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【本棚から冒険を】椋鳩十まるごと愛犬物語(児童書)

 わーい!わーい!
 楽しみにしていた猪肉が届きました!
 昨冬に「ポケットマルシェ」を知り、小さい頃からの夢その1「ぼたん鍋を食べたい!」を叶えるために猪肉を注文しました。そのお肉がとてもおいしかったので、今年も注文していたのです。 

●スライスされているので料理に使いやすい!●

 猪肉の素晴らしさはまた別の機会に語ることにし、今回はなぜ「ぼたん鍋を食べたい!」という夢をもつに至ったのかを記すことにします。

 あれは私が3年生の頃--。とある土曜日のお昼、小学校の体育館で上映会がありました。タイトルは「マヤの一生」。作者の名前は難しくて読めませんでした。悲しいお話だったことだけ覚えています。
 そこから数年後、私は再び作者の名前と出会いました。それも国語の教科書の中で。タイトルは「大造じいさんとガン」。
 大造じいさんの生きざま・猟師としての誇りに、幼いながらも感銘を受けた私は、本屋さんで「椋鳩十」の名前を一生懸命探しました。そこで見つけたのがこの『椋鳩十まるごと愛犬物語』で、表紙の犬がかわいかったのですぐに買ってもらったのです。

 この作品には8つの短編が収録されており、7匹の犬が登場します。
 捨てられていた犬を拾う(現代では”保護”と表現しますね)話、事情があって捨てられた犬が学校で飼われる話、気が弱いけれど忠実な犬の話、『マヤの一生』の一節など、一般家庭で飼われている犬が題材となっている作品が4つ入っていました。
 しかしそれよりも興味をもったのは、猟犬の話でした。遠山郷(長野県)の山で猟をしながら暮らす田中さんと愛犬トラの物語は、涙なしには読めません。

”遠山郷は、伊那谷のうちでも、一番山奥の里です。
 どちらを見ても、山また山の、南アルプスの山麓に、ひっそりとある山村です。人の住む里まで、クマが、のそのそとあらわれたり、イノシシやキツネやテンは、すぐうら山を歩き回っています。(中略)
 狩り犬にとって、かかすことのできない条件があります。それは、犬と持ち主との、気持ちが、ぴったりあっているということです。
 犬が狩人を愛して、愛する者のためには命がけで、えものに、立ち向かうということです。(中略)えものに向かう犬は、狩人が、心から犬をかわいがることによって、はじめて、できるのです。”

椋鳩十『まるごと愛犬物語』フォア文庫

 田中さんが何よりも大事に育てたトラは立派な猟犬になります。田中さんと相棒トラが来れば仕留められない獲物などいない、とまで言われるほどになるのですが、とある狩りの日に突然2人の別れがやってきます。

”昭和二十二年の暮れであった。田中さんは、トラを連れて、イノシシ狩りにでかけた。
 そのころはまだ、ひどい食糧難のころで、肉と名のつくものなら、なんの肉であろうと貴重品であった。
 イノシシの肉ということになれば、それこそ、とびきりの貴重品中の貴重品。だから、いくら高くふっかけたって、かれらのいい値で売れた。”

椋鳩十『まるごと愛犬物語』フォア文庫

 イノシシを探すものの、食糧難で多くの人が山に出入りしておりなかなか足跡が見つかりません。ようやく見つけたのがアナグマの巣でした。半ばがっかりしながらもトラにアナグマを追い出させたところ…トラは細い岩の裂け目に落ちてしまい、上がれなくなってしまうのです。

 この作品は人間と犬の温かい交流が描かれていますが、決して「犬ってかわいい!」「なでなでしたい!」というような内容ではありません。苦しい時代を人間と一緒に生き抜いてきた犬たちとの、絆の物語です。

 犬たちの強さ、逞しさ、人間への忠誠ももちろん心に残ったのですが、幼い私には「貴重品中の貴重品」という言葉の方が強く残りました。どんな味なんだろう、豚とは違うのかな、どうしてスーパーでは売っていないの?…疑問は尽きず、いつしか「食べてみたい!」と強く願うようになりました。

 これが私の「ぼたん鍋を食べたい!」という夢をもつに至った経緯です。
 この思いが強かったからこそ、『まるごと愛犬物語』を今まで大切に本棚にしまってきました。
 作品ももう一度読み返し、ぼたん鍋を食べる準備は整いました。いざ!

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