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治療家のための文化人類学~治療の意味と目的~


文化人類学における「治療」とは


文化人類学において「治療」とは、

ヒトに起こった身体の異変に対して
その文化が持つ健康の形にそって
対処するものです。


「身体の異変」が
その文化の中で「異変」であると認識され、

その異変が生じた仕組みについて
その文化の中で考えられている
病気の観念に沿って判断され、

その文化の中で想像されている
命や人生のあるべき姿に
近づけるよう行われます。


これが文化人類学において
治療の意味するところです。


3つの治療目的


治療は主に3つの目的に分類されます。

これは整体臨床でも
よく活用される考え方であり、

バイオメディスン的な変化だけでなく、治療という行為によって影響を与える範囲をクライエントの生活や背景を含めて大きくとらえるものです。

①身体に生じた異変の回復

前屈ができないのであれば、
前屈可動域を改善する。

血糖値が高いのであれば、
血糖値を下げる。

そういった異変の「正常化」を目指します。
「バイオメディスン的回復」ともいえるでしょう。


②異変による苦痛からの回復

痛みによる苦痛を緩和し、
癒すことを目的とする治療のあり方です。

「疾病」「病」「病気」の3分類でいえば
「病」の部分にあたります。

クライエント個人が体験する
「経験としての病気」を癒すことであり、
「病の回復」とも呼べるでしょう。



③クライエントが属する社会や集団との関係性の回復

治療の目的を「痛みをとること」とする
考え方があるとすれば、

それに対して
「治療によって生活を豊かにすること」
とする考え方は、「社会的回復」という視点を持たせた考え方です。

近年のリハビリテーション分野では
症状の改善を目指すだけでなく、

「社会復帰」をリハビリの目的の一つに据え、クライエント関わるようになってきています。

この、クライエントと社会の関係性回復を目指すのも、文化人類学における治療の目的の1つです。


この3つは切り離せない

  1. バイオメディスン的回復

  2. 病の回復

  3. 社会的回復

この3つはWHOが掲げる「身体」「精神」「社会」の健康と対応するように感じられますが、こちらの記事に書いた通り、健康という非常に文化的で、統合的な概念に対して、身体、精神、社会は切っても切り離せない関係性があります。

バイオメディスン、生物学的医療が発達している文化圏では疾病に対して、その生物学的な異常を正常に正すことを治療の主たる介入方法として選択します。

しかし、

人間と神の関係性を修復すること”で、病気の鎮静化を図ろうとする文化圏では、「社会的な回復」が「バイオメディスン的な回復」の手段であることもあります。


アイヌ文化から考える治療の目的

例えばアイヌ文化では、
「全てのものに精霊や命が宿る」とするアニミズムという考え方が根底に存在します。
人間以外の生物・自然・現象などに宿った魂のことを「カムイ」と表現し、カムイの中には病気や災厄を司るものも存在します。

そうした災厄の精霊に対して、多くの文化圏ではその文化独特の「病魔避け」の方法が数多く伝統的に残っています。

アイヌ文化では災厄の精霊に対して追い払うでも、立ち去ることを求めるでもなく、上手く付き合いコントロールしていくことを目指します。徹底的に病原に立ち向かわなければならないと考える西洋医学の志向とは異なる「治療観」がそこにはあります。

アイヌ文化にとって災厄の精霊は風紀委員です。正しくない行いをした者のところに訪れ、病気をばら撒いていくと考えられています。

伝染病が流行すると、伝染病をもたらした神に対し「ハルエオンカミ」という歓迎の式典を行います。火を焚き、お神酒を捧げ、旅のためのお弁当を持たせることで快く旅立ってもらえるようにと願うのでした。

これがアイヌ文化における病気に対する治療であり、神々と人間の関係性を良好なものに修復することが、身体の異変を回復させる手段だとされていました。

これが当時流行した天然痘の治療さえ担っていたというのだから、大変興味深いことです。


まとめ

このように「治療」という行為は、身体的な回復、苦痛の癒しと緩和、人生を再構築する社会的回復の3つを目的として行われるものです。

身体的な回復のために社会的回復を目指すこともあれば、また苦痛の回復のために身体的異変を解消するよう試みることもあり、この3つの目的は切っても切り離せない関係性を取ることが多く、あらゆる文化圏で複雑に関連しあっています。

我々治療家としても、腰痛そのものが動作の制限として苦痛なのか、腰痛による感情的な苦痛を感じているのか、腰痛による社会的な苦痛に困っているのか、クライエントの「腰痛」という主訴から展開してさまざまな背景や認識を探ることがあると思います。

我々が伝える言葉や、介入、
作っていきたい関係性は、

クライエントにとって

身体的な回復を目的としたものなのか、
苦痛を癒すためのものなのか、
社会的な回復を図るものなのか、

よりさまざまな視点から臨床を見られると、
より多角的に症状の構成要因をとらえられますし、
治療家としての「深み」が出てきます。

我々が知らず知らずのうちに培ってきた「治療観」の土台を、文化人類学は形作っています。治療のこと、身体のこと、《以外のこと》からも治療のあり方を考えるヒントは得られるものです。

ご参考までに。


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