ある患者さんの一言「私が病気でよかった」
医療現場には多くの患者さんが入院をしてきます。
スポーツで怪我をした人
事故をした人
病気になった人
そのほとんどの人がリハビリが必要となります。
何百人と患者さんと出会ってきましたが、今回はその中の1人の患者さんとのエピソードを紹介したいと思います。
ある患者さんの「私が病気でよかった」の一言
その女性はもう半年以上も病気と闘うために入院をしていました。
体調もよくない日々が続き、起き上がることすら出来ない日も多くあるような方です。
私も病気や治療のことについて勉強をしていますので、その患者さんの苦しみを頭では理解しているつもりでしたが、どうしてあげれば良いのか分からず悩みました。
そうして月日が経ち、徐々に治療の効果がみられ少しずつリハビリもできるようになってきて、私たち医療従事者もほっとしていました。
これまでの治療について患者さんが振り返っていたときのことです。
「(患者さん)長かった・・・もう半年もたったんですよね」
「(私)そうですね。すっかりと季節も変わってしまいましたね。本当に良く頑張られました。」
「(患者さん)治療をしている時、その副作用で死にそうになるくらいしんどくて、もういっそのこと殺してとまで思ったこともあった」
「(私)そうでしたか。あの時は本当につらそうでした。」
「(患者さん)あの時、死にたいって思うくらい辛かったんだけど、そんな時に家族からの電話があると一瞬でそんな気持ちがなくなっちゃうんだよね」
「(患者さん)家族に会いたい、また一緒に生活がしたいっていう思いがジワッと出てくるの。死にたいなんて思ってごめんねって。頑張るねって」
「(私)たくさん家族から支えてもらっていたのですね。だからここまで頑張ることができたんですね。良い家族ですね。」
「(患者さん)私ね、この病気になって思ったことがあるの。普段の生活がどれだけ尊いものかって。普段、意識しないじゃない?当たり前すぎて」
「(患者さん)病気だってわかったとき、なんで私なの?って本当に悔しかったし、怖かった。そしてこんなにもしんどいでしょう?」
「(患者さん)でもね、私が病気になってよかったって思うの。こんな辛い思いをするのが、夫や子供たちだったらって想像するだけで胸が張り裂けそうになるの。」
「(患者さん)家族の中でこんな思いをするのは私だけで良い。この先、夫や子供たちがこんな思いをしないように私が全部引き受けてやるって決めたの。だから頑張れたのかな。」
私はこの時、何と返せば良いか分かりませんでした。
「どこまでも家族に対して真っ直ぐ」な姿勢に驚かされました。
苦しい中でも家族を思う強さ
治療を受ける患者さんは自分の人生を常に前向きに考えているわけではありません。
時には怖くなったり、不安になったり、怒ったり、泣いたりと様々な感情を抱えながら病院で治療を続けています。
誰しも病気なれば、得に重い病気になった時などは他の人を思いやる余裕などはなくなります。
それでもこの患者さんは今の苦しい状態が家族に起こらなくてよかった「私が病気でよかった」と言えるのです。
家族への思いが人一倍強い人でした。そしてその思いが患者さんを強くさせました。
私たちは日常を当たり前に考えます。
当たり前に朝起きて、仕事をして、帰宅して家族と食事をとり、同じ部屋で寝て、また当たり前に起きて「おはよう」と家族と顔を合わせます。
当たり前の世界にどれだけ自分が支えられているのか、少し見渡してみようと思いました。
時に、患者さんは多くのことを教えてくれます。
「私が病気でよかった」の一言は私の中にしっかりと生き続けています。