕はこの栗毛色を連れて母の待つ家に帰るこうなるのは最初から分かっていたけれど僕は泣きながら胸に抱えた生き物を連れていま
2016年5月19日 16:14
私は壊れた景色いつもどこかが歪んでいる言葉では説明できないけれどただそこにあるだけで何かが少しずつ崩れてゆく私は景色であるがゆえに確かな身体を持たず自分を見ることもできないただ私を映すその瞳の中にいつも困惑の徴を見る欠けているわけではないただ私の存在ぶん余計に調和は平衡を失う動物が生まれながらに立つことを覚え食べることを覚え鳴くことを覚えているのならそしてそ
2016年5月19日 00:10
空っぽの浴槽に柔らかい手を差し入れて確かめるように在るべき身体を掬いあげる掌の裡の幽かな重さは透明な面影を残し少しずつ指の間から零れ落ちた
2016年5月18日 03:41
はしれはしれ子供達その気持ちでいられるのもいまのうちいつかオオカミがやってきてばらばらになった靴だけが君をすこし思い出す
2016年5月18日 03:38
I 洗面鏡に備え付けられたスイッチに触れ僅かに力を入れる。プラスチックの枠が撓み、指先の傾斜が滑り落ちる。乾いた音。橙色の灯りが点く。眼前の電球が熱を放ち始め薄い瞼が熱くなる。台所から差し込む光は姿を消し、朧気な部屋の輪郭は掘り起こされ、露わになった影は無防備な縁を纏う。肌寒い季節、明かりの色は暖かい。白い壁紙、白い洗面台、白い洗濯機、白い色の全てが夜の許で陽に染まる。あるいは秋の色。その下で