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BOOK REVIEW 「天才はあきらめた」

(山里亮太 著/2018年/朝日新聞出版)

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「天才はあきらめた」なんてタイトルだけど、「ねぇ、山ちゃん、あんた十分天才じゃん!」

この本を読んでまず思ったのは、そんなこと。

そしたら、オードリーの若林が本編後の「解説」で、「山里亮太は天才だ」と書いていて、「だよね、そうだよね」となった。

この本は、昨年、世間があっと驚いた、蒼井優との電撃婚を果たしたお笑い芸人、みんな大好き山ちゃんが書いたもの。

モテたいという一心でお笑い芸人を志した高校時代から、苦しんだ下積み時代、お茶の間に衝撃を与えたM-1での快進撃、そしてその後のしずちゃんとの不仲期、それを乗り越えた最近のことまでが綴られている。

山ちゃん、さすが、ツッコミワードの魔術師。文章がおもしろいわ。修飾語や例えが多くて、一文が長いんだけど、それを無駄と感じさせない語彙のセンス。

家族や友人が笑ってくれたとか、偶然オーディションに受かってテレビに出たら近所中が大騒ぎしたとか、いろんなプラスのエピソードを自信にして、突き進んだ山ちゃん。

けれど、いざ歩み出すと大きな壁にぶつかる。実力が不足しているゆえの挫折である。けれど、その挫折をしっかりと糧にして、努力を重ね続ける。時に、ムカつく相手に対する「なにクソ!覚えておけよ!」という負の感情を燃料にしながら。

自信と劣等感(謙虚さともいうのかな)のバランスって、難しいなと、山ちゃんの生き方を見ていて感じた。それは何も山ちゃんに限ったことではなく、私はもちろん、誰の人生にも言えることで。

自信が過信に変わったとき、その自信に根拠がなかったとき、人は自分を大きく見せようと誰かを傷つけたり、必要以上に攻撃的になったりする。

劣等感が卑屈なレベルに達したとき、劣等感があきらかな努力不足から生まれたとき、人はツラい自分に酔ってますます努力を惜しんだり、ただ人を憎むだけの生産性のない状況に陥ったりする。

そのどちらをも経験することが、必ずしも良いとは思わないが、山ちゃんは過剰なまでの自信と劣等感に溺れて、どん底に落ち、やがて、そこから這い上がった。

そしてその副産物として、自信と劣等感の適度なバランスを身につけ、今に至っているんじゃないかなと思う。

それにしたって、山ちゃんの「デスノート」とも呼べるような、遺恨の想いを綴ったノートの中身がすごくて。

▶バイト先で「お前は売れない」と言ってサインを破り捨てたジジイ、売れた後、絶対にサインは断る

▶夜中に「プロデューサーに会わせてやるからコンビで来い」と言われて行ったら、そいつの女だった。第一声が「な?来たやろ?」だった。さらにその女に向けてネタやらされた。

売れる、売れたら本気でつぶす!絶対に一生許さない。眠くなったらあのスタジャンの顔を思い出せ!!起きろ!!ネタを書け!!あいつらを全て後悔させてやる。

▶養成所で「関東人おもんな」と言ってきた奴、全員許さない。売れて、すり寄ってきたときに名前忘れてる感全力で出す。

▶しんどそうにあくびしながら「この期はキングコング出たからもういいやんけ」と言った講師の作家、いつか売れたときに作家さんに声かけるときは真っ先に名前を外す。

などなど、怒りに満ちた言葉のオンパレード。でもね、すごくよくわかる、この気持ち。

私も腹立った奴のことは「一生忘れない」と思うタチで。「クソが。死ねや」とか心の中で思いながら、「へぇ、そうなんですかぁ」とか平気でやるもの。

ただ、私の悪いところは、それを自分の原動力に変えられないところだ。いつまでも呪いの言葉を吐き続けて、ストレスを溜めて、身体を壊しがち。

これからは、山ちゃんみたいに、怒りをガソリンに変えて、邁進できるようにシフトチェンジしよう。

とは言え、山ちゃんがノートに綴ったのは、こんな罵詈雑言だけじゃなくて。

テレビや舞台を見て、自分がおもしろいと思ったのはどんなところなのか、自分が舞台に上がって試した漫才のどこで客が笑ったのか、つっこむまでの秒数とウケ具合の検証結果…。

そんな芸の肥やしとなる努力の結晶は、100冊にもおよんだのだという。すごいよ、山ちゃん。たとえ怒りが原動力だったとしても、こんなに努力できるっていうのは、才能なんだよ。

「どんな自己啓発本よりもやる気がわいてくる本だ」

「なんのために生きてるのかわからない、とか言ってる奴に読んでもらいたい」

「人生でどういう視点を持つかで、変わると気づかせてくれる本です」

「山里亮太に関心を持つ人のみならず、成功の方程式を知りたい人全てにおすすめできる良本です」

Amazonのレビューには、こんなレコメンドコメントが並ぶ。

いちタレントのこれまで抱いた率直な想いと、やってきた行動とその結果を記した本が、これほどまでに多くの人を勇気づけるだなんて。きっと、本人もそう思っているに違いない。

そりゃあ、蒼井優も惚れるって。


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